止まれ。ここは関係者以外立ち入り禁止だ
それは、この私でもか?
ナルシス様!……無礼をお許しください
構わないさ。寧ろ職務に忠実な点を評価したいくらいだ
「奴」の様子はどうだ?
何も変化はありません。しいて言えば、口数が減ったくらいでしょうか
確か、1月前に手術をしたらしいが
そちらも問題ありません。徐々に回復していますよ
ならばいい。面会しても大丈夫か?
勿論構いませんが、手術して間もないのであまり長くは……
………分かった。手短に済ませよう
久しぶりだな、ホルテンジー
……こんばんは、ナルシス卿。いつか来ると思っていました
随分と悠長な考えだな。あの一件以来面会すら無かった私が、いつか来るだと?
ええ。いつかは来ると思っていました
……何か知ってるのだな?
さて。私にはあなたの心を読むことはできませんので、断言はできませんが
なら大方の察しはついているだろう。クネート・グミ孤児院に関することだ
ええ、ついていましたとも。私とあなたの関係上、それ以外の問答などありえませんからな
それで、クネート・グミの何を聞きたいのですかな?
なら、単刀直入に聞こう
貴様は孤児院が解散するまでの数年間、最低15人の子供たちを新しい親に引き渡していたそうだな。その親とは誰だ?
………それには、何と答えれば満足するのでしょうか
その親が全員同一人物だった、とかですか?
……ほう
ナルシス卿、私は腐っても元神父です。そして、神父とは神の代弁者として子供の未来を少しでも明るくするのが使命と心得ています
それに、貧困街で生活していたおかげで多少は人を見る目も養われたと思っております。見るからに怪しい人ならば、さすがに気づくでしょう
では、他に取引で変わったことは何もなかったのか?比較的な見地で構わん
そうはいっても、随分と前のことになりますからな……。何か覚えてることと言われても
………いや、草
なに?
いえ、ぼんやりとですが……引き取る場所はいつも草のようなにおいがしていたのですよ。しかも、頭がクラクラする位強い匂いが
それが老体には辛くて、ふらふらになりながら孤児院に帰っていたんです
具体的な取引の場所は?
貴方が闇賭博と言っていた近くの閉店した娯楽場ですよ。私がいつも指定していたんです。孤児院から近いので
……結局、有力な情報は得られないままか
そういえば、貴様手術をしたそうだな
ええまあ。しかし、ご存じなかったので?私が手術をしたことを
………片付ける書類があまりに多いものでな。政務に関することが多いから、おのずと自分の抱える問題は後回しになる
なるほど、大貴族も色々と大変なご様子で
確かに手術はしました。私の立場上正規のお医者様は使えないということで、闇医者の方にしてもらいました。実に素晴らしい腕をお持ちでした
なんでも、私の肺はあまりに危険な状態だったようで、特殊な方法で手術すると言っていました。宝石がどうとか……いやはや、麻酔であまり意識もなかったもので
………宝石?
しかし、手術が終わってみれば体がとても軽くて!呼吸もしやすいし、まるで体中にパワーがみなぎってくるようです
待て!その医者の名前は――――!!
ぐっ………!なんだ……急に息が………
ホルテンジー?
ぐっ……ううっ………!
ぐあああああああっ………!!
何が……起きてるんだ?
ナルシス様!今の叫び声は!?
があああああああっっ!!
これは………ホルテンジー!?
こいつを撃て!!今すぐだ!!
は、はいっ!!
あああああああっっ――――!!!!
はぁっ……はあっ……
ナルシス様、今のは………?
………誰だ
へっ?
シャンブル・ヤーデに手術を手配したのは誰だと聞いているんだ!
それは……彼の方から売り込んできたんです
何?
彼が自ら申し出てきたんです。エーデルシュタイン家には伝手があるし、心配いらないと
何故それをすぐに報告しなかったんだ!!
生命の危険があるというので……事後報告になってしまい、申し訳ありません
もういい!それより、ホルテンジーの手術したところは肺だといったな!?
はい。左の肺を手術したと………
………クリエっ!!