タツキ

はー、緊張した。ミユのお父さんもお母さんも、とってもあったかくて優しくて……ミユが大事に育てられてきたんだなって感じた


 夕食を食べ終わり、タツキと私は二人きりで、私の部屋でくつろいでいた。

 タツキが、背を預けていたベッドの方へくるっと向き直り、顔をうずめて息を大きく吸い込んだ音がした。

ミユ

なにしてるの?

タツキ

なんかいいにおいするなって思ったら、ミユのにおいだ


 満面の笑みで恥ずかしげもなくそう言い、私の髪の毛を一束すくって匂いを嗅ぐタツキ。そしてその後、髪の毛にそっと口づけた。

ミユ

ちょっと……!

タツキ

慌ててるミユ、かわいい


 高校生のころからいつもこの不敵な笑顔を見ているのに、いつまで経ってもこの心臓は、タツキの笑顔を見ると暴れだす。きっとタツキもそのことを知っていながらこんなふうにいたずらを仕掛けてくるのだから、タチが悪い。


 ……だけど、そんなタツキの表情が、私はたまらなく好きなんだ。

タツキ

あ、懐かしいものみーっけ


 私越しに何かを見ているタツキの目線を追って見ると、そこには中学の卒業アルバムと高校のものが並べて置かれていた。

ミユ

あ、ダメ。中学のはダメ!!


 そんな私の主張は露知らず、私の身体を乗り越えてタツキは本棚の方へ。

 本当に、写真だけは見られたくない。

 あか抜けない頃の笑顔で写る写真は、彼氏に見せたくない写真間違いなくナンバーワンで、どうにか阻止しようとタツキの身体を引っ張ったけれど、そうそう容易く男の人の力に勝てるわけがなかった。

タツキ

いいじゃん


 さほど重要なことだと思っていなさそうな口ぶりだけれど、私にとってはなんとしてでもタツキが見るのを阻みたい。

 だから、タツキが机にアルバムを広げたタイミングで、その上から覆いかぶさった。

タツキ

……何してんの、ミユ

ミユ

阻止。……だって見られたら、タツキ私のこと嫌いになるかも

タツキ

そんなことありえないよ


 タツキはおかしそうにくすくすと笑いながら、未だに机に覆いかぶさっている私の頭を撫でた。

タツキ

でも、ミユがそんなにいやならやめよっかな

ミユ

うん。ぜひともやめてください

タツキ

いつか見せてくれる?

ミユ

うーん、いつかね。いつか。結婚したときとか

タツキ

わかった。楽しみにしてる


 タツキはそう言って目じりを下げた。

タツキ

じゃあこっちでも一緒に見よっか


 棚にあった高校の頃のアルバムを出す。私はもうさすがに大丈夫だろうと、中学のアルバムをぴったりと体に寄せながら、机から離れた。

タツキ

うわ、懐かしい


 ずらっと並ぶ懐かしいクラスメイトの顔。私たちの三年生のころのクラスは仲が良くて、一年に一度は年末に忘年会をやっていた。都合が合うとタツキと一緒に行っていたのだけれど、高校のころに比べてみんな顔立ちが大人になった気がする。


 もちろん自分たちも含めて。

タツキ

ミユ、大人っぽくなったね


 タツキも同じことを考えてたみたいだ。なんだか、ちょっと嬉しい。

ミユ

タツキもね


 そして、ふふふと二人で笑いあった。

5通目 実家の卒業アルバムの間(4)

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