青い空

悠衣

悠真、柳之助くんを
運んであげて。

悠真

ボク、ぴーちゃんたちより
重い物持ちたくないよ。

悠衣

ぴーちゃんを何個も乗せてるくせに
とやかく言うんじゃないわよ。

悠真

ぴーちゃんは1羽。
他の子は、違うひよこなの。

悠衣

区別つかないわよ。

悠真

こんなに性格
違うのに。

悠衣

それがわかるの
あんたくらいよ。

悠真

はぁ……。

ため息をついて、悠真はボクの方を向いた。

悠真

じゃあ、行くよ。

そう言って、悠真はボクを持ち上げようとした。
ボクはその手を避け、

柳之助

悠衣の方がいい。

と言うと、

悠真

そんなわがまま聞けるか!

と、ムキになったように言って、ボクを肩にかついだ。

柳之助

降ろせ!

手足をバタバタさせたが、自由にならなかった。

柳之助

何なんだよ!
お前っ!

背中をドンドン叩いたけど、悠真はビクともしなかった。

柳之助

アンドロイドよりも力はなさそうなのに、言うことを全然聞かない。

これが、人間なのか?

悠衣

もうちょっと
なんとかできないの?

悠真

なにが?

悠衣

お姫様だっことか

悠真

真面目な顔で
何言ってるの?!

悠衣

なんか、その持ち方、
可哀想な感じするし……。

悠真

ガキを甘やかすなよ。

悠衣

精神年齢
同じくらいじゃない?

悠真

そんなことないよ!

悠真

……人の気も知らないで。

柳之助

……。

悠真がボソっと言ったのが聞こえた。
そして、悠真は悠衣を置いて歩きだした。

廊下を通って、

ドアが開いた。
その向こう側に行くと、

柳之助

え?

風が頬に当たった……。
びっくりして体を起こすと……

青空が見えた……。

柳之助

何だ?ここ……。

ボクがここに来るときに見た、雲に閉ざされたドドメ色の空とは違う、目の覚めるような青だった。

柳之助

映像では見たことが
あったけど……。

柳之助

ここは……、
地上なのか?

悠真

何、言ってるんだ?

悠真

他にどこだって言うんだよ?

柳之助

ここは室内で、ホログラムを使って壁を青空に見せているとか、透明なドームで覆われているとか、そういうことなんじゃないのか?

他のシェルターには、そういう施設があると聞いたことがある。
聞いたことがあるだけで、見たことはないが……。

悠真

そんな金かかること
しないし……。

悠真

ここは地上だよ。
風だって吹いてるだろ。

柳之助

風……。

確かに風が吹いていて、送風機から出てくる風とは違い、強くなったり弱くなったりを繰り返している。

柳之助

悪くないけど……。

頬をなでる風は、とても心地よかった。

柳之助

空が青いんだが……。

悠真

今日は天気いいし……。

柳之助

雨とか曇とかだと違うのか?

悠真

雨とか曇だと
太陽が見えない。

柳之助

太陽……?

そういえば、見えている。
熱を感じるひときわ明るい球体。

柳之助

あれが……、太陽……。

映像では見ていたし、模式図とかでは知っていたけれど……。

柳之助

眩しい……。

悠真

今まで見たことなかったのか?

柳之助

ない。

悠真

ふーん。

悠真

ずっと見てると、
目を傷めるぞ。

柳之助

……確かに。
見えづらくなってきた。

じっと見てると、黒い点が視界を遮りだした。

悠真

そんなになるまで見てるんじゃない。バカだろ、お前。

柳之助

そんなこと、
言われたことないぞ。

悠真

太陽を見るのやめろ。

そう言って降ろされて、目隠しをされた。

視界一面が、悠真の手になる。
なんだ? と思ったけど、その手は温かかった。

そういえば、そういう記述を見たことがある。
太陽を直視し続けると、失明するって。

柳之助

見ないように、遮った?

光をさえぎられても、まだ見える映像が変だった。
もう太陽は見えないのに、同じ大きさの、黒いものが見えた。
でも、段々とそれが消えていった。

柳之助

もしかして、
危なかったのか?

悠衣

悠真も昔、
太陽を観て、

悠真

お姉ちゃん、太陽をずっと見てると、太陽から目を離しても、太陽と同じ大きさの黒い丸が見えるようになるんだ。

悠衣

って、言ってたわね……。
「大発見した!」みたいな顔で。
あれ、びっくりしたわよ。

悠衣

その後、
お父さんとお母さんに
怒られてたわよね……。

悠真

お姉ちゃん!
いくつの時の話をしてるの?!

悠衣

あんたが
柳之助くんくらいの時の話

柳之助

姉弟……。

ドラマとかでは観たことあったけど、ホントはこんな感じなんだ……。

柳之助

大丈夫だ。
もう見ないから、手をどけろ。

見なくても、太陽の温度を感じることができる。

柳之助

太陽は地球から約1億5千万キロの距離にあるはず。それでここまで影響があるなんて……。

悠真

ん。

悠真はボクの目から手を離した。

柳之助

…………。

一瞬、言葉を失った。

柳之助

何だ?
この広い空間は……。

悠衣

大丈夫?

後ろにいた悠衣が言った。

柳之助

問題ない。

悠衣が伸ばしてきた腕にしがみつく。

柳之助

映像でしか見たことがない景色が広がっている……。

青い空と白い雲。
太陽が大地を照らし、風が吹いている。

この景色は、もう数百年も前に失われたはず……。

柳之助

ここは、歩けるのか?

悠衣

歩けるわ。

柳之助

人体に有毒なガスは、
ないのか?

あったらもう手遅れだけど……。

悠衣

ないわ。

見ると、人型の何かが歩いている。

柳之助

あれは……。

悠衣

アンドロイドじゃないわ。
アンドロイドは室内で動いていることが多いから。

けっこう歩いている……。

柳之助

あれが全部人間?
そんなこと、ありえるのか?

悠真

中庭は、こっちだ。

そう言って、悠真はボクを悠衣から引きはがし、小脇に抱えた。

柳之助

え?

視界がこうなった……。

柳之助

これは、芝生?
人工芝じゃなくて、
生えてるヤツだ。

しばらくユサユサ揺れて、悠真がボクを降ろした。

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