2ヶ月後

 私は自衛隊駐屯地を出て、小夜とふたりで南に向かっていた。

 自衛隊のジープを運転して、壊れた線路を伝ってである。

駐屯地の周辺は、ほとんどやっつけたかな

うん、痴女はもういないんじゃないかな

というか、ここらへんの痴女は、みんな駐屯地に集まってたみたい

で、その痴女を私たちはすべてやっつけた

 ヤマイダレさんたちが去った後、私たちは駐屯地のなかの痴女を倒しまくった。

 それはオトナの人たちがいなくなって、なにをしたら良いのか分からなくなったからである。



 あれから——。

 私たちは、救助のヘリを待った。

 何時間も待った。何日も待った。

 待ちながら私たちは痴女を倒していた。

 そして2週間がすぎたころ、私たちは救助ヘリを待つことを止めた。

 痴女退治に注力したのである。


そして気がついたときには、駐屯地のなかの痴女は全滅していた

 私がため息をつくようにそう言うと、小夜は私を見ずに口もとだけで笑った。

 小夜は、アクセルを強く踏んだ。

 それからこう言った。


東京や大阪からも人は来なかった。だから私たちは駐屯地を出た

そして来ない理由を知った

駅は廃墟みたいになっていた。線路は朽ちて、とても電車が通れる状態じゃない

おそらく他の線路もこうなっている

そして、なぜか大きな道路には痴女が満ちている

ほんと意味が分からない。でも実際、国道69号線は痴女であふれてる。痴女で満ち満ちていて、とても通れる状態じゃない

あれじゃ駐屯地には来れないよ

うーん

はあ

 私たちの口から同時に、ため息がもれた。

 やがて小夜は気持ちをリセットするように、明るい声で言った。



でもコンビニは無事だったよね

あれは、ほんと謎だよね。痴女って、お店に興味無いのかな?

あのコンビニ、本屋とレンタルDVDも一緒になってたよね

それらに興味はないってこと?

うーん。でも他のお店とかぐちゃぐちゃだったしなあ

ホームセンターとか酷かった

分かんないねえ

分かんないよお

まあ、駐屯地が近いから、そっちに気を取られたんでしょ

 小夜は、そんなテキトーなことを言ってハンドルを切った。

 そうやって障害物をさけると、再び線路を伝い私たちは南へと進んだ。


ねえ、いつきと結婚しないの?

するかっ!

なんで?

なんでって女同士だし、意味分かんないから

でも、いつきは結婚式しようって

今日も駐屯地を出るとき言ってたね

まあ、実際危ないからなあ。私たち死んだり痴女になったりするかもしれないもん

でも、だからと言って

 結婚式を挙げようというのは、わけが分からない。

 私といつきは女同士、しかも中学生なのである。


いつきは心配なんだよ

だからって結婚とかあり得ないわ

だったら可愛がってあげれば好かったじゃん。エロい意味で

それはっ

まあ私たち、いつも一緒に寝てるけどね。でも今回は特別に、たっぷりと、こんな感じでさあ

 小夜はそう言って、私の胸に手を伸ばした。

 私は困り顔でしばらくまさぐられていたが、やがてため息をつくと、たしなめるようにこう言った。


駐屯地も安全になって、たしかにヒマになったけどさ。でも、私たち最近だらしない……というか、ふしだらだよね

お姉さんたちがいなくなってから、一気にだらけたよね

お風呂上がりにパンツでうろつくのは、さすがにどうかと思ったよ

あはは、だって家ではいつもそうだもん

でも、ショッピングモールだよ? ショッピングモールをパンツでうろつくかな?

