弟
弟
けっこう乱暴にベンチに座らされた。
もうちょっと優しく
降ろせないのか?
なんでボクがそんなこと
しなきゃなんないんだよ……。
カナンなら、もっとスマートにボクを降ろすのに……。
ん?
穏やかな風が吹き、その風が頬を撫でる……。
……。
ベンチに座っていると、暖かい日差しが降りそそいで、風がソヨソヨと吹いて、心地がとてもいい……。
日向ぼっこ……。
もしかして、これがそうなのか……。
そういう記述を見たことがあったが、これが日向ぼっこなのか?
ぴっぴぴ。(柳之助くん、気持ちよさそうだね。)
悪くないな。
ぴっぴぴっぴぴ(柳之助くんが嬉しそうだと、ボクも嬉しい)
そういうものなのか?
ぴぴぴー(ここはね、ボクたちもお気に入りの場所なんだ。悠真くんが連れて来てくれるんだ)
…………。
お前、こんなところで
サボってるのか?
悠真に言ってみた。
さ……、サボってるわけじゃ……。
息抜きしてるだけだし。
図星だったのか?
お前はいいな。
ボクの息抜きは、テレビルームで映画を観るくらいだ。
映画?
古い時代の映画。
青い空の下で、若い男女が
死んだとか生きるとか。
どんな映画だよ……。
青春群像劇?
パッケージに書いてあった、煽り文句を言った。
あんまりそういうの観る
印象がないんだが……。
ボクが選んだわけじゃない。
青空が観たいって言ったら、
コンピューターが選んだんだ。
それでも最後まで
観たんだろ?
観た。
やっぱりそれって意外だよ。
最後まで観ないと
気になるし……。
……面白かったか?
よく、わからない……。
死んでしまった好きな相手を生き返らせるためにタイムリープして、原因を取り除くがうまくいかず、何度も何度もタイムリープを繰り返すという話だった。
……青春群像劇って言ってなかったか?
SFっぽくないか?
メインは「誰と誰が付き合うか」というところだったから、いいんじゃないか?SFとしては破たんしていたし。
どこがどう破たんしてたんだ?
進んでしまった
時間は戻らない。
時間は均一に流れているわけではなく、条件によって進む速さが違い、それを利用して未来に行くことは可能だが、一度進んでしまうと戻すのは不可能だ。
それを「気合い」で時を戻してしまうのはSFとしてどうなんだ?
それ言ったら
元も子もないだろ……。
SFは科学的空想なんだから、気合いでいいんだよ。
空想なら、何でもアリなのか?
面白かったら科学的根拠
なんていらないんだ。
それはSのサイエンスを無視しすぎだと思うが……
もう別のジャンルにした方が
よくないか?
だからSFが付いてなかったんだと思う。
ジャンルなんてなんでもいいだろ?面白けりゃいいんだよ!
面白かったらな。
ボクはそれが気になって
話に集中できなかった。
ちょっと待ってろ!
は?
悠真はそう言って、走り去った。
ぴぴぴー(悠真くんー)
ぴぴぴぴぴぴぴぴぃ~(待って待って~)
ぴっぴぴっぴ~(そうだそうだ~)
ぴぴぴ~(悠真くん~)
あっ!
さんちゃん以外のピーシリーズが一緒に行こうとしているのに気づいた悠真は、みんなを肩や頭や腕に乗せた。
迷子になるといけないから、
今日はボクに乗っていいよ。
ぴー(は~い)
ぴぴぴぴ~(ボクが先に返事するつもりだったのに~)
ぴーぴー(そうだ、そうだ)
ぴーぴー、ぴーぴー(まあまあ、まあまあ)
ぴよぴっぴ(じゃ、行くよ~)
ぴっぴ(はいはーい)
ぴーぴ(やった~)
ぴょぉ(はぃ)
悠真は小走りで、できるだけ肩や腕を動かさないように建物に向かった。
……騒がしい。
アンドロイドとは
何かが違う……。
悠真を観ているとそう思う。
恐ろしいまでに
無駄が多い。
……。
そんな悠真を悠衣は心配そうにみていた。
座ったらどうだ?
…………。
どうしたんだ?
別に……。
そう言って、悠衣が隣に座った。
花の香り?
微かに悠衣から爽やかな香りがした。
弟って、みんな
ああなのか?
悠真はちょっと特別かも。
私が甘やかしちゃったから……。
愚弟ってヤツか?
なんでそんな言葉を知ってるのよ。
バカじゃないわよ。常識は変だけど。
趣味は変だし鳥好きだし
可愛い物に目がないけど……。
嫌ってるのか?
そんなわけないでしょ。
大事な弟だもの。
ふーん。
しばらく風に吹かれていた。
柳之助さま。
環境問題を解決してください。
不意にマギーが言っていたことを思い出した。
マギーはこの景色を知っていたのだろうか?未来の地球を、この状態に戻せってことだよな……。
無理じゃないか?
あのドドメ色の空を
こんな青空にするなんて……