それから、俺は何をしたか。


 俺は、ただ、皆と暮らした。


 魔法は、万能ではなかった。使いすぎると、俺が疲れてしまうのだ。それに、何でも魔法に頼りきりになるのはよくないというロジャーの意向により、魔法はロジャーの許可なしでは使えないこととなった。俺はそれを快諾した。



 畑を、汗を流して耕した。

 星座や神話を、たくさんの人に教えてもらった。

 洗濯物をほしながら、歌を歌って笑いあった。


 最初からうまくいったわけではない。それでも、ロジャーは辛抱強く、俺の味方でいてくれた。



 少しずつ、少しずつ、時間をかけて、俺は人々を信頼していき、人々は俺を信頼してくれた。
 そう、信じている。



 時間は、流れた。
 苦労もあった。悲しみもあった。
 でも、満ち足りた、幸福な時間は、流れていった。

 流れる時間は、やがて終わる。
 俺の、最期の時がやってきた。


 俺は、たくさんの人に囲まれていた。悲しみの声がする。
 どうか悲しまないで。
 俺は本当に幸せだった。ありがとう、ありがとう、みんな、ありがとう。


 悲しまないで。笑って。


 ああ、サンザシ。

 光がなくなっていく、そんな中で、俺は彼女の気持ちを知る。


 満ち足りた、君もこんな、こんなふうに、天に昇っていったのならば。


ーー様、コリウス様

……サンザシ?

 声がした。俺の声だ。さっきまで声が出なかったのに。

 俺は、目を見開く。光の中に、確かにサンザシがいる。


 俺は、手を伸ばす。サンザシが、俺を、俺の手を、確かにつかむ。

サンザシ、どうして

お迎えにあがりました、コリウス様

本当に、サンザシなの……?

もちろんです、コリウス様。
私はずっと、貴方を見ていました。
ずっと、ずっと

どうして、だって、あの、魂だけの世界に君は行ったはずじゃあ

時間の神様が……エン様が、私の魂の時間を、止めていてくださったのです

 遠い昔、エンが言っていたことを思い出す。

 この物語で、俺がすべきことをしていると、彼は言っていた。


 このことだったのだ。

私が、貴方を迎えられるようにと……一緒に、旅立てるようにと

 サンザシが笑う。俺は、彼女を抱き締める。


 あたたかい。

サンザシ、愛している。
ずっと、見てくれていたんだね

愛しています、コリウス様。

貴方様は誰よりも気高く、素晴らしい一生を過ごされました。

私は、とても素敵な人を愛したのだと思いながら、ずっと、見守っておりました

ありがとう、サンザシ

私こそ

光の中を、進んでいく。
サンザシを抱き締めたまま、俺は呟く。

サンザシ、ミドリに……お礼が言いたかったね

そう言うと思って

え?

寄り道ですよ。セイさんが用意してくださいました

 どういうことかと問う前に、眩しすぎる光が、俺を包み込むーー。

9 記憶があるまま 君との再会(10)

facebook twitter
pagetop