神 斬
髪 切 り屋

参の巻 金剛

2.石道 4

朱右

しかし、なんでお寺である慈尊寺の境内に稲荷神社があるんですかね?
白狐さんなら理由わかりますよね・・・

白狐

もちろん知っておるが、その説明はこの修行中に、これからそなたが会いに行く人物に聞いてくれ

こんな会話をしながら慈尊寺の境内の奥に歩いていく
俺の眼前には、何段もある階段が聳(そび)えたっていた。
慈尊寺(じそんじ)の奥に続く階段の中ほどと最上段には、なぜか鳥居が見える。
階段の手前の石碑にはこう書かれている。

弘法大師(こうぼうだいし)建立の社(やしろ)光野山 町石道(ちょうせきどう)登山口
丹砂官省符神社(たんさかんしょうぶじんじゃ)

朱右

で・・・、白狐さんの後ろを、慈尊寺の境内からついてきている、白いワンちゃんは、今回の修行と何か関係があるのですかね?

白狐

さすがは朱右、そなたは、勘がするどいのぉ
このお犬さんは、コン殿という名で、我が友の、所まで、そなたを案内してくれる、お犬さんなのじゃ

朱右

なんとなく、修行する事はわかってきましたが・・・・汗
駐車場に止めてある車は、どうするんですかね?
長い時間、お寺の参拝用駐車場に止めておくわけにはいかないでしょ

白狐

朱右はあいかわらず、心配性じゃのぉ


言いつつ、白狐は肩からかけていた小さなかばんから何やらゴソゴソと取り出した。

朱右

朱右、この自動車運転免許証が目に入らぬか

写真
氏名 稲荷 要子
生年月日 太古2月最初の午(うま)の日
本籍 八雲の国意宇郡佐草227
住所 木の国在田郡糸鹿山172清の峯立岩
交付 現代2008年9月10日  105172
現代 2014年2月最初の午(うま)の日の1ヶ月後まで有効 
       ゴールドのライン
運転免許書  
番号 第172 105 1192 172     
種類 普通

免許書を見せてなんだか、すごく、誇らしげな白狐さんであった。

白狐

初心運転者標識(しょしんうんてんしゃひょうしき)
通称若葉マークも、ホレ、ちゃんと持ってきておる

朱右

・・・・・いつの間に、免許取ってたんですか?
7月くらいに、昼間、家で白狐さんの気配がしなかったのは、これが、原因だったんですか

白狐

うむ、そうじゃ

朱右

しかし、免許取りたてで、ゴールドはないでしょ
若葉マーク持ってるのに

白狐

こまかいことは、気にするな、神である、我はいろいろと顔がきくのでのぉ

白狐

で、本題じゃ、心して聞くがよい

若葉マークと免許証を、かばんに入れながら白狐さんが言った。

白狐

そなたは、ここから、光野山に向けて登っていくのじゃ

階段を登りながら白狐さんは言った

朱右

ええっ、白狐さんは、一緒に行かないんですか?

   
白狐の後ろについて行きながら朱右が言った

白狐

我は、そなたの車を光野山まで、運転していくという
それは、それは、重要な任務があるのでなぁ

朱右

俺一人で歩いてですか、道に迷ったらどうするんですか

朱右

そのために、我が友に、わざわざ下げたくもない頭を下げて
案内してくれる、コン殿を、ここに、来させてもらったのじゃぞ

犬のコンはワンと鳴いた

白狐

つべこべ言わず、今、そなたが立っている場所の横を見るのじゃ

白狐さん、コンちゃん、俺は、丁度階段の中ほどの鳥居の前に立っていた。
俺は白狐さんにいわれたように、右側の横を見た。

朱右

石の柱が立ってますけど

白狐

その石の柱は町石といって、石でできた卒塔婆(そとば)なのじゃ
朱右よ、その町石に書かれている数字を読んでみい

朱右

百八十町って書いてます

白狐

そのように、町石には数字が書かれている
一町「長さの単位現在の110メートルくらいごとに
この光野山 町石道(ちょうせきどう)に立っている
今、そなたが見ておる、百八十町石を初めとして、光野山に登っていくごとに、数字がどんどん小さくなり、最後は一番町石となるのじゃ

白狐

すなわち、この町石をたどっていけば
おのずと光野山に、たどり着けるわけじゃが
そなたには、途中で別の場所に寄り道して、とある人物と会って、合流してもらいたいのじゃ

白狐

では詳しく説明するのでよく聞け、町石番号 百五十四町石の近くには、目印となる、小さな稲荷の鳥居と社がある。
そこで、町石道の道中の無事を忘れずお祈りしておくのじゃぞ

白狐

その、百五十四町石をすぎるて、しばらく歩くと六本杉と呼ばれる広い場所にでるはずじゃ
六本杉からは、道が二手に分かれておる、町石が続く道とは、反対側の道を通り里のほうに下り
そこにある、丹砂都比売神社(たんさみやこひめじんじゃ)に行くのじゃ

朱右

百五十四町石の稲荷社で道中の無事をお祈りして
六本杉から、里に下り、丹砂都比売神社(たんさみやこひめじんじゃ)に行く
これでよいですね

白狐

それでよい、そこに、コン殿の飼い主が、黒い犬をつれて、そなたを待っておるはずじゃ

白狐

我は、そなたが、ここから出発した後、車で丹砂都比売神社に、先回りして、コン殿の飼い主がちゃんと、来ておるのか、確認しておくのでな

朱右

あのぉ、白狐さん、俺も、コンちゃんも車に乗って移動って訳には・・・

白狐

たわけ、そなた、今年の正月に黒髪不死(くろかみふじ)と戦った後に言っておった、もっと強くなりたいという決意はどうなったのじゃ?