しかもノーブラだったしね

 私たちは目と目があうと、どっと噴きだした。
 
 しばらくの後、小夜はしみじみと言った。

まあ、いつきが心配するのもよく分かる。それだけ今回は危険だよ

うん。でも絶対にやらなきゃいけない

69号線を越えなければならない

そこにいるボスくさい痴女を倒さなければならない

ヤツを倒し、南に行かなければならない

そう。私たちは南に行く必要がある

 なぜ、私たちは南に向かっているのか——。


 それはヤマイダレさんにもらった謎の暗号機のせいである。


 あの日。

 私はヤマイダレさんからチョコ棒のレシピをもらった。

 暗号機は、その小冊子のなかに隠されていた。

 初めの頃は、これが暗号機だとは分からなかった。


 暗号機は、唐突にディスプレイが光った。

 数字が表示されて、ぶるぶるとエロい振動がした。

 ボタンを押さなくても、いきなり振動した。

 私たちは、これをエロいオモチャだと結論した。


だって、持ち主がヤマイダレさんだから

 こっそり私にエロいオモチャをくれたのだと思ったのである。

 いや、よく考えれば、人が使い古したオモチャを使うというのは気持ちが悪いし、ヤマイダレさんだって人に使われてあまりいい気持ちはしないだろう。そもそもエロい物をコッソリ渡すというのが、ヤマイダレさんらしくない。

 しかし、このときの私たちは冷静な判断力を失っていた。

 お姉さんたちがいなくなり、セシリアちゃんたちを私たちが養っていかなければならなくなったという、強烈な不安と焦燥によって、私たちの脳ずいはしびれ、思考力がマヒしていたのである。


初めは胸ポケットに入れていたんだよね

そうそう。それでいきなり、ぶるぶるぶるって来て

あぁん

って、智子があえいで

そんな声あげてないっ

あはは、でも結構、悦んでたじゃん

まあね

夢中になったよね

エスカレートしていったよね

パンツとパンツの間に、はさんで生活してたよね

あれは酷かった

でも面白かった

いきなり振動くるからね

 で。

 そんな頭の悪いことをしているときに、いつきが発見した。

 この暗号機は、電源を入れたときに振動する——ということに。


それからが、また酷かった

完全にエロいオモチャだったよね

ジャンケンで負けた人に、暗号機をあてて遊んだもんね

なんか途中からジャンケンで勝った人があてられる役になってたし

だって気持ちよかったもん

うん

 私は、羞恥に頬(ほほ)を赤らめ、うなずいた。

 すると小夜は、私の太ももをなでた。

 しつこくてねちっこくて、とても女子中学生とは思えない、オッサンみたいななでかただった。

 私は、ぺちんとその手を叩いた。

 そして言った。


そうやって遊んでるときに、やっぱり、いつきが気がついた

この光る文字に意味があるんじゃないかってことに

ヤマイダレさんが、数字を送っているじゃないかってことに

そう。ポケット・ベルの『ベル』は、『呼び鈴』のこと。ヤマイダレさんは、この暗号機で私たちになにかメッセージを送っているんじゃないかって

 そのことに、私たちはようやく気がついたのである。

 散々エロい使いかたをした後で。……。

暗号機には、ポケット・ベルという文字のほかに、電話会社のマークが入ってた

古い機械だけど、お店で売ってる可能性がある

ショッピングモールで調べたけど分からなかった。ネットがつながらないし、本屋さんだって小さい

でも、69号線の向こうには、大きな駅がある

中学や高校がある。図書館や市役所がある

そこで調べることができるし、それに

 もしかしたら人に会えるかもしれない。

 コシノクニ最大の駅『コシノクニ駅』まで行けば、この古い暗号機を知っている誰かに会えるかもしれない。

 しかもそれだけではない。

 駐屯地と駅との道の安全を確保し、駅の機能を回復させれば、きっと——。


全国から人が集まってくるかもしれない

 私たちはそんな希望を胸に、南に向かっているのである。


着いたよ

 小夜はそう言って、ジープを止めた。

 私たちは、駐屯地から持ってきた、ありったけの武器を装備した。

 小夜は、69号線の高架を見上げた。

 そこにあふれる痴女たちに、ロケットランチャーを向けた。

 それからこう言った。


あいつを倒せば、あとはどうにかなる


 そこには、ひときわヤバイ、みるからにボスくさい痴女がいた。

 痴女は私たちを見つけると、高架の上から仲間の痴女を投げてきた。

 そして、ヤツは腰をくねらせ威嚇した。

うふぅん

pagetop