そろそろ終了の時間かな。
今のところシステムに異常は見られないし、これなら製品化も順調に進みそうだ。

参加者たちの状況を確認しながら、次の体験者たちのリストを眺める。

あれ、おかしいな…
参加人数は毎回固定のはずだろう。

体験者リストの人数と見比べると、ログインの人数が1人多いことに気がついた。

でも、ここにいる体験者たちは最初に数えて確認したし…

何が起きているんだ…?

カレン

シュリー!▼
貴方は 彼女の 相手を して!▼
私は 二人を 止めるから!▼

シュリー

わっ…わかった!!
何とかしてみるっ

シュリーが夏たちの前に立ち、呪文を唱える。

シュリー

私から離れないでね!!
飛ばされたら助けれないから!!

櫂斗

うおっ、雷が

かっこいい~

薫ちゃん呑気過ぎだよ…

そんな単純攻撃で倒されるほど、弱くないわよ?

カレンがモカに吹き飛ばされ、その隙を狙ってリズがシュリーへと向かっていった。

リズ

………

仲間相手にその雷撃を放てるのかしら?

シュリー

リズ相手に…そんな…!!

シュリーの魔法が次第に弱まっていく。
リズは顔色一つ変えずに、そのままシュリーに殴りかかろうとしていた。

行け!!ギン!!

佳穂

…誰!?

青年の声が響き渡り、その瞬間、リズが突然何かに吹き飛ばされた。

ギン

大丈夫かね。

可愛いワンちゃんが喋った!

助けてくれた…?

良かった。間に合ったみたいだな。

少し離れた茂みから、1人の青年が姿を現す。
ギンは彼女たちを守るように、リズに向き合った。

君たちに協力するよ。とにかく今は、アイツを倒そう。

佳穂

あの人は確か、エントリーの時にあった人だ

数が増えたところで変わらないわよ。

ギン

…だそうだぞ、春都

春都

それは、プレイヤーが戦わないならの話だろう?

春都は片手を前に伸ばすと、ぐっと手を握り締めた。

春都

プレイヤーはパートナーの同意があれば、その力の一部を共有することができる。
まぁ、その分体力を半減させるっていうリスクが伴うから勧めないけど。

春都

それが嫌だからきっと、プレイヤーたちには伝えていないんだろ?

春都がそう言って、カレンとシュリーを見ると、二人共気まずそうに目を逸らした。

春都

まぁ、それよりも大きいリスクが伴うから伝えないのが一番だろうな。
…俺もそれは黙っていないと心配させるからやめよう。

ギン

片付けるぞ、春都。
長居すると、もっと厄介な奴らが駆けつけるぞ。

春都

はいはい。

ギンはそのまま、リズを押さえつけにかかり、春都はボスのほうへと向かっていった。
大小さまざまなツタをかわして、少しずつ接近していく。

櫂斗

……。

櫂斗、活躍できてないから悔しいんでしょ

櫂斗

べっ、べつに悔しいとか、そんなんじゃねーしっ

わかりやすい。

カレン

プレイヤーさんが あんなに頑張ってたら もっと 私も 頑張らないと ですね▼

モカ

………

シュリー

助けられるとか恥ずかしい…!
リズのせいだからね!

違うと思うんだけどなぁ…

防戦一方だった、カレンたちにもようやく反撃のチャンスが到来し、形成は逆転しつつあった。
モカとリズの正気は戻ってはいないものの、体力が底を突き始め、少しずつ動きは鈍くなり始めていた。

調子に乗らないで頂戴

春都

別に?ただ、アンタにとってギンの属性との相性が悪かったってだけの話さ。
これなら初心者の俺でも十分に戦える。

ツタを炎で燃やしながら、春都はようやくボスの下へと辿り着く。そして、直接トドメをさそうとした時だった。

佳穂

体が…消え…-----

佳穂の体が光の粒に包まれ、そのまま消えてしまった。

目を覚ますと、背中にやわらかい感触があった。
スタート画面に戻っている目の前のモニターを見て、ゲームの体験時間が終了したのだと理解した。
コンピューターの作動する音だけが聞こえる空間で、私は静かにヘルメットを外した。

佳穂

まるで別世界にいたみたい。面白かった。

ふぅ…とため息をつくと、担当の男性が私を見て驚いていた。

君、どうやってここに戻ってきたんだい?

佳穂

え?

ゲームを終了させようとしていたんだが、システムが正常に作動しなくて困っていたんだ。

佳穂

正常に作動しない…?
私は何もしていないです。突然、ゲーム世界から消えて、気がついたときには戻っていました。

嫌な予感がして、友人たちの席を確認する。

櫂斗

………

………

………

少し離れた席に座っている愁弥も動く気配がなかった。どうやら、私以外の体験者全員がまだゲームの世界から戻ってきていないようだった。

…考えられる要因が一つだけあります。

佳穂

何ですか?

ゲームの設定が内部から何者かによって書き換えられている、ということです。
君のように、本来なら他のプレイヤーも時間制限で終了するはずだった。
しかし、先ほどから少しずつデータが書き換えられてゲームから出られない状態になっている。

佳穂

じゃあ、他のみんなは!?

落ち着いて話を聞いてください。
ゲーム参加者の中に、このゲームの書き換えを行っている者がいる可能性があります。今ここにいる誰かかもしれないし、外部からのハッキングかもしれない。
確実なことは、犯人は今もゲーム世界の中にいるということです。

佳穂

………私がもう一度、行きますか

一般人の君を巻き込むことはできない。

佳穂

行かせてください。
友達が中で待っているんです。心配しなくても大丈夫ですよ。こうみえて、ゲーム得意ですから。

しかし……

佳穂

私はゲーム内で犯人を捜します。
担当さんは外で犯人を捜してください。
そのほうが早く見つかるはずです。

私は担当さんの制止を振り切って、再びヘルメットを被った。スタート画面が表示されて、そこには「コンティニュー」と先ほどまで無かった項目が表示されている。

佳穂

私を誘っているの…?

誰かが悪意を持ってやっていることに違いない。
そして、その犯人は私に挑戦を持ちかけようとしている。
そう思うと許せなくて、私はコンティニューを選んだ。

待つんだ!!君1人じゃ危なっ……

最後に感じたのは、私の肩を揺する担当さんの手のぬくもりだった。
意識が遠のき始め、再び電子の波に呑まれていった。

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