愁弥

やっと明るいところに出たか…

メア

…おかしイ。

愁弥

何が?

メア

ここに向かっていたわけじゃなイ。
何者かによって空間を歪められタ。

愁弥

一体、誰がそんなことを?

空間が音がした。沢山の模様が浮かぶ中で、一箇所だけが歪み始め、そこから何かが現れた。
メアはすぐに愁弥を庇うように前に出る。

メア

面倒な奴に捕まっタ…

童話に出てきそうな格好をした小さな少女と、その後ろに静かに佇む制服姿の少女。

………。

ごきげんよう♪メア

メア

……何の用ダ。

メアがほんの少しだけ、焦りの表情を見せた。
愁弥はそれを見て、謎の二人に注意を向ける。

メア

…気をつけロ、愁弥。
こいつは精神ステータスに干渉してくる。

愁弥

それって結構チート級じゃない?

メア

初期のラスボスだからナ。
プレイヤーの精神的負担が大きすぎるから、削除されたハズ…。
何故、まだこの世界に存在していル!?

冷たいのね……せっかく、迎えに来てあげたのに。

メア

頼んだ覚えはなイ。

楽しいパーティーがあるの。一緒に踊りましょう?メア

これが最終通告だと言わんばかりに、辺りが不気味な色へと変わっていった。

メア

…断ル。

もう貴方の意見なんて聞いてないわ。
踊るときに貴方の意思なんて必要ないもの。
その身体だけあれば十分。

私はね、メア。お人形が欲しいの。
貴方みたいに、白い肌で、綺麗な目をしたお人形が。欲しくて欲しくてたまらないの。

少女の表情がどんどん不気味なものへと変わっていった。とても可愛らしい声で、何度もメアの名前を呼び続ける。

メア

…逃げるゾ、愁弥。

愁弥

既に詰んでない?

逃げる??
何を言ってるのかしら、メア。
私から逃げられると思っているの?

メア

逃げれル。

その瞬間、愁弥を囲むように大きな光が現れた。

愁弥

…メア!?お前、何をやって

メア

逃げロ、愁弥。ここにお前が残ったら、現実世界に戻ったときに普通で居られなくなル。

愁弥

お前はどうするんだよ!?

メア

無事だったら、また会えるだろウ。
お前の役目は、この世界で悪役を全うすることダ。それだけを考えロ。

メア

私の力の一部を授けル。
これで何とか、この世界から…

愁弥

メア!!

あら、追いかけるの??

えぇ。だって、変な希望を持って挑んできたら面倒だもの。早めに摘み取らなきゃ。

少女は楽しそうに笑うと、消えた愁弥を追いかけていった。

あんな人間に力をあげて良かったの?
私に対抗する力も残っていないんじゃないかしら?

メア

少しでもプレイヤーに楽しんでもらうために存在するのがサポーターの役目ダ。
私は全プレイヤーの味方でもあり敵でもあル。
彼とその仲間が無事に帰れるのなら、私はこれでいイ。

そう。ふふっ、本当に面白いのね。
いいわ、プレイヤーを楽しませたいのなら、その身体、利用させてもらうわ。

メア

愁弥。…どうか、無事デ。

愁弥

…メア。

メアの魔法で飛ばされたのは、何の模様も描かれていない真っ白な空間だった。
何の音もしない。誰も居ない。
その静寂が自分の心を苛んで、先ほどの出来事を鮮明に思い出させた。

愁弥

早期退場にも程があるだろう。
俺1人で、まだこのゲームの仕組みもよく理解していないのに、悪役をやるなんて無理ゲー過ぎる。

どれだけ悩んでもアドバイスをくれる存在もいない。
困っているときに、声をかけてくれる仲間もどこにいるのかすらわからない。

愁弥

これからどうしようか。
とりあえず、ここから移動したほうがいいよな。

大丈夫。そんな必要どこにもないよ。

後ろから優しく肩を掴まれて、そっと耳元で囁かれた。次第に、その力は強くなっていく。

愁弥

誰だっ……………

振り返った瞬間、その顔を見て心臓が止まりそうだった。
血の気が引いていく。冷や汗が止まらない。
震えが止まらない。動きたくても動けない。
視界が暗くなっていく。息が苦しい。

もう、声も出ない。

ね?逃げられなかったでしょ??

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