私が当惑していると、
翔くんは追い打ちをかけるように
言葉を続ける。
 
 

間部 翔

学校へ行く途中の歩道橋、
あそこから飛び降りようって
ミコは考えてただろ?

落合 美琴

……や、やだなぁ、翔くん!
そんなこと、思うワケないよ!

間部 翔

ゴメンな……。
ミコが上野たちからのイジメで
そこまで追い詰められてたって
気付いてやれなくて……。

落合 美琴

っ……。

 
 
私は何も言えなくなってしまった。


そしてきっと翔くんが
今日を繰り返しているというのは
本当のことだ。



それなら私の考えを
知っていてもおかしくないし、
翔くんは嘘を言っているようには見えない。

後ろめたいことや嘘があると
頬がヒクヒクするけど、それがないもん。



つまり『別の今日』で私は
あの決意を実行に移したんだね……。
 
 

間部 翔

ミコは周りに
心配かけたくないとか思って
我慢し続けてきたんだよな?

間部 翔

でもな、死んじゃったら
もう取り返しが付かないんだよ。
ツライなら親とか俺とか、
周りを巻き込んでいいんだ。

落合 美琴

だけど……。

 
 
 
 
 
 
 

間部 翔

ミコを大切に思ってるのに
迷惑なんて思うわけがないだろ?
助けたい、守りたいって思うのが
普通なんだよ!

 
 
 
 
 

落合 美琴

っ!

 
 
自然に涙が溢れてくる。

すると翔くんは必死に手を伸ばして、
私の頬に残った涙を指で拭ってくれた。



ちょっと照れくさいけど、
すごく胸に温かさを感じる。
 
 

間部 翔

最初の5月9日、
ミコは絶望して命を絶った。
それを知った瞬間、
俺は自分のふがいなさに後悔した。

間部 翔

なんでもっとミコのこと、
気に掛けてやらなかったのかって。

落合 美琴

あ……。

間部 翔

お通夜でさ、
ミコの冷たくなった顔に
触れた瞬間、悔しくて悲しくて
発狂寸前にまでなっちまったよ。

間部 翔

我を失って上野たちに
殴りかかろうとして、
みんなに止められちまったし。

落合 美琴

翔くん……。

 
 
私は無意識のうちに翔くんの手を
握りしめていた。

そこまで悲しんでくれて嬉しい反面、
心を傷付けてしまったという申し訳なさで
胸が苦しくなる。
 
 

間部 翔

ミコを気に掛けてやれなかった
俺自身にも腹が立ってさ。
血が出るまで自分の頭を
壁に打ち付けた。

落合 美琴

…………。

間部 翔

飛び降りとか車に轢かれたりとか
そういう場合は普通、
もっと損傷が激しいらしい。
でもミコはきれいな顔だった。

間部 翔

今にも起き上がってきそうな、
それくらいに奇跡的にきれいでさ。
冗談だよって起きてくれたら
いいのになって思ったよ。

 
 
翔くんは唇が震え、
瞳から一筋の涙が流れ落ちた。

その気持ちがこうして横にいる私にも
すごく伝わってくる。
私まで貰い泣きしてしまいそうになって、
何度も鼻を啜る。
 
 

間部 翔

お通夜のあと家に帰って
俺はお社のご神体に
願ったんだ。

落合 美琴

私を生き返らせてくれって?

間部 翔

最初はな。
このままだと俺の代に
祀るのをやめてやるぞって
脅しまでかけてやった。

間部 翔

そうしたら
誰かの声が聞こえたんだ。
死んだ者を生き返らせることは
できないって。

落合 美琴

っ……。

間部 翔

きっとその声の主は
神様だったんじゃないかって
俺は思う。

 
 
そっか、やっぱり死んじゃったら
終わりなんだ……。

神様の力でもそれは無理なんだね……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

5回目(2) 神様にも不可能なこと

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