白狐

たしか、そなたのお店を建ててくれた建築屋の専務の、お客人で居合い道場の主、ほれ、名をなんといったかの?

朱右

小賀崎 透(こがざき とおる)師匠ですかね

白狐

そうじゃ、その、小賀崎殿に、刀の使い方を教えてほしいと頼み込んで、弟子入りしたのではないのか

朱右

そうですけど、師匠に居合いを教えてもらっているのと、山登りの修行って何か関係があるのですか?

白狐

続けて、たわけ、すべての武術の基本となるものは、足腰の鍛錬からじゃぞ

朱右

じゃあ、白狐さんも、一緒に登って、足腰の鍛錬をしましょうよ

白狐

三度(みたび)、たわけ
我は、今までの戦いで、武術担当ではなかったであろう
我の専門は、頭脳労働、すなわち、いかにして、敵に勝つための策を練るかが、我の担当ではなかったかのぉ

朱右

それは、そうですが・・・

白狐

ゆえに、我には、車で先に光野山に行って
黒髪と戦う場所や方法を考え策を練るという、大事な役目があるのじゃ

朱右

ええっ!!
さらっとネタバレしてるけど
光野山で、黒髪と戦うって、そんな重大な話聞いてないですよ、絶対に大事な事はいつも事前におしえてくれないんだから

そんな、こんなで階段を登っていたら、最上段の朱塗りの鳥居の下に到着した一行であった。

鳥居の前で礼をして、鳥居の端をくぐり本殿前に進む

白狐

朱右、ここが、丹砂官省符神社(たんさかんしょうぶじんじゃ)
町石道始まりの神社じゃ

白狐さんと、俺は、お賽銭を入れ、お参りをして、道中の無事を祈った
そろそろ、夜が明けそうだ、あたりが少し明るくなってきた。

白狐

しかし、朱右よ、あまりに早朝すぎて社務所が閉まっておる
せっかくお参りしたのに
この、世界文化遺産 木の国山地の霊場と参拝道御朱印帳に、御朱印を書いてもらえないではないか。

白狐は木でできた朱印帳と呼ばれるノートみたいなものを持っている

朱右

本当に、このドジな神様が、今年の正月に俺が思いもよらなかった策で、みごとに黒髪不死を倒したのが、今だに信じられない
アレだけ、ネットやスマホを使いこなせるようになっているのに、社務所が開く時間を調べておけばよいものを・・・

白狐

朱右、そなた、今また、何かを考えておったであろう

朱右

なんで俺が考えごとしていたらわかるんだろう?)

朱右

いえ、何も考えてませんよ(汗)

朱右

ところで、その、御朱印帳って何なんですか?

朱右

ちょっと、見せてもらえます

朱右

へー、木を薄く切って、紙みたいな薄さにしてあるんですね

白狐

その御朱印帳は、限定の特別品じゃ
普通に紙に書く御朱印帳も売っておるぞ

朱右

へー、ここ丹砂官省符神社(たんさかんしょうぶじんじゃ)
さっきお参りした、慈尊寺(じそんじ)
俺が、これから行く、丹砂都比売神社(たんさみやこひめじんじゃ)
光野山 金剛武寺(こんごうぶじ)
いろいろな場所が書かれてますね。

白狐

この御朱印帳に書かれている、巡礼場所は15箇所
それぞれの神社やお寺で、参拝した証として、墨書きで寺社名や参拝日、ご本尊などを書いてもらい御朱印という、印を押印してもらうのじゃ

白狐

それにより、神社仏閣の神様や仏様とご縁を結び
その場所の自然や教えを、感じとり
それを自らの心に記録しておく為の、ありがたいものなのじゃぞ

白狐

朱右、そなたの修行はすでにはじまっておるのじゃ
自然や教えを、感じとり、それを自らの心に記録して、山を登ってこい

白狐

まー、説明はこんなところじゃ
 我は、神主様がくるまでここで待っておるのでそなたは、コン殿と丹砂都比売神社(たんさみやこひめじんじゃ)を目指して山を登るのじゃ

白狐

あと、そなたが、掛けている、めがねは、我が預かっておく両の眼(まなこ)で、しっかり自然を世界を見てまいれ

朱右

・・・・

朝日が昇り
いよいよ、光野山、町石道を舞台にした、俺の修行がはじまった。

朱右

では、コンちゃん案内よろしくです。

犬のコン ワン・ワン

犬のコンはすごい勢いで走り出した、俺は重い荷物のリュックを背負い走り出した

白狐

朱右、コン殿に置いて行かれんように、しっかりついて行くのじゃ。がんばるのじゃぞ

 神 斬
髪 切 り屋

参の巻     金剛
3.都比売(みやこひめ) 一に続く

神 斬 髪 切 り 屋 参の巻 金剛 2石道4

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