第八駅 圧縮
クソっ……
鍵も取れなかった……。
ビリッ!
手を出せ、ユウジ!
ユウジに左手の上腕部を
服を破った布できつく縛り止血する。
ハァーーー……
ハァーーー……
ったく、ザマァねえな……。
しゃべるな!
息を整えて落ち着け!
まさかオマエに落ち着けと
言われるなんてな。
その時、少し離れた場所から
何かが開く音が聞こえた。
なんだ?今の音は……。
9号車のドア開扉しました。
!!
!!!
おい、やったぞユウジ!
9号車のドアが
開いたみたいだぞ!
……あぁ、そうみたいだな。
行こう!
歩けるか?
まぁ……なんとか……。
アソコだ!
9号車に移ると
8号車との連結部付近のドアが
1箇所だけ空いていた。
あっぶねぇなぁ……。
駅でもないのにドアを開けやがって……。
よし、停車しているうちに
全員呼んで来て脱出するぞ!
しかし、ユウジは
左腕を抑えながら辛そうにする。
悪い……。大毅。
走るのは無理だ。
俺はここにいるから
お前がみんなを呼んできてくれ。
わかった。俺が行って来るから、
ユウジはここで待ってろ。
……スマン。
先頭車両を目指し
俺は次々と車両を駆け抜ける。
……それは4号車に移った時だった。
あと少しだ!
うぉ!?
背後の方で鈍い音がしたかと思うと
列車全体が大きく揺れた
何だ?一体。
死のゆりかごの圧縮を
前倒しで開始しました。
死のゆりかご?
圧縮?
また……
俺は急ぎつつも音と衝撃が気になり
連結部分の貫通扉の窓から
5号車の方を覗き見る。
あれは……。
窓越しに遠巻きに見る
5号車の先の6号車の車体が
歪んでいるように見えた。
見間違いかと思った俺は
目をこすり、再び6号車を見る。
ゴシゴシ
じぃー
その歪みは徐々に大きくなる。
俺は6号車の車体が
次第にひしゃげている事に気がついた。
圧縮……。
そういうことか……!
6号車の圧縮が終わると
大きな音と共に
再び車体が大きく揺れる。
ヤベェ……
後ずさった俺の足元が
べコリと形状を変え始める。
逃げろッ!
踵を返しこれまで以上に猛ダッシュで
車体を駆け抜ける。
2号車に移り
向かう先の窓には人影が見える。
見えた!
先頭車両だ!
……だが。
ウォッ!
これまで以上に強い衝撃に
俺はヨロヨロと体勢を崩しかける。
油断は禁物だ!
だが……。
先頭車両に着いたところで
圧縮は止まるのか?
一抹の不安を抱きつつも
今は先頭車両を目指すしか無い。
走りながら振り返ると、
2号車の後部は圧縮が始まっていた。
その一方で、
窓越しに見える貫通扉の向こうは
何事もないように見えた。
どういうことだ?
うっ!
ってぇ……
何かに足をとられた俺は
転倒し強烈に全身を打った。
足を見ると
そこには投げ捨てたバケモノの手が
しがみついていた。
チィ……しつこい奴だ。
チラッ
反射的に車両後方へ視線をやる。
迫り来る圧縮。
マズイ、急げ!
ぐッ!
上半身を起こすも、
腰を痛打したためか足が動かない。
止まってくれ、と言う期待も込めて
再び圧縮に目をやるも
その速度は増すばかり。
クソっ!クソっ!クソっ!
焦る俺の視界に
圧縮とは別のモノが入ってきた。
それは3号車を悠然と歩く人の影。
あれ……は…
ニヤニヤ
圧縮により迫り来る3号車の連結部。
その窓から覗くのは
薄笑いを浮かべたユウジの顔。
アイツ、なんで3号車にいるんだ!?
そして、アバヨと言わんばかりに
ユウジは左手を振っている。
アバヨ
俺は
飴細工のようにひしゃげた
鉄塊に身を飲まれ
視界が真っ赤に染まる。
そして、その赤色は
徐々に闇を帯びて
何も見えなくなった。
降車拒否
つづく