ミユの母

こんにちは、タツキくん

タツキ

ご無沙汰してます。これ……ロールケーキです。もしよかったら皆さんで

ミユの母

あら、気を遣わせちゃったみたいで。ありがとう、みんなで食べましょう


 母はタツキと会ったことがあったから、にこやかに出迎えてくれた。


 ……問題は、リビングに座る父だ。別に怖い人ではない。けれど、テレビドラマの影響か、こういう時の父親は機嫌がよくないのではないか、と勝手に想像してしまって、私もなんだか緊張してしまう。

ミユの父

初めまして、いらっしゃい


 私の心配はよそに、ソファーにタツキと向かい合うようにして座る父は、温厚な表情で微笑んでいた。

タツキ

初めまして。ミユさんとお付き合いさせていただいている北川達樹です。ご挨拶が遅くなってすみません

ミユの母

そんなにかしこまらなくてもいいのよ、タツキくん。お父さんね、あなたが来るのを楽しみにしてたのよ。一緒にお酒が飲みたいって。うちには男の子がいないから


 父はそんな母の言葉を聞いて小さく咳払いをした。そんな二人の様子を見て、タツキは優しく微笑む。

ミユの父

いつも娘からお話しを伺ってます

タツキ

なんて言われてるのか……少し怖いです


 タツキが少しおどけてそう言うと、その場のみんながふふふと小さく笑った。

ミユの母

お茶でも飲みながら、ゆっくり話しましょう


 そう言って母が立ち上がると、合わせたようにタツキがスッと立ち上がった。

タツキ

手伝います

ミユの母

いや、タツキくんは座ってて!ミユ、お願い


 二人だけ残すのは心もとなかったけれど、まあいいかと深く考えず、キッチンへ向かう母について行った。

ミユの母

本当はね、お父さんとっても緊張してるわよ。タツキくんに負けずとも劣らずって感じね


 お茶を入れながら、お茶目に笑う母。

ミユの母

でも、今時きちんと挨拶に来るなんていい男だなって昨日の夜言ってたし、タツキくんも人当りがいいから心配なさそうね

ミユ

そうだね


 私はタツキが持ってきてくれたおいしそうでふわふわなロールケーキを箱から出して、母と一緒に小さく笑った。

 リビングでは、二人で楽しそうに談笑していた。どうやら、父の趣味であるゴルフの話に華を咲かせているようだった。

タツキ

ありがとうございます


 差し出されたお茶に、にっこりとそう返したタツキ。ロールケーキを置いたら、タツキが私の目を見てまるで心配はいらないよ、とでも言うように優しく目じりを下げた。

 母と私がソファーに座ったタイミングで、タツキが改めて背筋を伸ばして座り、姿勢を正した。

タツキ

それで……本日伺ったのは、ミユさんと一緒に住むことを許して欲しくて来ました


 空気がぴりっと張りつめたのがわかる。


 私はなんだか映画のヒロインにでもなったような気持ちで、その場を俯瞰していた。こんな日が本当に訪れるなんて……なんだか心がむず痒くてしかたない。


 タツキの真剣な瞳を見て、父は柔らかな笑顔を見せる。

ミユの父

私はミユが幸せならそれでいいんです。……ただし、泣かせたら許しませんよ

タツキ

ありがとうございます!ミユさんのこと、誠心誠意を尽くして幸せにします


 タツキが立ち上がり、勢いよく頭を下げた。

 あまりにもあっけなくて正直びっくりしたけれど、横で微笑んでいる母を見たら、もしかしたら母が事前に話していておいてくれたのかもしれない――そんなことを感じた。

5通目 実家の卒業アルバムの間(3)

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