ロジャーの声が、震えていた。
なぜ、そのようなことをしたのか! 私はその答えを知っている
ロジャーの声が、震えていた。
簡単なことだ!
魔王は、愛を、信頼を、そして悲しみを知らなかった!
当たり前のように側にあるそれを、彼は知らなかった……なぜなら、彼は孤独だったからだ
……魔王は、一人の女性に恋をして、愛を知った。しかし信じることができずに、彼女を騙して、神を殺そうとした!
そうすれば、彼女は自分から離れていくと、彼女の信頼など、本当のものではないと……わかるか?
私は、この話を時の神から聞いて……言葉にならなかった
……そして、魔王の愛した人は、亡くなった。彼は、
愛と、信頼と、悲しみを一度に知って、悲しみにくれる中、何を望んだと思う?
和平だ。和平を望んだのだ
これを、嘘だと言えるか?
私には言えない
魔王を、どうか信じてはくれぬか
時間がかかっていい。すぐに理解ができなくてもいい。それでいい、当たり前だ、でも
でも、信じてほしい
彼の魔力が民のために使われれば、必ずや、和平は長く、続くだろう
……信じてほしいのだ
水をうったような静けさを、控えめに壊したのは、女の子の声だった。
魔王様は?
それが合図となり、さざ波のように、声が広がる。
魔王は? 魔王は? どこにいる?
ロジャー、出てもいいかな
ロジャーは振りかえると、ああ、と頷いた。
俺は、歩き出す。一歩、一歩。
そして、ロジャーの隣に立つ。
人、人、人。俺は、圧倒される。
こんなに、人はいるんだな
何千、何万の目が、こちらを見つめている。
何か、言いたいことがあるのなら、言えばいい
……そうだね
言葉に、ならないことばかりだ。
信じてくれ? 違う。知ってくれ? 違う。
違う、そうじゃない。そんなに、簡単なことでもない。
俺は、コートの毛皮を、むしりとった。
そして、上にそれを投げる。
俺の一挙一動を、見つめる目、一人一人に、どうか幸せが訪れるように、祈りながら。
黒い光が俺の体から出ていって、毛皮を包み込む。
そのままそれを、中に漂わせる。黒い光は、ざわめきが広がる。そのざわめきを、受け止めて、そして、願う。
信じてください。
くるくると光を回していく。少しずつ、光は大きくなっていく。
もう、いいだろう。俺は、その光を、弾けさせた。
一瞬の悲鳴ーーそして、直後のざわめき。
黒い光は、はじけとんで、白くなり、人々の上に、降り注ぐ。
……白い、花だわ
ざわめきが、歓声に変わる。俺は、降り注ぐ花を見て、小さく微笑んだ。
その花の、花言葉は
小さく呟いただけだったが、歓声が急に、止んだ。
届いている。
聞こうとしてくれている。
それならば。
その花の、花言葉はーー希望。
成功を待つ
俺は、大きな声で、叫ぶ。
そして
涙を、こらえる。
君は、俺が笑っていることを、望むだろうから。
ただ一つの愛ーーサンザシという花です。
私が、世界で一番愛した人と、同じ名前の花です
だめだ、サンザシ。
涙が、溢れそうだ。
どうか
声が震える。
どこかで見ているだろう、サンザシ。
俺は、進んでいくよ。
どうか、私を信じてください
いつの間にか、エンが隣に来ていた。おれの肩に手をおいて、静かに微笑んでいる。
その後ろに、キサラギ、ケン、ケンジの姿が見える。アイリーの隣にいるキツネとシグレの二人が、俺を見て小さく笑った。
遠くから、小さな歓声と、拍手が聞こえた。それは、少しずつ、少しずつ、大きくなっていく。
俺は泣きながら、頭を下げた。王が、隣で何かを言っているが、歓声にかきけされて、聞こえない。