俺が最初の理事会に立ってから数年後…

 俺は、高層ビルの最上階の執務室で、仕事をしていた。

早乙女 麗明

私だ…
ああ、例の企画書なら読ませてもらった。
あのまま進めてくれ!

早乙女 麗明

私だ…
……こちらはOKだから、そのまま進めてくれ!

早乙女 麗明

全く、休む暇もありゃしない…

 俺は、スマホが鳴る度にPCに向かっていた手を放し、会話をして各種案件の決裁をしていく。

 俺は、あの理事会後、無事「医療法人早乙女会」の理事長となった。

 赤字経営を脱却すべく、俺は最初の理事会で看護師養成のための専門学校の樹立計画を打ち出した。

 少子高齢社会のこのご時世、看護師に対する量的ニーズが高まる中、俺の計画は的を得ていたようで、国からはすぐに認可が下り、1年後のスピード開校にこぎつけた。

 たいした広告宣伝を行わなかったにも関わらず、開校初年で定員を多く上回る受験者が集まり、翌年には定員を当初の3倍に増やし、病院の空き地に新たな教授棟の建設も行われることになった。

 その後も入学希望者の増加は衰え知らずで増えていき、拓海の提案もあって、医療事務、医療秘書、介護福祉等、医療現場のなり手を育成する学科を増設。

 更に、メディアや貿易、美容理容等の学科も矢継ぎ早に増設していき、病院内の敷地では手狭となった学校法人は、駅前にあった高層ビルを買収。

 駅から徒歩1分圏内にある、さまざまな職種を目指せる専門学校として、各学科定員を遥かに上回る入学希望者を獲得するようになっていった。

 一方、差益を確実に増加させている学校法人とは裏腹に、早乙女総合病院の客足は減少の一途を辿り、とうとう国から経営に関する是正勧告まで飛び出す始末となっていた。

 そこで俺は、この件に関する緊急理事会を開くことにした。

…今日の緊急理事会の議題は、一体何なんだ?

知らないんですか?経営に関する是正勧告が出ている、医療法人の話を!!

二宮理事!あなた、理事長の懐刀でしょう!?何か、今日の理事会について、話を聞いていないの?

二宮 拓海

私にも、今日の理事会について、麗明様……理事長は何もお話になっていません。

 扉を開き、会議室に姿を見せた俺の姿を見て、理事全員が一斉に起立する。

二宮 拓海

これより、早乙女グループ臨時理事会を開催いたします!

早乙女 麗明

二宮理事…ありがとう!
皆、座ってくれ。

 俺の言葉に、全理事が着席する。

早乙女 麗明

今日集まってもらったのは、他でもない…
国から経営に関する是正勧告が出ている「早乙女総合病院」を運営する、早乙女グループの医療法人に関してだ。

早乙女 麗明

実は、医療法人早乙女会を立ち上げた俺の両親の代から付き合いのある他の医療法人から、早乙女総合病院を買い取りたい旨、話を頂いた!

理事長!!それはつまり…

早乙女総合病院を手放すということですか!!

早乙女 麗明

平たく言えば、そういうことになる。

早乙女 麗明

早乙女総合病院に患者様を呼び込むための学校法人設立だったが、現在、早乙女グループの収益の大半は、この学校法人が担っている。

早乙女 麗明

そして、俺は次の理事会で、新しい早乙女グループの一員とも言える「株式会社」の設立を発案するつもりだ。

畑違いの業界に、こんなに早く参入して大丈夫なのか?

早乙女 麗明

皆、さまざまな意見があるだろうが、赤字経営を脱却できない医療法人は「餅は餅屋」に任せるつもりで、この買収話、了解してもらいたい!!

二宮 拓海

 俺の提案で設立した学校法人が成功裏を収め、ただの医療法人だった早乙女会が「早乙女グループ」にまで変貌を遂げたこともあり、俺の提案を覆す理事はいなかった。

二宮 拓海

麗明様。お疲れさまでした。

早乙女 麗明

拓海…拓海にはあらかじめ言っておこうと思っていたんだが…

二宮 拓海

いえ、お気になさらずに。
何とかなく、そうなるんじゃないかと思っていましたし…

早乙女 麗明

拓海!
病院はある意味切り捨てることになってしまったけど、俺は、早乙女グループを日本を代表するような団体にしていきたいと思っている。
これからも、力を貸してくれ!

二宮 拓海

かしこまりました!

二宮 拓海

本当に、これで良かったのだろうか…

 数日後、早乙女総合病院は買収され、その歴史に終止符が打たれたのだった。

 一方、「早乙女グループ」による株式会社の設立は、各業界に衝撃を与えると共に、早乙女グループの知名度は格段に上がっていくのだった。

episode5 に続く

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