病院に到着すると、出迎えてくれた職員の案内で、俺は親の元へと通された。

早乙女 麗明

 執刀した医師によると、両親を乗せた車は前後を走っていたトラックに挟まれ、事故が発生したその瞬間に両親は「圧死」した可能性が高いとのことだった。

 それでも、顔が全く傷ついていない状態でこの場に両親の遺体があるのは、奇跡とも呼べる状況だろう。

早乙女 麗明

親父…それに、母さん…
好き勝手やって、全然親孝行できなかった…すまない…

副院長

麗明様!!

 こいつは副院長。
 両親の懐刀という奴で、人事権をはじめとした多くの権限を持っていると聞いている。

 俺をここまで呼び寄せたのも彼だ。

早乙女 麗明

副院長…

副院長

麗明様…お話があるのですが、ここではちょっと…

早乙女 麗明

それじゃ院長室へ行こう。

副院長

分かりました。

早乙女 麗明

それで…話って何だ!?

副院長

実は、生前の院長並びに理事長より
「もし私たちの身に不測の事態が発生した際は、速やかに…

副院長

理事長の座に麗明を据えること」

副院長

という遺言を預かっています。

 副院長が茶封筒を俺に渡してくる。

 「緘」(かん)の印でしっかりと封印された封筒の表には「○○公証役場」と印刷されている。

 俺は封印された封筒を、生前院長が使っていたデスクに無造作に置かれていたペーパーナイフで解くと、中に入っていた1枚の書類を取り出した。

 その書類には「公正証書遺言」と記され、俺に病院経営の全権を任せることや、財産などの全てを俺に相続させる旨が記載され、親父、証人・公証人のサインと印が押されていた。

早乙女 麗明

…確かに、副院長の言っていることに間違いはないようだな…

副院長

はい。私も、この病院の理事の1人ですが、全理事がこのことを承知し、認めています。

副院長

麗明様。院長、そして理事長の遺言に従い、本院の新しい理事長にご就任下さい!

早乙女 麗明


どうやら、年貢の納め時のようだ…

早乙女 麗明

とは言え…副院長、生まれ育った場所とはいえ、俺はこの病院のことをまるで知らない。
親父や母さんのために働いたように、俺にも力を貸してくれないか?

副院長

もとよりそのつもりです。
生前の院長・理事長にお仕えしたように、今後は麗明様にお仕えいたしましょう。
それから、今後は、私のことは名前でお呼び下さい。

早乙女 麗明

分かったよ。拓海。

二宮 拓海

ありがとうございます。

 こうして、俺は早乙女病院の運営元である医療法人の理事長に就任すべく、拓海と共に準備を開始したのだった。

episode2 に続く

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