もうダメだ……。

私はなんてバカなんだろう。
もっと警戒をしておくべきだったのに。
 
 

サララ

ごめんなさい……。
ご主人様……。

エル

安心してよ。
シャイン様にはサララのことを
紹介してあげるから。

エル

『俺の新しい奴隷です』ってね。

サララ

っ……!

 
 
 
 
 

ナリア

……それは困りますね。

 
 
その時だった。
突然、エルくんの背後に誰かが現れた。


――おそらくあれは転移魔法。

でもここにはエルくんの結界が
張られているはずなのに。
つまり外部からの侵入も制限されるはず。


だとすると、あの人はエルくん以上の
魔法力の持ち主ということになるけど、
誰なのかな?



振り向いたエルくんは
その人の顔を認識すると小さく舌打ちをした。
 
 

エル

ナリアか……。

サララ

ナリア……さん?
誰なのかな?

ナリア

エル、以前から
警告しておいたわよね?
サララには手を出すなと。

ナリア

魔王様のご命令なのよ?
それを破るなら、
容赦しないけど?

 
 
エルくんに対して
冷ややかな視線を向けるナリアさん。

それにしても、私に手を出さないように
魔王様が命令しているって
どういうことなのかな?
 
 

エル

はっは! 単なるジョークだよ。
ちょっと遊んでいただけさ。

 
 
エルくんは一瞬、
苦虫を噛み潰したような顔をした。
でもすぐに白々しく笑う。


――やっぱり私はエルくんが嫌いだ。
 
 

ナリア

サララ、
少しは警戒心を持ちなさい。
エルがどんなヤツか、
知らないわけじゃないでしょ?

サララ

は、はい……。

ナリア

サララは連れていくわよ?

エル

はいはい、どうぞご自由に。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
私はナリアさんに手を引かれ、
エルくんの家を出た。

そしてお互いに無言のまま歩いていく。



ナリアさんは少しイライラしているみたい。
ちょっと気まずい雰囲気かも。
 
 

サララ

あのっ、
ありがとうございました。

ナリア

私は魔王様のご命令に
従っているだけ。
別にあなたがどうなろうと
知ったことじゃないわ。

サララ

あのっ、魔王様のご命令とは?

ナリア

あなたの身に危険が迫ったら
守れって言われているの。
だから何かがあれば魔法で
分かるようにしてあるのよ。

サララ

そうだったんですかぁ……。

 
 
魔王様、
私のことを気に掛けていてくれたんだ。
今度お会いしたらお礼を言わなくちゃ。

本当にお優しい方だなぁ。
 
 

サララ

あなたは何者なんですか?

ナリア

私は魔王親衛隊のナリア。
近衛三人衆のひとり、
シャノン様の使い魔よ。

サララ

シャノン様の?
そうだったんですかぁ。

 
 
近衛三人衆は魔王様の側近で、
四天王に近い実力を持っている。

個々の得意分野に関しては、
四天王以上の実力があるとも聞くし。


シャノン様はそのうちの1人で、
私は魔王城で何度もお会いしたことがある。
お淑やかなお姉さんという感じで、
私にもすごく優しくしてくれた。
 
 

サララ

シャノン様、お優しいですよねっ♪

ナリア

っ!? 当たり前じゃない。
私にとっては誰よりも大切で
尊敬している素敵な方よ。

ナリア

そんなことよりも、
なんでエルなんかの家に
付いていったの?

サララ

ご主人様を助けるためです!

ナリア

デリン様を?
どういうことなの?

 
 
もうエルくんを通じてシャイン様に
会うことはできない。
だから藁をも掴むつもりで話すことにした。



私はデリン様が封じられたこと、
洞窟の結界のことなど全てを打ち明けた。

それを聞き終えたナリアさんは
深刻そうな顔をして低く唸る。
 
 

ナリア

デリン様が封じられるとは……。
しかも勇者の一行に
そんなやつがいるのは厄介ね。
魔王様に報告しないと。

サララ

何者なのかは
ご主人様も分からないと
おっしゃってました。

ナリア

確かに人間の持つ『可能性』は
時として我々魔族の想像を
遥かに超える場合がある。

サララ

そうなんですか?

ナリア

勇者がその代表例だ。
かつて先代の魔王ミュラー様は
圧倒的な力で勇者に敗れた。

ナリア

ミュラー様の力を知っている
私としては、
あの御方が敗れるなど
想像もつかなかったからな。

サララ

そんなにお強い方
だったんですかぁ。
勇者様ってすごいんですね。

 
 
でも今の勇者様はそこまで強くないって
ご主人様は言っていた。
これから強くなっていくのかな?


それともお仲間が強いから
形だけの勇者様なのかな?
 
 

ナリア

人間のほとんどはザコだ。
だが、まれにそういうヤツが
混じっているから、
人間という種族は侮れん。

ナリア

最近も『デモンキラー』という
異名を持つ人間が、
見境なく魔族を滅しているらしい。
サララも気をつけることだ。

サララ

は、はい……。

ナリア

しかしデモンキラーといい、
我々の脅威となる人間が
増えてき――っ!

 
 
ナリアさんは途中で言葉を失い、
呆然としていた。

目は大きく見開かれ、
かすかに唇が震えている。


かなり動揺しているみたいだけど……。
 
 

サララ

どうなさったのですか?

ナリア

いや、デリン様を封じたのが
人間とは限らん。
まさかあの御方が
動いているのでは……。

サララ

どういう意味ですか?

 
 
ナリアさんはハッとすると
小さく咳払いをして平静を装った。

きっと何か思い当たることが
あるんだと思う。


でも人間じゃないってどういうこと?
 
 

ナリア

……な、なんでもない。
デリン様の件は任せておけ。
シャイン様には私から
話をつけてやる。

ナリア

サララはデリン様へ
そのことを報告してやれ。

サララ

は、はいっ!
ありがとうございますっ!

 
 
やったぁっ!
これでご主人様を助けることができる。
ナリアさんにお話しして良かった。


早速、私は転移魔法を使って
ご主人様のいる洞窟へ向かうことにした。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

特別編・7-8 魔王様の命令

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