【21】真実の扉























俺は本を手に、
壁の絵画の前に立った。

剣持 朱梨

この2枚の絵、花瓶の薔薇の色が1輪だけ違うな

花瓶に挿した薔薇の
左端の1本だけが

本のほうだけ緑がかっている。


印刷ミスだろうか。
しかし大量生産品ならいざしらず
世界に1冊の私製本で
そんなミスを見逃すとは思えない。



来栖 康青

それは額縁のほうに意味があるのかもしれないぜ



両手に皿を持ったオッサンが
器用に足で扉を開け閉めしながら
部屋に入ってきた。



皿の上にあるのは
チョコのかかったドーナツだ。

剣持 朱梨

また大量に持ってきたなぁ。
作ったのか? 美登里さん



他人の家でドーナツ作るとか
見かけによらず家庭的な面もあるのだろうか

と、少し感心する。



あまり料理が得意なようには
見えなかったが。






が、しかし。

来栖 康青

戸棚に入ってたって言ってたぞ?
とりあえず籠城するぐらいの食料はあるらしい。
よかったな

剣持 朱梨

籠城はしねぇよ

彼女の料理の腕を
知ることができなかったのは
不幸なのか、それとも幸いだったのか。


しかし見た目だけで言えば
彼女はあまり家庭的ではない。

もっぱら外食のくせに
イタメシ作るのだけは妙に上手い
トレンディドラマの
主人公みたいな印象だから


もし
このドーナツが手作りだったら






……いや、憶測では
なにも言うまい。











だがこれだけは言える。

万が一
オッサンが美登里さんと結婚でも
することになったら
料理担当は確実に
オッサンのほうだろう。









と、まぁ
それはどうでもいいので置いといて。













と、いうことはこのドーナツは
暗号を出している誰かが
用意したのだろうか。



食べ物が用意してあるというのも
なかなかにホラーだが
なにもないよりはましだ。

人間、腹が減るとろくなことを考えない。












願わくば、そのドーナツに
毒が盛ってなければいいんだけど。





















小鳥遊 杏子

ほら、うさぎちゃん。ドーナツよ


皿の1つを持って
杏子がうさぎの隣に腰掛ける。



食べるように促しているようだ。

「手作りじゃないから安心して」
なんて
失礼な言葉も聞こえたが


聞かなかったことにしておこう。



来栖 康青

飲み物は美登里さんが持ってくるって言ってたから、少し待ちな


そんな杏子たちに
オッサンが声をかける。





どうやら配膳室で
無事に美登里と会ったらしい。

今の今までそこに誰かいたみたいなのに
誰もいない、なんて怖いことを
ちょっとばかり想像していただけに

今度こそ心から安堵する。






いなくなっていたら

「俺だけ残るかもしれない」

という不安に
押し潰されてしまいそうだったから。





















うさぎのことは杏子に任せることに
したのだろう。
オッサンは「さて」と
俺のほうに向き直った。

来栖 康青

で、その絵なんだが、額縁に模様があるだろう?

剣持 朱梨

模様と言うより文字だよな


左上にふたつ付けられた
矢印のとおりに読むのだとしたら

上+右で
「時計の元へ行こう。
限りない輪廻の輪から逃れるために」


左+下で
「夜は明けるもの、昼は過ぎるもの。
いざ行かん姫の元へ。肩は並べずに」



と読める。





ここから脱出するには
まず時計塔に行かなければ
いけないらしい。

もうひとつの文章は
意味不明だが。





が。



オッサン的には
この文章自体には
そう重きを感じていないらしい。

来栖 康青

緑色の花の位置とこの額縁の文字を合わせるとどうなる?

そんなことを言う。

剣持 朱梨

文字を、合わせる……?

剣持 朱梨

「カギ」「ノ」「アケ」「カタ」!?

剣持 朱梨

あの小箱の鍵か?



俺はポケットから
金色の鍵を取りだした。

剥製の虎の口から
出て来た鍵。

キリオが見つけた金色の小箱を
開けるためのものだとばかり
思っていた鍵。

くるくると空回りするばかりだったから
あの箱の鍵じゃないと思ったけれど
開け方があったのか?













でも、どうやって。




来栖 康青

緑色の花から導き出される文字の位置を見てみると

剣持 朱梨

「カギ」は右から7番目8番目、
左からなら12番目、13番目



同じように
「ノ」は上から5番目、下から7番目。

「アケ」は上から5番目、6番目。
下から9番目、10番目。

「カタ」は右から7番目、8番目。
左から15番目、16番目。

来栖 康青

鍵っていうのは右に回すか左に回すか、上や下に回すって言い方はしない。
だから「ノ」と「アケ」の分は外してもいいだろう

来栖 康青

2文字のやつはそのままじゃ数えにくいから2文字で1文字扱いと考えて、

来栖 康青

左へ12回、右へ7回。
もしくは
左へ15回、右へ7回、ってところかな?

来栖 康青

金庫の鍵を開ける要領だ。よく銀行強盗がやってるだろ

剣持 朱梨

や。あいにくと銀行強盗に知り合いはいないんで

来栖 康青

それじゃあ今後のためにやってみな

剣持 朱梨

銀行強盗になる予定もない!



俺の将来はともかく、
どこの世界に
15回も回す鍵があるって言うんだ。


来栖 康青

朱~梨~く~ん~?

剣持 朱梨

なんで俺にやらせようとするかな、このオッサンは

来栖 康青

こんなメンドくさいこと、自分でやりたくないからだ








当てずっぽう感がとてつもなく漂う。

しかし、思いつく限り
やってみなければどうしようもない。





俺は鍵を鍵穴に差し込んだ。











剣持 朱梨

い~ち、に~い、さ~ん

来栖 康青

ろ~く、な~な。
よし次は左へ12回だ!

剣持 朱梨

……い~ち、に~い……

来栖 康青

じゅ~~~~に

剣持 朱梨

これもうちょっと絞り込めねぇのかよ

来栖 康青

無~~理~~

剣持 朱梨

嫌な大人だ




それでも規定数だけ鍵を回し、
俺は小箱の蓋に手をかけた。















剣持 朱梨

開いた!

来栖 康青

良かったなぁ1回で済んで!



























その箱の中には


銀色の鍵が入っていた。


















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