警視庁公安部の部長をしていた

 と、サクラさんは言った。

 私は、素朴な疑問を口にした。

部長さんですか。ずいぶん若いですけど

私たち公安部の人間は、いわゆるスパイだ。キミたちと同じぐらいの年齢でスカウトを受け、すぐに実戦配備される。ただ、自慢するわけではないが私の歳で部長になるのは異例なことだ

それにしても若すぎますよお

いろいろあったからな。昇進する機会に恵まれた

はあ

詳しくは痴女3部作のうちの1つ、『THEY CHIJO』を読んでくれ。私の活躍が描かれている

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881414604

 サクラさんはドヤ顔でポスターを広げた。

 あまりにも堂々としていたので、私たちは口をぽかんと開けたまま、しばらく声もなかった。


って、宣伝かーい!

そうだ

あっ、開き直った

ん? 貴様、長上の者に対してなんだその態度はっ

 サクラさんは、いきなり小夜の腕をつかむと、後ろ手にして関節をキメた。

痛いっ、痛い痛い痛い痛いっ

くっくっく、どうだ参ったか

 サクラさんは、小夜を車に押しつけ、関節をキメたまま後ろからべっちゃり重なった。その後、小夜の耳もとで、

根性を叩き直してやる

と嬉しそうな顔で言った。

ごめんなさいっ、ごめんなさいごめんなさいっ

 小夜は悲鳴のような、だけどちょっぴり嬉しそうな声をあげた。

 私は、あきれて、ため息をつくしかなかった。

 なんだか、ふたりとも楽しそうだった。


ちょっとマジ痛いんですけどっ

当たり前だ、痛くしている

 小夜は、後ろからぐいぐいと責められながらも明らかに悦んでいた。

 サクラさんも、ほんとうに嬉しそうな顔で小夜を責めていた。

 ふたりとも、なんというかその、品のない言いかただけど、セックスをしているみたいだった。少なくとも性的な興奮と快感にふるえていた。


今日は、これくらいで終わりにしてやるっ

 サクラさんはそう言って、小夜のお尻を引っぱたいた。

 小夜は、うらめしそうな声をあげて、腰をくねらせた。

 普段はサバサバしているくせに、妙にオンナくさい仕草である。

 そんな小夜を見たサクラさんは、じわあっと笑った。

 征服欲を満たされたサディストの笑みだった。

 で。

 そんなサクラさんを見た私はというと——。


あぁん

 こみあげてくる悦楽に身もだえていた。

ああ、今まで、こういう人はいなかった

 いつきはもちろん、小夜やお姉さんたち、今まで一緒に暮らしてきた女性(ひと)たちは、みんな女の子だった。

 ハッキリ言えば、みんな受け身でマゾだった。

 そのなかでも小夜だけは、男の子っぽい性格なのだけど、それでもベッドで遊んでいるときは最後の最後で女の子になった。急に瞳をうるませ、可愛らしくふるえるのだ。極端なことを言えば、駐屯地のみんなは全員マゾであり、ボケとツッコミでいえば全員ボケなのだった。

 が。

 だけど、サクラさんは違った。

 明らかにマゾじゃない。

 それどころか本物のサディストだ。


ふぁああ

 私の全身に、どよめくような快感が走った。

 私が夢想していたのは、これだったのだ。

 あのクールでサディストな美少女が、私の代わりにみんなにツッコミを入れ、私がボケたら即座にツッコミを入れてくる。そして私は彼女の痛烈なツッコミにおびえながらも期待して過ごす。そんな生活に、私は憧れていたのだった。


はぁ、はぁ、はあぁぁあああ

 ……私は女性に対して、はじめて代替的ではない凄まじい肉欲をおぼえた。

ちょっと智子?

はっ!?

大丈夫? 目がイッてたけど

……うん

 私は恥じらいながらも、うなずいた。

 それから、おそるおそるサクラさんを見た。

 サクラさんは、私と目が逢うと、すっと目を細めた。

 それだけで私は稲妻に打たれたような……ハッキリ言えば、性的な快感にうちふるえた。

 私は彼女のツッコミを期待しながら話しかけた。


サクラさんって、女の子とエッチしたことありますか?

あるぞ

えっ?

私は公安部のスパイ、しかも対女性専門のスパイだったからな。様々な訓練を受けている

訓練って?

女性を魅了するテクニックと、拷問のテクニック。もちろんそれには性的なものが含まれている

性的なテクニック

対女性的なものばかりだがな

そうなんだ

我々公安のスパイは、若くして実戦投入される。身につけられる技術は限られている

それでサクラさんは、対女性的なスキルを?

上はそういう判断をした。私に選択権はない

 サクラさんは無表情で、だけど誇らしげに言った。

 すっかり打ち解けた小夜が聞いた。


性的なテクニックって、どんなのがあるんですか?

そうだな。拷問だと、やはり『快楽責め』かな

得意だったんですか?

ああ。訓練機関での成績は常にトップだ

やってくださいっ!

 私はツッコミを期待して叫んだ。

 だけどサクラさんは、真面目な顔でこう言った。


それは止めたほうがいい。私は手加減ができないのだ

でもっ

一度、女スパイから情報を訊きだそうとして『快楽責め』にかけたことがある。もちろん手加減をしてだ。で、ある程度は耐えるだろうと、そういう計算もあったのだが

どうなったのですか?

行為が終わった後も、一週間、ヤツは快美に身をよじり続けた。その後、廃人になった。ヨダレをたらし、弛緩したまま、二度と意識を取り戻すことはなかったのだ

はぁあああ

 私はその言葉だけで、廃人になるところだった。

 サクラさんは、そんな私を一瞥すると話題を変えた。


ところで、キミたちは、なぜこんなところまで来たのだ?

それはそのっ、話せば長くなるんですけど

まず結論を聞こうか

それじゃあ、結論から先に言って——

ああ

私たちは、南に行きたい。コシノクニ駅や学校、大きな図書館に行きたいんです

駅と学校と図書館。共通点が見いだせないが、まあいい、地図を見ながら話を聞こうか

 サクラさんはそう言って、コシノクニ市の地図を広げたのだった。


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