——イマガイ・モーヌスーン

アルト

つ、着いたぁ…

アルマ

ミッドナイトを出て早5日…長かったなぁ…

ルナ

ワープのありがたみが良くわかるわね…

トミーの記憶データの損傷を防ぐために、徒歩でモーヌスーンを目指していた俺達は、五日かけてようやく現地へと到着した。でも、途中でモンスターなんかにも遭遇して狩り尽くしたため、当分はお金に困りそうにない。

ネプト

それにしても…緑だな

アルト

うん…緑だ…

ルナ

自然が多い村とは聞いてたけど…まさかこれ程とは思ってなかったわ…

アルマ

いや、これは多いというよりも…自然そのもの…?

モーヌスーンは、共存の村とも呼ばれている、とはネプトが教えてくれたことだ。動物と人間の特徴を持ち合わせた種族…獣人族が暮らしているらしい。要するに…ケモ耳っ子とかがいるってことなのか?よくわからないが…

ネプト

この様子じゃ、ミッドナイトん時みたいなことにはなりそうもないな。あー、平和だ…

ルナ

それじゃ、さっさとノーツモニュメントを見つけて、今度こそゆっくり観光しましょ!

アルト

そうだね…次ははぐれないように、ね

ルナ

2度目はないわ…!

そういうわけで、村を散策しつつひとまわりした…はずなのだが…

ネプト

…ここ、ノーツモニュメントあんのか?

アルマ

影も形も、見当たらないね…

ルナ

うー、おかしいわね…長は確かに…

あのぅ…なにかぁ、お困りですかぁ?

間の抜けた声に振り向くと、羊の角を生やした女性が立っていた。すごい…ほんとうに角とか生えてるんだ…!

わぁ、もしかしてぇ、旅人さんですかぁ?こんな辺鄙な村にぃ、お立ち寄りいただきぃ、ありがとうございますぅ!

アルト

辺鄙だなんて…すごく綺麗なところじゃないですか!

ルナ

そうね…気分もリフレッシュできそうだし、立ち寄ってよかったわ!

そう言ってもらえるとぉ、村の者としてぇ、とても嬉しいですぅ!

シープラ

私はぁ、シープラっていいますぅ。よろしくお願いしますぅ!

アルト

アルトです、よろしくお願いします。

シープラ

はいぃ!ところでぇ、何かお探しですかぁ?よろしければぁ、手伝いますよぉ?

俺達がノーツモニュメントを探していることを伝えると、女性は少し首をかしげた。

シープラ

むぅ〜、すみませぇん…私にはぁ、わからないですぅ…

ネプト

あー、そっか、悪かったな。もーちょっと探してみるわ。ありがとな!

シープラ

はいぃ〜…あ、そうだぁ!

シープラ

この先にぃ、私の師匠でぇ、占い師の女性がいるんですぅ。彼女ならぁ、何か知ってるかもしれないですぅ!

ルナ

ほんと!?だって、みんな!聞いてみましょうよ!

ネプト

モーヌスーンの占い師…っつーと…ああ、あのよく当たるって評判の?

シープラ

はいぃ!私はまだまだですけどぉ、師匠の占いはぁ、百発百中なんですよぉ!

アルマ

へー!面白そう!!行ってみようよ!

アルト

そうだな。せっかく紹介してもらったんだし、行ってみようか

シープラ

はぁい!それじゃあ、案内しますよぉ♪

そのまま俺達は、シープラさんに連れられて村の少し奥の方まで歩いていった。奥に行くごとに緑が深くなっていき、濃厚な草の匂いがあたりを包んだ。なんか落ち着くなぁ…

シープラ

ここですぅ!師匠ぉー、お客様ですぅ〜!

それっぽいテントの中に入ると、中は薄暗く、怪しいものがたくさん陳列されている…ほんとうに占い館みたいだ。そうなんだけど。小さな机の向こうには、猫の耳を生やした女の人が座っていた。

ニャルラ

おや、なかなか大所帯だね。あたしはこの占い館のオーナー、ニャルラ・キャティーだ。よろしくね。さあ、何を占ってほしいんだい?

ネプト

んにゃ、占いっていうか…探し物があってな

ニャルラ

探し物?ああ、そうかい。見てあげよう…ん?

ニャルラさんはなにかに目を止め思案すると、俺達の方に歩み寄り、アルマの前で立ち止まった。

アルマ

…?

ニャルラ

赤い頭巾…白い髪に、頭に翼……間違いないね

アルマ

あ、あの…

ニャルラ

…アンタ、アルマ・カミエルだろう?

アルマ

へ!?な、なんで知って…?

ルナ

すごい!占い師って、見ただけでそこまでわかっちゃうのね!

ニャルラ

ああ、期待させて悪いが…残念ながら違う

シープラ

師匠、アルマさんって…

ニャルラ

ああ…実はね。一週間くらい前、アンタを探してるっていう魔族が来てね

アルマ

魔族…?

アルト

心当たりでもあるのか?

アルマ

魔族で僕を探してるっていうと…でも…

ニャルラ

相手は友達だって言ってたけど…近いうちに、ここに来るって結果が出たから、ここで待たせてやってるんだけど…今ちょうど買い物にーー

ニャルラさんが言いかけた、その時。

ニャルラさん、ただ今戻りましたー!鮎が安かったので、三尾買ってきましたよ。後で塩焼きにして食べましょう!

シープラ

あー、シルフくんー、ちょうど良かったぁ!

ニャルラ

おかえりシルフ。ちょうど、アンタの探し人が来たところだよ。シープラ、荷物奥に持ってってやんな

シルフ

え、それって…

シープラ

はぁい!

アルマ

シルフ…?

