結局戻ってきてしまったのね

佳穂

誰なの?

そんなこと簡単に教えないよ。

佳穂

私をここに戻そうとしたのは、貴方?

えぇ。だって、貴方を弄るのが一番楽しいんだもの。もっと遊んでもらわなきゃ。

佳穂

それなら、私だけを残せばいいでしょう。他のみんなは関係ない。

本気でそんなこと言ってるの?
このゲームだからこそ、他の人間も全て巻き込んで遊びたいに決まってるじゃない。

ゲームを終わらせたくない。まだまだ先に進みたい。もっと強くなりたい。そんなプレイヤーたちの思いが、相手を殺す糧となる。

そして、その快感を少しでも知ったら、殺人衝動に苦しむようになる。
雑魚敵やボスじゃない。隣にいる仲間を殺せば手っ取り早く沢山の経験地を得られるのだから。

佳穂

そんなこと、私がさせない。

どうして?この世界は現実じゃない。法的な拘束力なんてものは存在しない自由な世界なのに?

佳穂

強くなるためでも、友達を傷つけるなんてことはしたくない。

つまらないなぁ…。
この世界なら普段は見れない友人たちの苦痛に歪む顔や殺人という名の快楽に酔う姿が沢山見られるのに。

佳穂

ふざけるのもいい加減にして!
誰もそんな人の姿を望んでみたいなんて思わないわ!

ふざけてなんかいないよ?私は本気。
貴方は人間の綺麗な面しかみていない。
人間は他者を貶めて優位に立つことでどれだけ素敵な気分になれることか。
あぁ、思い出しただけでも興奮しちゃう。

佳穂

おかしいよ…そんな感情は間違ってる

貴方には私の気持ちは理解してもらえないかぁ。残念だなぁ…まぁ、知ってたけど。

でもそんな貴方に一つだけ教えてあげる。
人間とは本来戦う生き物。何よりも優位に立って相手を利用して、殺し、搾取して生きている。
それは、植物や動物だけの話じゃない。
自分が生き残っていくために、人間を利用することが悪いことだなんて私は思わないよ。

平和ボケしてる人間たちに教えてあげたいの。
誰だって、いつどこで、どんな理由で、何に殺意を抱くなんてわからないんだって。それで簡単に殺されるってことを。

佳穂

殺し合いなんてさせない。
誰かを傷つけていいことなんてどこにもない。
貴方は間違ってる。
だから…

佳穂

私が絶対に貴方を止めてみせる!!

はぁ…。そういう主人公気取りの正義感強い奴って嫌いなんだよね。見てるだけで気持ち悪くなっちゃう。
いいよ。頑張ってみなよ。
その代わり私も全力で、君の仲間を崩壊させるから。

電子の海が私をどこかへ連れて行くように、動き始めた。

そんな頑張る貴方に私からのちょっとしたサポート。仲間のところまで送ってあげる。

佳穂

いいの?そんなことして?

この程度で影響が出るようなら、最初からこんな挑発しないよ。

周りが真っ白になり、私は気がつくと、花畑の中にいた。

カレン

佳穂さん!!▼

カレンの声を聞いて、すぐに体を起こすとカレンがとても心配そうな顔をして駆け寄ってきた。
他のみんなも私のほうへと走ってくる。

急にいなくなったから心配したんだよ!?

佳穂、復活

櫂斗

どこいってたんだよ、心配してたんだぞ

佳穂

ごめん、ちょっと色々あって…

リズ

色々…って言葉で済ませれるものなの?

あちこちに傷を負ったリズが私の顔色を見て言う。
どうやら彼女に隠し事は通用しないみたいだ。

佳穂

…何か気になることがあるの?

リズ

私はこの世界のキャラクターよ?
異常くらいわかるわ。

佳穂

そう、だよね。うん。正直に話すよ。

自分が消えてからわかったことを全て話した。
ゲームが何者かによってハッキングされていること。
そして、その犯人がこの世界の中にいること。
それを解決しない限りここから出られないこと。

モカ

やっぱり…。

やっぱりってどういうこと?

モカ

ここのステージのボスのステータスがおかしかったから。1周目であんな攻撃はしてこないしはずだったから…

櫂斗

難易度までも操作されてるってことかよ!?

ここから…ずっと出られないの?

シュリー

大丈夫だって、夏!!
みんなで協力すれば、クリアして、犯人も捕まえられるよ!!

佳穂の話を聞いて、パニックになる一同。
佳穂は一度、その場から離れて春都のところへ行った。

佳穂

先ほどは、助けていただきありがとうございました。

春都

あんなの大したことないって!!
君が無事で良かったよ。

佳穂

あの、体は大丈夫なんですか?

春都

うん。大丈夫。
体力は回復して貰ったから、元気だよ。

ギン

まったく…無茶ばかりして。

春都

細かいこと言うなって!
みんな無事だったんだから、いいだろ?

ギンはその隣で、不服そうに春都を睨んでいる。

春都

事情はわかったよ。俺も犯人探しに協力する。そのついでにはぐれた友達にも会いたいからね。いいかな?

佳穂

はい、もちろんです!ありがとうございます!

春都

俺も君たちと一緒に冒険できて嬉しいよ。
…そろそろ向こうに戻ったら?みんな心配してるみたいだし。

佳穂

あ、そうですね。ちょっと行ってきます。

佳穂が離れたところで、春都は大きくため息をついた。

春都

本当に無事で良かった。
あれで守れなかったらどうしようかと…

春都

………っ!!

ギン

どうした、春都。

春都

…え?いやいや、何でもないよ。

ギン

…?そうか。

心音が激しい。
胸を締め付けるように、何かが自分を駆り立てようとしている。

春都

覚悟はしていたけど、こんなに早くから来るなんて…

パートナーと能力の共有をするにあたって、最も大きなリスクがあった。
敵の経験値を得るときに、倍に獲得できる分、殺人衝動も通常の2倍になるというものだった。

春都

決めたのは俺自身だ。
でも、今、俺は……

まるで別の何かが自分の中にいるようだった。
自分の内でまるで獲物が油断するのを待つかのように、心を侵食しようとしている。
気づきたくはなかった。普段はまったく感じないこの感情に。
それでも、今、確実に自分は思っていた。

春都

彼女を殺してみたい。……だなんて

春都

冗談じゃない。そんな事絶対にしない。
我慢するんだ、このゲームが終わるまで。

佳穂

春都さん!!次の場所が決まりました。
行きましょう!

春都

あぁ、今行くよ。

春都

仲間は誰も傷つけない…!!

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