止まれ。ここは関係者以外立ち入り禁止だ

ナルシス・エーデルシュタイン

それは、この私でもか?

ナルシス様!……無礼をお許しください

ナルシス・エーデルシュタイン

構わないさ。寧ろ職務に忠実な点を評価したいくらいだ

ナルシス・エーデルシュタイン

「奴」の様子はどうだ?

何も変化はありません。しいて言えば、口数が減ったくらいでしょうか

ナルシス・エーデルシュタイン

確か、1月前に手術をしたらしいが

そちらも問題ありません。徐々に回復していますよ

ナルシス・エーデルシュタイン

ならばいい。面会しても大丈夫か?

勿論構いませんが、手術して間もないのであまり長くは……

ナルシス・エーデルシュタイン

………分かった。手短に済ませよう

ナルシス・エーデルシュタイン

久しぶりだな、ホルテンジー

ホルテンジー

……こんばんは、ナルシス卿。いつか来ると思っていました

ナルシス・エーデルシュタイン

随分と悠長な考えだな。あの一件以来面会すら無かった私が、いつか来るだと?

ホルテンジー

ええ。いつかは来ると思っていました

ナルシス・エーデルシュタイン

……何か知ってるのだな?

ホルテンジー

さて。私にはあなたの心を読むことはできませんので、断言はできませんが

ナルシス・エーデルシュタイン

なら大方の察しはついているだろう。クネート・グミ孤児院に関することだ

ホルテンジー

ええ、ついていましたとも。私とあなたの関係上、それ以外の問答などありえませんからな

ホルテンジー

それで、クネート・グミの何を聞きたいのですかな?

ナルシス・エーデルシュタイン

なら、単刀直入に聞こう

ナルシス・エーデルシュタイン

貴様は孤児院が解散するまでの数年間、最低15人の子供たちを新しい親に引き渡していたそうだな。その親とは誰だ?

ホルテンジー

………それには、何と答えれば満足するのでしょうか

ホルテンジー

その親が全員同一人物だった、とかですか?

ナルシス・エーデルシュタイン

……ほう

ホルテンジー

ナルシス卿、私は腐っても元神父です。そして、神父とは神の代弁者として子供の未来を少しでも明るくするのが使命と心得ています

ホルテンジー

それに、貧困街で生活していたおかげで多少は人を見る目も養われたと思っております。見るからに怪しい人ならば、さすがに気づくでしょう

ナルシス・エーデルシュタイン

では、他に取引で変わったことは何もなかったのか?比較的な見地で構わん

ホルテンジー

そうはいっても、随分と前のことになりますからな……。何か覚えてることと言われても

ホルテンジー

………いや、草

ナルシス・エーデルシュタイン

なに?

ホルテンジー

いえ、ぼんやりとですが……引き取る場所はいつも草のようなにおいがしていたのですよ。しかも、頭がクラクラする位強い匂いが

ホルテンジー

それが老体には辛くて、ふらふらになりながら孤児院に帰っていたんです

ナルシス・エーデルシュタイン

具体的な取引の場所は?

ホルテンジー

貴方が闇賭博と言っていた近くの閉店した娯楽場ですよ。私がいつも指定していたんです。孤児院から近いので

ナルシス・エーデルシュタイン

……結局、有力な情報は得られないままか

ナルシス・エーデルシュタイン

そういえば、貴様手術をしたそうだな

ホルテンジー

ええまあ。しかし、ご存じなかったので?私が手術をしたことを

ナルシス・エーデルシュタイン

………片付ける書類があまりに多いものでな。政務に関することが多いから、おのずと自分の抱える問題は後回しになる

ホルテンジー

なるほど、大貴族も色々と大変なご様子で

ホルテンジー

確かに手術はしました。私の立場上正規のお医者様は使えないということで、闇医者の方にしてもらいました。実に素晴らしい腕をお持ちでした

ホルテンジー

なんでも、私の肺はあまりに危険な状態だったようで、特殊な方法で手術すると言っていました。宝石がどうとか……いやはや、麻酔であまり意識もなかったもので

ナルシス・エーデルシュタイン

………宝石?

ホルテンジー

しかし、手術が終わってみれば体がとても軽くて!呼吸もしやすいし、まるで体中にパワーがみなぎってくるようです

ナルシス・エーデルシュタイン

待て!その医者の名前は――――!!

ホルテンジー

ぐっ………!なんだ……急に息が………

ナルシス・エーデルシュタイン

ホルテンジー?

ホルテンジー

ぐっ……ううっ………!

ホルテンジー

ぐあああああああっ………!!

ナルシス・エーデルシュタイン

何が……起きてるんだ?

ナルシス様!今の叫び声は!?

ホルテンジー

があああああああっっ!!

これは………ホルテンジー!?

ナルシス・エーデルシュタイン

こいつを撃て!!今すぐだ!!

は、はいっ!!

ホルテンジー

あああああああっっ――――!!!!

ナルシス・エーデルシュタイン

はぁっ……はあっ……

ナルシス様、今のは………?

ナルシス・エーデルシュタイン

………誰だ

へっ?

ナルシス・エーデルシュタイン

シャンブル・ヤーデに手術を手配したのは誰だと聞いているんだ!

それは……彼の方から売り込んできたんです

ナルシス・エーデルシュタイン

何?

彼が自ら申し出てきたんです。エーデルシュタイン家には伝手があるし、心配いらないと

ナルシス・エーデルシュタイン

何故それをすぐに報告しなかったんだ!!

生命の危険があるというので……事後報告になってしまい、申し訳ありません

ナルシス・エーデルシュタイン

もういい!それより、ホルテンジーの手術したところは肺だといったな!?

はい。左の肺を手術したと………

ナルシス・エーデルシュタイン

………クリエっ!!

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