キミが夢を変えるまで

#3 感染者








 俺と弓香。

 どちらかとすれ違った時に、感染、発症しているのではないか。


 その後何度か無理矢理別の違う道から本屋に向かってみた。すると、最初の男性や遠回りした時の女性以外の人が発症し、疑惑は確信へと変わった。

 むしろ、その可能性は十分あったはずなのに、疑いもしなかった自分を愚かしく思う。


 では、どちらが感染しているのか?

 確かめるのは簡単だ。タイムリープ後、俺が弓香に声をかけず、一緒に帰らなければいい。

 それでも弓香がウィルス発症の現場を目撃したのなら、感染者は弓香だ。

 弓香が目撃しなければ、俺が感染者ということになる。


 つまり、俺はまっすぐ帰って風呂に入ればいい。

 俺が感染者ならウィルスはそれで死ぬ。

 弓香が感染者の場合はまたやり直しだが、作戦の方針が変わる。


 昇降口から素早く離れ、他の人に会わないように、こっそり帰れば――


京森 弓香(きょうもり・ゆみか)

あれ? 高矢くん。いま帰り?

高矢 直基(たかや・なおき)

え?! ゆ、弓香……なんで

 靴を履き替えこっそり出ようとしたところで、弓香に声をかけられてしまう。



しまった、これじゃどっちが感染者かわからないぞ……

 どちらかがどちらかに、感染させたかもしれない。
 感染者を確定させるには、俺たちは会ってはいけないのだ。

どうしたの?
……あれ、いまわたしのこと名前で……?

……失敗だ

 それから何度か、弓香から逃げようと試みた。


 しかしことごとく見付かってしまう。

 正確には、逃げた先に彼女がいるのだ。

 男子トイレに逃げようとした時なんかは、入る直前に隣の女子トイレから弓香が出てきた。



 歴史の強制力。

 こんなところで、働かないでくれ!


 逃げるのを諦めた俺は、一つ、試してみたいことを思いついた。





京森さん

あ、高矢くん。いま帰り?

いや。ちょっと雨宿りしようと思って

あ~。雨、結構降ってるもんね~

実は傘が盗まれちゃったんだ

そうなの?! うわぁ。
そっか、それで雨宿りしてるんだ。予報では夜には止むんだもんね

あー……うん。京森さんは、傘あるの?

うん、持ってきたからね。そこの傘立て……に

……あれ?! 無い!
うちのクラスの傘立て、一本も入ってない!

やっぱり。京森さんのも盗られちゃったのか

ええ~!? 置き傘もあったよね?
ていうか他のクラスのはそこそこ残ってるのに! なんでうちのだけ盗っていくの~?

本当にな。酷い話だ

う~……今日は絶対、駅前の本屋に行きたいのにぃ

だったら、一緒に雨宿りしないか? 一応、予報では止むって話だし

ん~……でもいつ止むかわからない。
わたし、走って――

だ、だめだ! この雨じゃ、ずぶ濡れになるぞ! びしょびしょで本屋に入るつもりか!

あああ! それもそっか……。あ、でもちょっと弱くなってきたような

そんなことはない! 見た目以上に降ってるぞ!

た、高矢くん? どうしてそんなに、雨宿りを勧めるの?
わたしどうしても本屋に行きたいから、無理にでも行きたいんだよ

 首を傾げる弓香。

 やはり、一度決めたら曲げない彼女を説得するには、相応の覚悟が必要か。




京森さん!

え……た、高矢くん?!

 俺はその場に膝を突き、そのまま額を地面に擦り付ける。土下座だ。



頼む!
一緒に雨宿りしてくれ!

え、えぇぇぇ?!
や、やめてよ高矢くん! そんなのだめだよ、顔を上げてよ!

嫌だ! 京森さんが首を縦に振ってくれるまで、俺は土下座を続ける!

そう、決めたんだ!

き、決めちゃったの?
うそぉ……どうしよう

 一度決めたことはやり遂げる。
 そんな彼女にだからこそ、効果がある言葉だ。

 かなり強引で無茶苦茶な方法だが、弓香を曲げさせるにはこれくらいしなければいけない。

 それは、長い付き合いでよくわかっている。



もし一向に弱まらなかったら、俺がコンビニまでダッシュして傘を買ってくるからさ。頼む、それまで雨宿りしてくれ!

……そこまで言うなら、わかったよ。
しょうがないなぁ。決めちゃったことなんだもんね

ゆ……京森さん! ありがとう!

 ようやく俺が顔を上げると、そこには困った笑みを浮かべる、弓香がいた。



 ありがとう。そして、本当にすまない。


 傘は盗られたんじゃなく、俺が下駄箱の上に隠したんだ。

 それと、天気予報は夜に雨がやむと言っていたが、この雨は朝まで止まないことを俺は知っている。




 俺が試してみたいことは。

『ウィルス発症の現場を目撃する時間帯まで、弓香を他の誰とも会わせなければどうなるのか?』

 だ。

 もちろん、無駄かも知れない。その後誰かに感染し、発症してしまうかもしれない。

 だけどもう、他に手が浮かばない。
 なら、思いついたことをやってみるしかないのだ。



どこで雨宿りする?

教室に行こう。座れるし

 万が一誰かが廊下を通っても、教室内と廊下なら感染の心配は無い。



 俺と弓香は、帰り道で話す予定だった話をする。

 俺の家のこととか、本屋までの近道などの話。それからクラスのことなんかで盛り上がった。


 気が付くと、あっという間に時間が過ぎ。





 ウィルス発症の現場を目撃する時間は、とっくに越えていた。





なにも起きない……か。
よし、じゃあ本屋に行ってみるか――

            







京森さん。やっぱり雨止まないし、傘買って…………?

           








 と、寒気がした。


 立ち上がろうとしたのに、足が動かない。

 机に手を付こうとしたのに、指が動かず手が広がらない。




 見ると、指先がすでに黒く変色を始めていて、今にも崩れ落ちそうになっていた。






嘘……だろ。俺が、発症……?

高矢くん? どうしたの……って、
きゃっ!

            


 あっという間に壊死した手首が、ごとりと落ち、そこから血が噴き出した。




高矢くん!?
え、うそ、どうしたらいいの?

ああ……そう、か。
……感染者は……

           



 俺が発症したということは。





 感染者は、弓香だ。





失敗、だ。

……次で、終わらせるよ。弓香

      


 死ぬ寸前に精神交換機が作動し、俺の精神は未来へ飛ぶ。








 感染者は弓香だった。なら、どうすればいい?




 答えは簡単だ。






次のタイムリープで、弓香を風呂に入れてみせる!















続く

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