教室に着いて授業が始まってからも
翔くんの体調は悪そうだった。
机の上に教科書やノートは置いてあるけど、
全然見ていない感じ。
両肘を付いて上半身を支えながら、
肩で息をしている。
私の席は廊下側の一番後ろで、
翔くんは斜め前の席。
だからどうしても目に入るし、
朝の様子も知っているから
気にせずにはいられない。
今日は『あの決意』をしていたはずなのに、
それすらも忘れてしまうくらいに
色々と起きてしまっている。
教室に着いて授業が始まってからも
翔くんの体調は悪そうだった。
机の上に教科書やノートは置いてあるけど、
全然見ていない感じ。
両肘を付いて上半身を支えながら、
肩で息をしている。
私の席は廊下側の一番後ろで、
翔くんは斜め前の席。
だからどうしても目に入るし、
朝の様子も知っているから
気にせずにはいられない。
今日は『あの決意』をしていたはずなのに、
それすらも忘れてしまうくらいに
色々と起きてしまっている。
大丈夫かな、翔くん……。
――よし、次の練習問題を
解いてもらうぞ。
出席番号順で次は間部だな。
…………。
おい、間部。返事をしろ。
反応がない翔くんに対して、
数学の山本（やまもと）先生は
やや語気を荒げて問いかけた。
すると翔くんはゆっくり体を起き上がらせ、
顔を上げて山本先生の方を見る。
あ……はい……。
なんですか？
ん？ お前、顔色が悪いな？
山本先生、
間部くんは朝から
体調が悪そうでした。
すかさず上野さんが
数学の山本先生に向かって経緯を説明した。
それに的場さんや狭山さんも同調する。
すると山本先生は眉を曇らせ、
翔くんを心配そうに見やる。
そうなのか？
間部、無理せず保健室へ行け。
……俺なら大丈夫です。
…………。
山本先生は厳しい目つきで
翔くんの様子を観察していた。
それから少しの間が空いたあと、
山本先生は突然、
なぜか私の方へ視線を向けて口を開く。
……おい、落合。
っ!? は、はいっ？
お前は保健委員だったよな？
間部を保健室へ連れていけ。
頼んだぞ。
…………。
は……はい……。
上野さんに睨まれちゃったけど、
先生からのご指名なら断るわけにはいかない。
それに翔くんのことが心配なのは確かだし。
私は教科書やノート、
筆記具を机の中へ押し込んでから立ち上がった。
そして翔くんに歩み寄って、
彼の体を支えながら立たせてあげる。
ミコ……
俺はここを離れたくない。
ダメだよ、
そんなワガママを言ったら。
……っ……。
私と翔くんは廊下へ向かって歩き出した。
彼の体重と体温、においがすごく感じられる。
なんだかすごくドキドキする。
ほらほらっ！
ほかのやつは授業を続けるぞ。
間部の次は水野（みずの）だな。
水野、前に出てきて問題を解け。
はいっ！
私たちは廊下に出ると、
翔くんの歩くペースに合わせて
少しずつ保健室へ向かった。
翔くん、足取りがフラフラしていて心配……。
保健室に着くと、
私は保健の久我山（くがやま）先生に
事情を説明した。
そして翔くんをベッドに寝かせるのを
手伝ってから教室へ戻ろうとする。
でも、その時――
えっ？
ミコ……行かないでくれ……。
翔くん……。
翔くんは必死に腕を伸ばし、
私の腕を強く握って引き留めようとしていた。
その瞳には涙が浮かび、
真っ直ぐ私を見つめている。
これはワガママとか、そういう感じじゃない。
ダメでしょ、間部くん。
落合さんを困らせたら。
だったら俺は教室へ戻る！
こんなところで寝ているわけには
いかないんだ！
どうしてそこまで……。
もう後悔するのは……
あんな辛い想いをするのは
イヤなんですっ！
落合さん、どうする？
どうするって……私は別に……。
正直、私も戸惑っていた。
こんなに苦しそうなのに、
なんで翔くんは教室へ戻りたがるのか？
今日の時間割では
翔くんの好きな教科はないはずだし、
重要な課題や小テストが出るという話も
聞いていない。
――つまり何かほかに
理由があるってことなのかな？
仕方ないわね。
休み時間まであと5分だし、
落合さんがいいって言うなら
認めてあげましょう。
ただし、休み時間までよ？
次の授業はダメだから。
ミコ……。
……分かった。一緒にいてあげる。
結局、私は次の授業が始まるまで
翔くんの隣にいることにした。
次回へ続く！
