桜花

保健室についたらとりあえず、けいちゃんを殴らせてください

桜花は依然と慧人の背中に体を預けながら、顔を真っ赤にしていた
登校中はお姫様抱っこ、学校についてからは背負われ…こんなにも慧人の熱を感じたのは初めてだった

慧人

おお
それは怖い、怖い

桜花

全く怖そうじゃ有りませんね
…うう、自分が不甲斐ないです

慧人

こういう経験も、台本かいたりするのに役立つかもよ

一人分の足音に、響く会話
早朝の時間帯ともあって、生徒はあまり登校してきていない様子だ

保健室を前にして二人は立ち止まっていた
目的地は、もちろんここで合っている。しかし、中から聞き覚えのある声が聞こえ、なかなか中に入れない状況となっていた

淳史

もう、どこにも逃げられませんよ?
覚悟してください

淳史

そんなに動いたら駄目ですって
じーっとしてないともっと痛くなりますってば



桜花

この声って淳史君?

慧人

みたいだな…
つーかお取込み中?もしかしたらタイミング最悪とか

桜花

タイミングって何よ?
大体、保健室に行かないと私はずーっとこのまま恥ずかしい状態なんだけど!!!

慧人

わ、分かったから

慧人は意思を固めたように、ドアに手を掛ける

淳史

あれ?
先輩方どうしたのですか

両手に猫を抱えながら、淳史はキョトンとした顔をしていた

桜花

淳史君こそ、その猫どうしたの??

淳史

登校中に見つけちゃって…
怪我してるみたいだったので、簡単な消毒だけでもと思ったんですけど。とっても元気なんですよね

苦笑いを浮かべながら、淳史は腕の中で暴れる猫に視線を落とす
にゃーと甘えるような鳴き声、しかし、その動きはとても甘えているように見えなかった

慧人

なーんだ
桜花と同じって事じゃん

桜花

人を猫と同じにしないでくれます?

ソファーに降ろされた桜花は手足をばたつかせながら、先ほどまでの不満をぶつけるように慧人に悪態をつく

淳史

先輩が立って仲良しですよね

桜花

どこが!?

慧人

そー、仲良し!

食い違う反応をほほえましく眺める淳史
その腕に包まれた猫もまた「にゃぁー」と同意を示しているようだった

淳史

桜花先輩って猫っぽいですよね

こっそりと桜花にバレないようにつぶやく
それに気付いたように慧人は親指を立てるのであった

慧人

お、予鈴だ
じゃあ、桜花は先生にしっかり治療してもらえよ。淳史はその猫どうにかしろよ

「はーい」「分かりました」
と口々に返事を返し、慧人を送り出す
ごろごろと喉を鳴らす猫もまた、2人と同じように返事をしているようだ

淳史

桜花先輩、ちょっと話を聞いてくれませんか?

桜花

ん?
いいけど

それは、淳史の昔話の始まりであった

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