第七駅 停車期間



























たっくん……

拓海

ハァ…………ハァ……

大毅

まだ息はある!
何とかして病院に連れていければ助かる!

柚葉

でも、どうやって……。




悲嘆にくれる母子を前に



何もできない俺達は



手を出しあぐねる。



美香

……ねぇ。
停車している今って、
チャンスじゃない?

大毅

ん?

美香

『有益な情報は最後尾!』って
今なら器川に着くまでに
見に行けるんじゃない?

香織

そ、そうだわ!

大毅

最後尾か……。
行ってみる価値はあるな。

大毅

だが、バケモノはどうすりゃいいんだ?

柚葉

……。



表情が曇る俺の顔を


柚葉が心配そうに見つめる。

大毅

ええぃ、悩んでても仕方ない。
なんとかなるだろ。

大毅

山脚線は確か、10両編成だったな。

柚葉

大毅……。

大毅

ん?

柚葉

無事に戻ってきてね……。

大毅

あぁ……。
話し相手がいなくなったら
柚葉は一人ぼっちになっちゃうもんな。

柚葉

……。



俺は子供をなだめるように


柚葉の頭を軽く叩く。

大毅

よし、ちょっくら行ってくるぜ!

ユウジ

おい、ちょっと待てよ。




これまで干渉を避けてきた若い男が



俺を引き止めた。



大毅

ん?

ユウジ

……なぜ……気づいた?

大毅

あん?何がだ?

ユウジ

なぜ列車が止まる事に気づいたんだ?

大毅

あー……。

大毅

カンだよ、カン。

ユウジ

カン……か……。


若い男はそう言うと



不敵な笑みを浮かべた。


ユウジ

……。

ユウジ

……クククッ。

大毅

なんだ?気味が悪いな。
俺は急ぐんだ、もう行くぞ。

ユウジ

おもしろい、俺も最後尾に行くぜ。

大毅

さっきは勝手にしろとか
言っていたクセに
今度はどういう風の吹き回しだ?

ユウジ

お前の悪運の強さに興味があるんだよ。

大毅

なんだそりゃ?

ユウジ

生き残るには知識だけじゃなくて
運も必要そうだしな。

大毅

それより、オマエ、
連れの二人はどうなったんだ?

ユウジ

喉黒で降りたよ。
ラーメン食べるって言ってな。

ユウジ

俺もアソコで降りておけばよかったぜ。

大毅

まあいい、バケモノを相手にするのに
男手は多いに越したことはないからな。



利害が一致した俺達は





連れ立って2号車へと向かった。












柚葉

……大毅……。













大毅

最初の関門は2両目にいたバケモノだな……。





俺たちは連結部のドア窓から



2両目の様子をうかがう。




しかし、バケモノの姿は見当たらない。



ユウジ

どこに行きやがった?







連結部のドアを開け


俺は2両目を覗き込む。

大毅

そ〜……










大毅

うわぁああ!!



突如、俺は



横から出てきた手のようなものに



顔面を鷲掴みにされた。





ユウジ

落ち着け!
手だけだ、すぐ取れる。

大毅

なに?

大毅

ひいい、手だ!


俺は手にしたモノを放り投げる。

ユウジ

もう少し落ち着け。
悪運が強くてもパニックになる奴は
足手まといだ。

大毅

はぁ、はぁ……

大毅

……。
オマエは冷静すぎて
逆に気持ち悪いわ。

ユウジ

ユウジ。

大毅

ん?

ユウジ

俺の名はオマエじゃない。
ユウジだ。

大毅

あぁ、覚えておくぜ。
俺は……

ユウジ

大毅だろ。

大毅

ん……あぁ。
なんで……

ユウジ

ずっと他のやつに名前を呼ばれてんだから、イヤでも覚える。

大毅

あ……あぁ、そうだな。

ユウジ

さっきの急ブレーキでバケモノは
連結部の壁に激突したようだな……。


2両目に入った俺達は



先頭車両を振り返り



一面真っ赤に染まった連結部の壁を見る。













先程の急ブレーキに




バケモノも対応できなかったようだ。










俺はツイていない事に




かろうじて原型をとどめた手に




顔を掴まれてしまったようだ。






ユウジ

バケモノの体は俺達人間より脆そうだな。

大毅

ゾンビみたいなもんか?

































































変更される前の広告を思い出し




偶数車両に入る際には用心しつつ




最後尾を目指す。















偶数車両の壁は




ことごとく血に染まっていたものの




幸いバケモノの姿はなかった。










ユウジ

次が9両目だ……。

ぐがー!

大毅

うぉぉ!

ユウジ

でかい声を出すなッ!

