放課後になり、私は帰りの支度をしていた。


依然として翔くんは保健室にいるみたいで、
一度も教室に戻ってきていない。

大丈夫かなぁと思っていたその時、
上野さんたち3人が歩み寄ってきて、
私の周りを壁のように囲んだ。



また虐められるんだろうか?
緊張して自然と表情が強張ってしまう。
 
 

落合 美琴

え、えっと、どうしたの?

上野 里多

私たち、間部くんを誘って
一緒に帰ろうと思うんだ。
落合さん、付き合ってくれる?

落合 美琴

私もっ?

的場 麗奈

私たちだけより
落合さんがいる方が
OKしてくれそうだし。
――ダメかな?

落合 美琴

ううん、そんなことないよ。
今、荷物をまとめるから
ちょっと待ってて。

的場 麗奈

うんっ♪

 
 
意外な申し出だった。

まさか上野さんたちから誘われるなんて。
そんなこと、今まで一度もなかったし。



本当は彼女たちとは一緒にいるどころか
顔も見たくない。
そういう気持ちになるようなことを
ずっとずっとされ続けてきた。

今朝なんか自分の命を絶とうって
決意までしていたくらいだもん。


でもそのあと翔くんの体調が心配で、
今はその気持ちが
少し揺らいじゃってるけど……。



彼女たちも翔くんのことが心配なんだろうな。

これをきっかけに
少しでも仲が良くなったらいいな。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
私は急いで荷物をカバンに入れ、
上野さんたちと一緒に教室を出た。

そして保健室へ向かって歩いていく。
 
 

狭山 あゆ

あっ! 忘れてたっ!
私、先生に頼まれていたことが
あったんだ。

上野 里多

え? そうなの?

狭山 あゆ

花壇の雑草を
抜かないといけないんだよ~。
宿題を忘れた罰として……。

的場 麗奈

自業自得じゃない。

狭山 あゆ

悪いけど、
誰か手伝ってくんない?

上野 里多

1人で行きなよ。
私は嫌だからね?

的場 麗奈

私たちは保健室で
待っててあげるから。

狭山 あゆ

2人とも冷たいなぁ。
じゃ、落合さん。
一緒に手伝ってもらってもいい?
お願いっ!

落合 美琴

あ……うん……。
いいよ。私でよければ。

 
 
私はちょっと迷ったけど、
狭山さんに付き合ってあげることにした。

1人だけだと大変だし心細いもんね。
それに一緒にやれば早く終わるし。
 
 

狭山 あゆ

ありがと~っ!

 
 
こうして上野さんと的場さんは保健室へ、
私は狭山さんと一緒に花壇へ
移動することになった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
私たちは下駄箱で靴を履き替え、
校舎の横にある花壇へ向かって
歩いていこうとした。

でもなぜか狭山さんは私の服を摘んで
それを止める。
 
 

狭山 あゆ

落合さん、
そっちの花壇は後回し。
まずは体育倉庫の横にある
プランターからやろうよ。

落合 美琴

えっ? そうなの?

狭山 あゆ

うん。1か所じゃないんだ。
ゴメンね、付き合わせちゃって。

落合 美琴

ううん、いいよ。

狭山 あゆ

じゃ、私に付いてきて。

 
 
私は狭山さんに付いていくことにした。


そっか、何か所もやらないといけないなら、
誰かに手伝ってほしいって思うよね。
だって大変だもん。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
前を歩いていた狭山さんが足を止めたのは、
校庭の隅にある体育倉庫の裏だった。

ここは体育の授業で使う道具が
保管されている建物で、
校舎から離れているから周りには誰もいない。


こんな場所にも
プランターがあるなんて意外だったな……。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

落合 美琴

きゃっ!

 
 
突然、背中に強い衝撃が走った。
私は手をつくこともできず、
前のめりに倒れてしまう。


なんとか顔を地面にぶつけるのは
避けられたけど、
膝や腕は少し擦りむいてしまった……。
 
 

落合 美琴

何が起きたの?

 
 
私は上半身を起こし、振り向いてみた。

するとそこには保健室へ向かったはずの
上野さんと的場さんが立っていて、
冷たい瞳で私を見下ろしていた。
 
 

落合 美琴

これは……っ!?

上野 里多

ホントにアンタって
バカでお人好しね。
それにムカツクし。

狭山 あゆ

こんなところにプランターが
あるわけないじゃん。
おかしいって思わなかったの?

的場 麗奈

落合さん、
背中に里多の足跡が
くっきり付いちゃってるよ?
おっしゃれ~♪

 
 
的場さんの言葉を聞いて、
私は上野さんに蹴られたのだと理解した。

それと同時に私は……
嵌められたのだとようやく気付いた。



ホント……私はバカだ……。
 
 

上野 里多

アンタさ、調子に乗りすぎ。
邪魔だしウザイし。
だから今日は
身の程ってものを教えてあげる。

的場 麗奈

里多を本気で怒らせちゃダメだよ。
間部くんを保健室へ
連れていく役目、
素直に譲っていれば良かったのに。

狭山 あゆ

そんな気が回るわけないよ。
バカで鈍感でKYだもん。

上野 里多

たっぷり可愛がってあげる。
素直になるまでね。

落合 美琴

っ!?

 
 
上野さんの手にはハサミが握られていた。

彼女は無表情で私を見下ろしながら、
アゴで的場さんと狭山さんに合図を送る。



まずいと思って逃げようとした時には
手遅れだった。

あっという間に2人に
体を押さえつけられてしまって
身動きが取れない。
激しく体を動かして抵抗しても無駄だった。



上野さんは私の前でしゃがむと、
私の髪の毛を引っ張って
無理矢理に顔を上げさせられる。
 
 

落合 美琴

痛い……。

上野 里多

安心して。
ハサミで肌を切ろうって
ワケじゃないから。
でも暴れたら分かんないよ?

的場 麗奈

大人しくしていた方が
安全だと思うよ?

落合 美琴

う……ぐ……。

 
 
私は……抵抗する気が失せた……。

全身から力を抜き、暴れるのをやめた。
すると3人はニヤニヤと冷笑を浮かべる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 





 
 
 
 
 
 
 
 
その後、ハサミで髪の毛や制服、
スカート、下着までハサミで切られた。

心まで完全に切り刻まれちゃった……。


自然に涙が溢れていたみたいだけど、
そんなことで3人が怯むわけもなく、
日が暮れるまで酷い目に遭わされた。





神様……見ているんでしょ……?
なんで助けてくれないの……?
 
 

落合 美琴

もう……イヤだよ……。

 
 
私はボロ雑巾みたいな格好のまま、
学校の非常階段の一番上に立っていた。


昼間と比べると風は結構冷たい。
せめて最期くらいはもう少し暖かくて、
穏やかだったらいいのに……。




私は手すりを乗り越え、
そのまま空中へ向かって体重を傾けた。





神様、あの世へ逝ったら文句くらいは
言わせてくださいね……。
 
 

 
 
 
次回へ続く……。
 

4回目(3) なんで助けてくれないの?

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