真矢

ここは?

ミラ

ここは屋上だよ
君の通っていたね……

幽体であるせいか、ミラと真矢は降りしきる雨にも濡れることなく屋上にたたずむ。

ミラ

君は死んだ衝撃で記憶がないと思っているみたいだけど、違うんだ。
記憶は消したんだよ

僕が

真矢

え?
あなたが記憶を消した?

ミラ

そう
何も分からない君にイジメられるって言うのはどういうことか
味わってもらうためにね

真矢

話が見えてこないんだけど……

雰囲気が一転したミラに怯えたように真矢が訊ねる

それを見てミラは笑う。

ミラ

じゃあ、記憶を返してあげる

というより見せてあげるよ……

君の『罪』を……

真矢

アンタホントムカつくのよね~

真矢

ちゃんとお金用意しといてね?

真矢

ほら!
たちなよ!

真矢

きったなぁい!

真矢

これが……生前の私……

ミラ

否定しても無駄ってことは分かってるよね?

真矢

……

真矢は黙り込んだ。
屋上に戻ってきた段階で生前の記憶がすべて戻っていた

それだけにやたらめったら否定することができなかった。

真矢

私……なんてことしてたの……

その場で呆然と立ち尽くす

ミラ

今の君はここがどこだか分かるよね

ミラが優しい口調で問いかける

涙を流しながら真矢が答える。

真矢

私がイジメてた……女の子が……
自殺した場所……
ここから……
飛び降りた……

ミラ

そう……
君が人殺しをした場所

真矢

それは……

ミラ

でも、数日後何の因果か君も交通事故に遭って死んでしまった。

ミラ

本当なら君は速攻で地獄行きだったはずなんだ。
でもね、そんな君にやりなおす機会を与えたのは、君が自殺に追い込んだ彼女だったんだよ。

真矢

えっ?

真矢は涙で赤くはらした目を上げミラを見つめた。

ミラ

君に反省する機会をあげてほしいって
きっと自分がやったことがどれだけ悲惨だったかが分かれば、やり直せる人だからって。

真矢

そうだったの……

真矢の目に涙があふれる。
あんなにひどいことをしたのに信じてくれるなんて。

そう思うと同時に、情けなくもあった。

どうしてそんな人を自殺に追い込んでしまったのだろう。

しかし、その時に戻ることはできない。

ミラ

反省……出来たみたいだね

真矢

はい……

真矢の目に涙はなかった。

雨もいつの間にかやんでいた。

ミラ

じゃあ、行こうか……
下へ……まいります……

ミラの声とともに周囲は黒く染まる。

真矢は無重力空間を漂っているような感覚を覚えていた。

To the final floor...

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