両親の葬儀は、俺が喪主を務め、厳粛に執り行われた。

 理事長であった父、院長であった母の葬儀ということもあり、弔問に訪れる人々は一般家庭のそれよりも数倍多かったように感じた。

 そして葬儀が終わり、先祖代々の墓への埋葬を済ませた俺は、副院長の拓海と「理事長就任」に関する話を進めることにした。

二宮 拓海

麗明様。喪主、お疲れ様でした。

早乙女 麗明

いや、俺よりも拓海の方が疲れているだろう?
拓海がいなかったら、弔問に訪れた病院関係者の1人も分からなかったはずだ…礼を言わせてくれ!

二宮 拓海

そうおっしゃって頂けて光栄です。

二宮 拓海

さて、麗明様の理事長就任についての話ですが…

 拓海は、1枚の紙を差し出した。

 そこには…

・理事会での承認

・所信表明

・短期経営安定化計画の提示

と書かれている。

早乙女 麗明

俺が理事長に就任するにあたり、障害となる壁だな…

二宮 拓海

そうです。
まず、一つ目の壁はクリアしたも同然の状態かと思われます。

早乙女 麗明

拓海を含めた全理事が、俺の理事長就任を認めているんだったよな…

二宮 拓海

はい。

ただ、その条件として理事会冒頭で「所信表明」を行って頂き、理事たちに「理事長になる決意が伊達じゃない」ことを明らかにすると共に、短期的な病院の経営目標を掲げて頂く必要があります。

早乙女 麗明

その紙の最後に「短期経営安定化計画の提示」とあるが…?

二宮 拓海

はい…

 すると拓海は「早乙女病院事業損益計算書」と書かれた書類を見せてきた。

 すると…

早乙女 麗明

「当年度未処理欠損金」が…30億円だって!?

早乙女 麗明

生前、俺は両親から「病院経営のことは問題ない」と言われていたんだが…

二宮 拓海

それは、恐らく一昨年度までのことでしょう。

二宮 拓海

数年前、先進医療を行う病院として厚生労働大臣が承認を受けたことはご存知ですよね?

早乙女 麗明

確かに、生前の親父から、そんな話を聞いた覚えがあるな…

二宮 拓海

実は、その認定を受けるために、本院は銀行が多額の借金をし、先進医療を行うための施設・設備を整えたんです。

早乙女 麗明

そう言えば、俺が学生時代から、病院に大掛かりな工事が入っていたな。あの工事は、そのためだったのか…

二宮 拓海

実は、多額の費用を費やして環境を整えた「先進医療」を、本院で受ける患者数が伸び悩んでいるんです。

早乙女 麗明

環境は整っているのに、病院の収入となるはずの「患者」様かいらっしゃらない、ということか!?

二宮 拓海

ええ。
そのため、院長と理事長が長年かけて積み上げてきた、本院の「繰越利益剰余金」が一昨年度に底をつき、昨年度から「欠損」の状態になってしまったんです…

早乙女 麗明

なるほどな…

早乙女 麗明

つまり、俺が理事長に就任したければ、その「欠損金」をどうやって穴埋めしていくか、そのビジョンを示さなければならない、という訳だな…

二宮 拓海

その通りです。
院長と理事長がお亡くなりになったあの事故の日の理事会で「次回の理事会までに打開策を打ち出す」と、理事長はおっしゃっていたいました。

早乙女 麗明

親父と母さんが考えたその「打開策」のヒントが、きっとどこかにある、ということだな…

二宮 拓海

はい!
院長と理事長は、根拠もない思い付きで理事会を振り回すような方ではありませんでした。

二宮 拓海

きっと、お二人でお考えになった、その打開策に関する根拠となるようなものを、書面で残していらっしゃるはずです!!

早乙女 麗明

わかった。
2人の遺品も整理したいから、整理しながら探してみるとするか。

二宮 拓海

理事長不在のまま時が流れるのはまずかろうという長老理事のご判断で、緊急理事会を1週間後に開く予定になっています。

二宮 拓海

できれば、そこまでに院長と理事長が残した打開策を見つけ出し、麗明様が新しい理事長にご就任下さいませ。

早乙女 麗明

分かった。

 こうして俺は、親父と母さんが残した「打開策」を探すこととなったのだった。

 episode3 に続く

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