うるさいなぁ……。
なんだよ、もう……。
人が寝てるのに。

大毅

あ、アンタ、人間か?

俺が人間じゃなかったら
なんだって言うんだよ?

ユウジ

あの急ブレーキの中でよく寝てられたな。

急ブレーキ?

あー……、なんか寝てる時に
押し付けられたような気がしたけど……

壁にもたれかかって寝てたから
よくわかんねぇな。

大毅

アンタ、今何が起こってるか知らないのか?

あん?

ユウジ

もういい、時間がない、放っておけ。

大毅

とりあえずアンタも気をつけろよー!






なにを気をつけろってんだ?














ユウジ

次が最後尾……10両目だな……。

大毅

偶数車両だ、用心しよう。






















静寂が広がる最後尾。










拍子抜けするほど簡単な行程に





これまで以上のバケモノの存在を




懸念していた俺達は




逆に罠ではないかと疑心暗鬼になる。



ユウジ

何もいなさそうだな……。

大毅

壁に血の跡もない……。
ここはバケモノがいなかったのか?

ユウジ

それなら好都合だ。
早く有力情報を探しだすぞ。







当面の安全が担保されると



俺達は手分けをして



有力情報を探し始めた。












\ピンポンパンポーン/

大毅

ビクッ!

ユウジ

ビクッ!




突如流れる車内放送のチャイムに




俺達は驚き身を跳ねる。




うこばっくん

おまたせしております、
車掌のうこばっくんです。

うこばっくん

申し訳ございませんが、
ネコの気が変わるまで
もう少し時間がかかる見込みです。

うこばっくん

そこでお暇な皆様のために、
これまでの生け贄さんを
御紹介したいと思います。

ユウジ

ピクッ

うこばっくん

それではご覧ください!




車掌の合図とともに



デジタルサイネージが切り替わり、




まるでスタッフロールのように




これまでの生け贄と思しき人物が




映しだされる。




本田 武

1匹目

江上 卓

2匹目

篠原 温子

3匹目

鮫島 芳雄

4匹目

井上 佳津子

5匹目

滝沢 慎吾

6匹目

秋山 賢一

7匹目








うこばっくん

以上、生け贄紹介でした♪









大毅

……。

ユウジ

……。







二人の間に沈黙が流れる。












大毅

おい、ユウジ!

ユウジ

あ?

大毅

オマエの連れが
死んでるじゃねぇか!!

ユウジ

あぁ……。
そうみたいだな。
俺も驚いたぜ。

ユウジ

喉黒で降りちまったのが
いけなかったのかもな……。

大毅

……それ…だけ…か?

大毅

仲間が死んだってのに
それだけなのかよ!!

ユウジ

悪いな、こういう性格なんだよ。

ユウジ

それに、今はそれどころじゃない!
早く有力情報を探すんだ!

大毅

く……、そうだが……。

大毅

後で詳しく聞くからな!

ユウジ

好きにしろ!









俺は再び紙面情報を



洗う作業に入った。








残存する生け贄は、残存する魂!?

すべての空間を繋げ!
並行する流れも混ざり合う。

常人は1。
覇者は5。
幼子は10。
神は10000。



大毅

確かに他とは違う情報だが……。
どうしろってんだ?






ユウジ

おい、大毅!




9両目側から調べる俺とは対照的に



最後部に移動したユウジが俺を呼ぶ。





ユウジ

これを見てみろ。






ユウジは



車掌室の前の床を指差した。








大毅

……なんだこれは?

その手を差し出せ。
ドアを開ける鍵となり、圧縮が捗る。





床には黒いモヤのようなものが広がり




その脇には剥がれ落ちた




中吊り広告。




ユウジ

中に何かあるな。






俺は目を凝らして



ゆらゆらと揺らめく闇の奥を凝視する。







大毅

……何かの鍵だな。

ユウジ

『ドアを開ける鍵』って奴か。







有力情報とはいえど、



鍵のその佇まいは



いかにも罠の餌だ。





大毅

取るのか?アレを……。

ユウジ

俺がやる。

大毅

なに?

ユウジ

そうでもしないと
お前は俺の事を信じないだろ。

大毅

……いや、それは。

ユウジ

時間がない!

ユウジ

俺がこの手で鍵をつかんでやる!

大毅

おい、まて!ユウジ!















という何かを潰したような音。





それに続けて絶叫が空を裂く。

















ゆらゆらと揺らめいていた闇は消え去り




鍵の姿も共に失せる。









その代わりに……






ユウジ

ハーーッ
ハーーッ












残されたのは左手を失った




ユウジの姿だけだった。
























降車拒否







つづく

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