少し逆光になって見えにくかったが…すごく綺麗な子だと思った。深い紫の目は、どこか潤んでいるようにも見えて…

シルフ

アルマ…!本当に、君なんだな…!

シルフ

初めまして!シルフ・タナイストっていいます!俺のアルマがいつもお世話になってます!!

アルマ

俺のって・・・!!

アルト

寧ろお世話になってるのは俺たちの方だな・・・よろしくな、シルフ!

まさかこんなところで再会するとは・・・シルフは、僕の騎士であり友達の魔族。見たとおりすごい綺麗な容姿をしているし、頭もすっごく良い!多分普通に戦ったら勝てないくらいに強いし・・・非の打ち所なんて見当たらない、スーパー魔族なんだ!

ネプト

にしても・・・綺麗な見た目してんな・・・女かと思ったぜ。

アルト

アルマの前例があるからなんとも言えない・・・

ルナ

アルマの前例があるからなんとも言えない・・・

シルフ

んー、よく言われるんだけど・・・俺かなりがさつだよ?

アルマ

そうだね!すぐ殴るし!

アルマ

いだい!!

シルフ

ちょっと黙ろっか、アルマくん。

アルマ

久しぶりの再会なのに何か冷たい!!

シルフ

800年も音信不通だったのが悪ぃんだばーか

アルマ

うう・・・それは・・・

シルフ

まーそれは建前で、久しぶりに見たら殴りたくなったからなんだけどな!

アルマ

もっとひどい!!

全くいつもこうなんだから!!
800年も音信不通ってのはさすがにやり過ぎたけど・・・って、もう僕らそんなに会ってなかったの!?

アルト

800年音信不通・・・人間じゃ考えられない年数だな・・・

シルフ

魔族は天族の突然変異で生まれた種族だかんな。

シルフ

無駄に頑丈で寿命もないに等しい・・・

アルマ

まあ・・・そのおかげで出会いは豊富だよね!

シルフ

んだな!こんなに生きてなきゃ、アルマにも会えてないかもしれないし!

シルフがふわりと僕に抱きついてくる。変なところで甘えてくるのも変わってないなぁ・・・

ネプト

二人ともほんとに仲良いんだな。さっきからくっつきっぱなしだし・・・。

シルフ

ああ、俺はアルマの騎士だからな!

ルナ

さっきからきくんだけど・・・その騎士ってなんなの?

アルト

あ、それ俺も気になってた!

アルト

騎士ってなんか、響きがかっこいいよな!!

アルマ

んうう・・・騎士っていうのは・・・

シルフ

言葉通りさ。俺がアルマを守るってだけの。
だから・・・いくらスコアホルダーでも、

シルフ

アルマのこと傷つけたら殺すから。

ネプト

・・・?

ルナ

!!!???

アルト

ッ!!??

アルマ

こらシルフ!!脅かさない!!

シルフ

ははは、冗談だって!!人間は面白いなー♪

アルマ

全くもう・・・

からかい癖もそのまんま・・・と言うか、いつまで抱きついてる気なんだろう。地味に力強いしちょっと苦しいんだけど・・・。

ニャルラ

おやまあ、盛り上がってるねー

シルフ

あ、ニャルラさん!

アルト

結果、出ましたか!?

そういえば、ノーツモニュメントの場所を調べてもらってたんだっけ・・・すっかり忘れてた・・・。
アルトが聞くと、ニャルラさんは口許の弧を深めて言った。

ニャルラ

ああ。あたしに見えないものはないさ・・・でもね・・・ちょーっとお願い事を聞いてくれないかい?

ルナ

お願い事・・・?

シルフ

・・・もしかして・・・

ニャルラ

ああ、そのもしかして、さ。

シルフ

まだ諦めてなかったんですか・・・

諦める?シルフがそんなこと言うの珍しい・・・あれ以来すっかり前向きになったと思ってたのに・・・

ニャルラ

ああ、諦めないさ・・・アレを見てるとイライラするんだよ・・・

アルマ

な、何かあったんですか・・・?

ニャルラ

・・・・・・・・

ニャルラ

アルマ。アンタ、恋人がいたんだってね?

ルナ

え!?

アルト

は!?

アルマ

なんですかそれ!?

そんなの初耳だよ!?

ニャルラ

ありゃ?おかしいね・・・シルフ情報だからあってると思ったんだが・・・

アルマ

シルフ!!

シルフ

へあ!?いやいただろ!?
まさか忘れたのか?あんなに大事大事してたのに!?

アルマ

え・・・ええ・・・?

シルフ

・・・・・・・・シューだよ。覚えて、無いのか・・・?

しゅー・・・?

アルマ

・・・・・・ぜ、ぜんぜん・・・

シルフ

・・・・・・そっか・・・

ネプト

・・・記憶が飛んでる期間があるって言ってたよな、前に。

アルマ

じゃ、じゃあ・・・その間にって、こと・・・?

シルフ

記憶が飛んでる・・・!?

シルフ

なんだそれ・・・聞いてない・・・

ニャルラ

記憶が無い・・・か。そりゃ大変だね・・・

アルマ

・・・・・・はい

そんな大事なことも忘れちゃうなんて・・・一体何があったって言うんだ・・・

ニャルラ

でも・・・覚えてないだけで、経験はあるのか・・・よし、ならそれでいい。

アルマ

へ・・・?

ニャルラ

アルマ、アンタ、恋のキューピッドになってみないかい?

アルマ

・・・・・・・・・・・・は?

きょとんとする僕の視界の端に、頭に手を当ててため息をつくシルフの姿が目に入った。説明を求めて視線をやると、実に良い笑顔で親指を立てられてしまった・・・・・・。

え・・・僕、これから一体何を任されるの・・・?

第五楽章 アルマ、戸惑う 1

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