落合 美琴

お母さん、おはよう。

 
 
 
 
 

落合 美琴

……あれ?

 
 
ダイニングには誰もいなかった。

いつものこの時間なら、
お父さんもお母さんも
まだ仕事へ行っていないはずなのに。


テーブルの上を見てみると、
そこには私のお弁当と朝食が用意されている。
そして1枚の便せんが……。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

お母さん

美琴、誕生日おめでとう。
今日は少し早めに家を出ます。
お弁当を忘れずに
持っていってください。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

落合 美琴

誕生日……か……。

 
 
――今日、5月9日は私の誕生日。


いつも変わらない日常だからこそ、
決心をするにはいいきっかけだ。

今までずっと我慢してきたけど、
もう限界だもん……。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

落合 美琴

あれ? 誰か来たみたい。

 
 
不意にインターホンの呼び鈴が
ダイニングに鳴り響いた。


こんな朝早くに誰だろう?
 
 

落合 美琴

はーい。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
私はダイニングを出ると、
玄関へ向かって真っ直ぐな廊下を
歩いていった。


玄関に着くと、
まずドアに付いた覗き窓から外を確認。

するとそこにいたのは間部翔くんだった。



彼は私の幼馴染で、今はクラスも同じ。
小学校に入る前からの付き合いだ。

でも中学に入ってからは、
一度もうちに来たことがなかったと思う。
どうしたんだろう?


学校とか外で会った時とかは
話をするけど、
それ以外の交流はなかったのに。

メールやSNSでのやり取りだって
滅多にしないし……。



私はドアチェーンを外し、ドアを開ける。
 
 

落合 美琴

おはよう、翔くん。
今朝はどうしたの?

間部 翔

ミ……コ……。

落合 美琴

っ!? 翔くんっ!

 
 
翔くんは私の顔を見ると
すごくホッとしながら優しく微笑んだ。

でも直後に全身がふらつき、
糸が切れた操り人形のように
前のめりに倒れそうになってしまう。


私は咄嗟に彼の体を抱きしめ、
辛うじてそれを回避した。



翔くん、どうしちゃったの?
目まいかな? 貧血かな?

一応、意識はあるみたいだけど……。
 
 

間部 翔

ミコ……サンキュな……。

落合 美琴

大丈夫?

間部 翔

悪いけど、
少し休ませてもらっていいか?

落合 美琴

あ……うん……。
あまりツライなら
救急車を呼ぼうか?
あるいは家に連絡する?

間部 翔

それはダメだ……。

 
 
翔くんはすがるように、私の腕を掴んできた。

その手は弱々しく震えていて、
とても同年代の男子とは思えないくらい
儚げな感じ。



まるで今にも消えそうな命の炎を
無理して燃やしているかのような……。
 
 

落合 美琴

でも……。

間部 翔

俺はミコにどうしても
伝えたいことがあって
ここに来たんだ……。

落合 美琴

伝えたいこと?

間部 翔

ゴメンな……ミコ……。
ゴメンな……。

 
 
なぜか翔くんはボロボロと
大泣きを始めてしまった。

それだけでも戸惑うのに、
口から出て来るのは
私に対する謝罪の言葉ばかり。



でも謝られることなんて思い当たらない。
だからなおさら戸惑ってしまう。
 
 

落合 美琴

ちょっ!? ちょっと?
なんで泣いてるの?
なんで謝るの?

間部 翔

う……うぅ……。

落合 美琴

と、とにかく中に入って。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
私は翔くんの体を支えてあげながら、
家の中に彼を入れた。

そして玄関の横にある客間に布団を敷いて、
そこへ翔くんを寝かせてあげる。

相変わらず体調は悪いままみたい……。



私は彼の横に座り、容態を見守る。
 
 

間部 翔

ミコ……ゴメンな……。

落合 美琴

翔くん、落ち着いて。
なんで私に謝ってるの?
私、翔くんに謝られるようなこと
されてないよ?

間部 翔

俺はミコを
助けてやれなかった……。
何度も何度も失敗した……。

落合 美琴

え? どういうこと?

間部 翔

信じてもらえないかも
しれないけど、
俺は何度も5月9日を
繰り返しているんだ。

落合 美琴

言ってる意味が……
分からないんだけど……。

間部 翔

……ミコ、今日はお前の
誕生日だろ?

落合 美琴

えっ? あ……うん……。
覚えててくれたんだ?

 
 
翔くんが私の誕生日を覚えててくれたなんて
ちょっと嬉しい。

ここ数年は何の音沙汰もなかったから、
忘れちゃってるんだろうなって
思ってたから。
 
 

間部 翔

誕生日だからって
区切りを付けて、
死のうとしてなかったか?

落合 美琴

っ!?

 
 
私は心臓が止まりそうになるくらい、
ビックリした。

だって考えていたことを
ズバリと当てられてしまったから。



動揺を隠そうとしてもそれができない。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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