痴女は、私たちを見下ろし威嚇した。

 私たちは、銃器を構えて前に出た。

 ここからは、ガレキや痴女の死体などが乱雑に積み重なって、ジープでは行けない。

 強引に通り抜けようとすると、痴女が降ってくる。

 だから私たちは、銃器を構えて前に出た。

邪魔をするなら、全滅させればいい

 そんな決意を胸に私たちは前に出た。

 そして銃を乱射した。

 高架の上……69号線にあふれる痴女にありったけの銃弾を浴びせたのである。


逝っけえ——!!

 小夜がロケットランチャーを撃った。

 ロケットは煙を噴きあげて、高架に吸いこまれた。


 凄まじい爆音と衝撃の後、ばらばらと痴女が降ってきた。

 私たちは、それをひたすら掃射した。

 高架に向けてロケットランチャーを撃ち、こぼれた痴女をアサルトライフルで掃射する。私たちはそれをひたすら繰り返した。


今日、絶対に突破する

 そのために、私と小夜は熱心に射撃訓練をしたのである。

 南に行くために。

 暗号を解読するために。

 そして全国のみんなとつながるために、安全を確保するために——。


んほぉおおおお!

 しばらくすると、ボスくさい痴女が降りてきた。

 ヤツは高架から飛びおりると、私たちをにらみつけた。

 ほかの痴女がいっせいに静まった。

 私たちとボスくさいヤツとのなりゆきを見守った。

 どうやら一騎打ちをしたいらしい。


 私と小夜は、目と目をあわせると同時にうなずいた。

 それから、それが当然——といった感じで、銃を乱射した。

 しかし痴女には効かなかった。


うふぅうううんんんん!

 痴女は腰をくねらせ銃弾をすべてかわした。

やっぱりダメか

コレで勝負だね

 私と小夜は、アサルトライフルを放り投げた。

 そしてグローブを装備した。

 このグローブは、米軍の倉庫で見つけた、近接戦闘用の特殊グローブである。

 私たちは、駐屯地での経験から、ハイレベルな痴女はこの装備でしか倒せないことを知っていた。


行くよ

うん

 私たちは、気合いを入れて前に出た。

あはぁあんん!

 痴女は腰をくねらせ威嚇した。

 私たちは3メートルの距離で相対した——。


貴様ら、なにをやっている?

 突然の乱入者だった。

 おそろしく強い美少女だった。

 まるでフィギュアのように整った顔だった。

 しかしその切れ長の瞳は、美しくもどこか寂しげである。

 美少女が訊いた。


敵か?

えっ?

貴様らは敵か?

うん?

 私と小夜は、なにを聞かれているのか分からなかった。

 しばし呆然として立ちつくした。

 美少女が腰の銃に手をかけた。

 私は、あわててノドのつまった声で叫んだ。


人間です!

それは見れば分かる

私たち女子中学生です

それも分かる

痴女じゃありません

そんなことは分かってる

だったら……

私は『敵か?』と聞いたのだ

 美少女は無表情で無感情に言った。

 私と小夜は首をかしげた。

 すると美少女は拳銃を構えた。

 私はあわてて手をあげた。

 それから私たちのことを説明した。


 コシノクニ中学の生徒であると。

 お姉さんたちに助けられて駐屯地に行ったこと。

 しばらく駐屯地で生活していたこと。

 そして国連とかいう人たちとともに、お姉さんたちが去ったこと。


 私と小夜は、今まで起こったことを包み隠さず言った。

 美少女は、それをすばやく理解した。

 あの全国放送を聞いていたらしく、私がその中学生だと分かると、彼女の態度は軟化した。

 私と小夜は、密かに安堵のため息をついた。

 美少女は、私たちの話をすべて聞き終わると、穏やかな笑みをした。

 それからこう言った。

だいたいのところは分かった。だが最後に質問をさせてくれ。その質問によって、貴様らが信用できるかを決めたい

はい

もちろん、貴様らのほうでも私を判断してくれ

えっ?

もし両者の意見が一致したなら、協力するのもいいだろう

はいっ

うんっ

 私と小夜は、満面の笑みでうなずいた。

 実は、この美少女と行動をともにしたいと思っていた。

 私たちは話しているうちに、この美少女が悪い人じゃないことを、なんとなく見抜いていた。

 美少女が私たちに問うた。


今まで、人を殺した数は? それと、痴女を殺した数は?

えっ

 私たちは言葉をつまらせた。

 美少女は無表情でうながした。

 私は言った。

人は殺してません。痴女はたくさん殺しました

どれくらいだ

69号線から北はすべてです

ほう。心は痛まないのか?

初めは痛みました。でも今は平気です

強いんだな

人は、痴女になる直前に死にます。脳になにかいて、人の体を操っています。それが痴女の正体です

うむ、正しい理解だ

 美少女は満ち足りた笑みをした。

 そして言った。


貴様らは、信頼できる人物だ。ちなみに私だが、痴女は貴様らと同じくらい殺している。そして実は、人間もかなり殺している。そういう職業だからだ

人を殺す職業?

痴女パンデミックの前は、警視庁に勤めていた。抵抗する犯罪者は、容赦なく撃ち殺した

 きっぱりと美少女は言った。

 そして彼女は、私と小夜を真っ正面に見て、それからこう言った。


そんな私だが、もし好ければ行動を共にさせてほしい

いえ、もちろん

嬉しいです

 私たちは、彼女と握手した。

 高架を見上げると、痴女たちはおとなしくなっていた。

 ボスくさいヤツを倒されて、おびえたのだと思う。

 私たちは、ガレキをどかして道を作りながら、おしゃべりをした。


キミたちは中学生だから聞かなかったが、質問は実は3つある

なんですか?

男性経験……エッチした男の人数だ

男の人かあ

 と、私は空を見上げてつぶやいた。

 私は女子中学生だから男性経験がないのは当たり前なのだけれども、それが妙な実感をおびていたので、美少女は、ひどく同情をふくんだ笑みをした。

 そんなしんみりとしたところに、小夜が若干空気の読めない感じに聞いた。


エッチした人数が何人なら合格だったんですか?

私より少なければ合格

あはは

まあ半分は冗談だが、半分は真面目に言っている

えっ?

理解できる相手としか行動したくない。男性経験が私以下なら、だいたい想像できる

逆に自分以上だと、どういう心理状態なのか理解できない?

その通り

 美少女はニヤリと笑った。

 あんなに綺麗な人なのに下ネタがOKなんだ。

 私と小夜は、なんだかホッとした。

 ひどくリラックスした態度でこう言った。


あの自己紹介がまだだったと思うんですけど……私は立花智子です

武藤小夜です。あなたは?

 小夜が聞いた。

 すると美少女は、背筋を伸ばしてこう言った。



サクラ、桜田門サクラだ。警視庁公安部の部長をしていた

ヒア・カムズ・ア・ニュー・チャレンジャー

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