2025年

柳之助

くっ!

柳之助

何かにぶつかって
停まった?

すぐに外の大気を確かめた。

窒素80%、酸素20%……。
有害な物質も検知されない。

柳之助

このまま出ても大丈夫そうだ。

タイムマシンの外に出た。

柳之助

あれ?

ボクは周囲を見回した。

柳之助

変わってない?
戻ってきたのか?

いままで居た倉庫と変わらないように思えた。

柳之助

チャシャ。
いるんだろ?

呼んでみたが、出てこない……。

柳之助

まさかタイムマシンで
つぶしたとか……。

柳之助

ん?

タイムマシンは、壁にあったクッション素材に当たったようで、どこも壊れていないように見えた。

柳之助

こんなの
置いてあったか?

よく見ると、ここも微妙に違う気もする……。

堅そうに見えて、触ってみると柔らかかった。
これにタイムマシンがぶつかったから、倉庫の方も大丈夫だったようだ。

柳之助

亜光速でぶつかって、
大丈夫って……。

衝撃をかなり吸収する素材で、倉庫にもけっこう置いてあったヤツだ。

柳之助

どうして
一枚だけ?

ピンポイントで置いてある。

柳之助

ここに出るのが
わかってたみたいだ。

柳之助

チャシャが用意したのかも?
あいつ、意外とそういうこと気づくし……。

柳之助

まさか、
それでつぶされた?

準備をしたところで、タイムマシンが突っ込んできたという可能性がある。

ボクは慌ててタイムマシンと壁の間を見た。

柳之助

チャシャ!

そこにはいなかった。

柳之助

チャシャ。
ふざけてないで、出て来い。

あいつ、たまにふざけるし……。
念のため、タイムマシンの下も覗き込んだ。

でも、チャシャをつぶしたような残骸は出てこなかった。

柳之助

あいつが
潰されるわけないか。

アンドロイドの中でもかなり機敏だし。

柳之助

カナン!

柳之助

カナン!

カナンはボクが二回呼べば、どこにいようと来るのに……。

さんちゃん

ぴっ

柳之助

え?鳥?

カナンじゃなくて、鳥が飛んできた。
見たことがないロボットだ。

でも、ひよこだからなのか、なんか、よろよろしてて危なっかしい。

柳之助

飛ぶのを諦めた?

さんちゃん

ぴー。

その鳥は、ピョンピョンと歩いてボクの前に来ると、肩に乗った。

柳之助

精工にできているが、
ずい分旧式だな……。

愛嬌重視みたいな?
マスコット的ロボットか?

さんちゃん

ぴーぴーぴー

柳之助

何を言っているのか
わからない……。

柳之助

ん?

チューニングするような音がした。

さんちゃん

ぴーぴー(柳之助くん、柳之助くん)

柳之助

え?

急に、鳥が言っていることがわかるようになった。

柳之助

なんでボクの名前を
知っているんだ?

さんちゃん

ぴぴぴ(ボクの言うこと、わかりますね。)

柳之助

ああ……。

さんちゃん

ぴぴぴ(ボクはPeeThree。悠真くんはさんちゃんって呼びます。)

柳之助

誰? 悠真……。

さんちゃん

ぴっぴっぴ(悠真くんは、ボクたちを作ってくれた人です。)

柳之助

人?
悠真って、人間なのか?

さんちゃん

ぴっぴっぴ~(はい。とっても素敵な人間です。)

柳之助

…………。

まさか?

柳之助

今年は何年だ?

さんちゃん

ぴっ(2025年です。)

柳之助

過去に戻れたのか?

柳之助

よくあれで戻れたな……。

あんな、1時間たらずで作ったタイムマシンなんかで……。

柳之助

まだ不十分で、理論もちゃんと考えてなかったんだが……。

柳之助

動きそうだから「いいや」で
来ちゃったし……。

ちょっと、不用意だった
かもしれない……。

と、今更思った。

柳之助

まあ、タイムマシンは壊れてないようだから、これで戻れば問題はないだろう。

ドアの開く音がして、そっちを見た。

悠衣

悠真、今の音、何?

柳之助

また悠真?

誰なんだ?
悠真って……。

でも、そう言っていた相手を見て驚いた。

柳之助

え?誰?

悠衣

あ…………。

そっちも驚いていた。

悠衣

誰?
どこから来たの?

ボクも同じことを思っていた……。

柳之助

お姉さん、
アンドロイドなの?

悠衣

はぁ?

悠衣

…………。

悠衣

……違うけど。

柳之助

じゃあ、人間?

悠衣

……そうよ。

柳之助

ホントに?
嘘じゃなくて?

悠衣

……嘘じゃないわ。
私は人間よ。

柳之助

……触ってもいい?

悠衣

え?

人間らしき女の人は、ちょっとの間、固まっていた。

柳之助

アンドロイドでも、
バグるし……。

悠衣

いいわよ……。

そう言って、手を出した。

ボクは近寄って、その手に触れてみた。

柳之助

温かい……。

ボクは初めて人間に触れた。

さんちゃん

ぴっぴっぴ(よかったね、柳之助くん)

柳之助

どうしてこの鳥、
ボクの名前を知っているんだ?

過去に戻ったのに、

過去の存在が

ボクを知っている理由が

わからなかった。

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