私が唱えたのは転移魔法。
まともに戦ってもエルくんには勝てない。
だから私に残された選択肢は逃げるだけ。
彼は攻撃魔法を使うと思い込んでいるから
うまくいけばここから逃げられるはず。
私が唱えたのは転移魔法。
まともに戦ってもエルくんには勝てない。
だから私に残された選択肢は逃げるだけ。
彼は攻撃魔法を使うと思い込んでいるから
うまくいけばここから逃げられるはず。
いっけぇ~っ!!!
全身を巡る魔法力が瞬間的に高まり、
それを一気に開放させる。
うん、今回は制御もうまくでき――
ふにゃっ!!
しまった……。
油断した途端、魔法力が発散してしまった。
ど、どうしよう、千載一遇のチャンスが……。
あ……う……。
プッ……あははははっ!
そういうことか、
攻撃魔法というのは嘘か!
転移魔法で
逃げようとしていたんだね?
イケナイ子だなぁ、サララは。
う……うぐ……。
でも失敗しちゃったら
意味がないよね?
相変わらず、魔法の制御が
うまくできないみたいだね。
ひっ……。
エルくんの邪悪な笑みを見て
全身がぶるぶると震えた。
思わず一歩後ずさりをして身を縮ませる。
もう……ダメだ……。
そんなに怖がらないでよ。
もう一度、
チャンスをあげるから。
え?
ハンデだよ、ハンデ。
このままじゃ、
面白くないでしょ?
バ、バカにしてぇっ!
言ったでしょ、
サララの絶望する顔が見たいって。
今はまだ心の底から
絶望している感じじゃない。
後悔しますよ?
はいはい、
さっきも同じことを言ったよね?
俺は何度後悔すれば
いいのかなぁ?
っ!
――もう許さないっ!
怒りが頂点に達した私は、
自分の扱える中で最強の攻撃魔法を
使うことにした。
これは私が魔王様から
直々に教えてもらった古代魔法。
命中さえすれば、
例えエルくんを倒すことはできなくても
逃げる隙は生まれると思う。
…………。
体の中で魔法力を練っていく。
焦らず、じっくりと……。
この作業が一番難しくて、時間もかかる。
だから実戦で使う機会は限られるけど
待ってくれるという今なら問題ない。
ん? まさか古代魔法か?
わずかに焦ったようなエルくんの声。
――でももう遅い!
私の魔法力は完全に練られている。
ここまで来れば失敗はしない!
――神魔滅雷!
私はスペルを唱えた。
あとはエルくんを魔方陣の中に封じ込め、
全ての種族に等しく滅びを与える雷撃が
放たれる……はず……っ?
え……?
その場には何も起きなかった。
部屋の中は静まり返り、
柱時計の動く音だけが寂しく響いている。
――もしかして失敗したの?
ううん、それはあり得ない。
だって私の魔法力は減ってるもん。
確実に魔法は行使されたはず。
なんで何も起きないのっ?
あっはははははっ!
すごいねぇ、サララ。
いつの間にそんな魔法を
使えるようになったんだい?
ぶっちゃけ、
今の魔法をまともに食らったら
俺もタダじゃ済まなかったかも。
危ない危ない……。
ど、どうして魔法が……。
そりゃ、この家には
結界が張ってあるからだよ。
この中では俺よりも
上位の魔族しか魔法が発動しない。
実質、魔王様や四天王の方々、
それに準ずる存在に限られるよね。
ひ、卑怯者っ!
またそのセリフかい?
心地いいねぇ。
でも今回は絶望の色が
さっきよりも濃くなっている。
最高だよ……。
エルくんは私にゆっくりと近寄ってくる。
ニタニタと気色悪い笑みを浮かべながら……。
私は恐怖に震えつつ自然と後ずさりをする。
でもすぐに背中は壁に当たり、
逃げ場がなくなってしまった。
力ではエルくんに勝てない。
魔法も通用しない。
完全に打つ手がない……。
っ!?
エルくんは私の真ん前で立ち止まり、
顔の横あたりの壁に手を付いてきた。
そして空いている方の手で私のアゴを摘み、
無理矢理に顔を上げさせられる。
そこへエルくんが顔を近付けてきて……。
こうして間近で見ると、
いつも以上に可愛く見えるね。
いいよ、その怯えた瞳。
……っ……。
助けて……ご主人様……。
じゃ、いただいちゃおうかな?
エルくんの邪悪な笑みが一段と濃くなった。
イヤだ、こんなのっ!
エルくんなんかに屈したくない!
でも……もう私には何もできない……。
次回へ続く……。