???

考えすぎるのも考えものだ。
オマエはそこまでにしておけ。
オマエ・・・・・・死ぬぞ。

冬馬

・・・・・・は?

冬馬

死ぬ?俺が?
何を言っているんだこいつ。
いや、こいつ・・・いつから居た?

???

あっ待て、そんなあっさり我に返るn

消えた!?

冬馬

ど、どうなってるんだ!?

目の前に居たと思ったらいきなり消えて。
いや、そもそも俺が見たものも本物か?
幻って可能性もある。幻。

そうだ、だいたいあんな時代錯誤な格好してる方がおかしいだろ。でも妙な存在感がある。
本物?いやでも――

???

無我の世界へおかえり

冬馬

!?

???

あー、やっと話せそうだ。
言っておくが、オレはきちんと存在している・・・・・・えーと。

???

・・・・・・「人間」ではなくなってるが、まあ、柔らかく受け止めろ。

わからない。わけがわからない。
人間じゃない?じゃあ何だ?

でも1つ、実感として解ることがある。
今俺は、考え事をしていた。
その続きに、何故かこいつがいる。

・・・・・・確か「無我の世界へおかえり」とか言ったか?ここは何だ?こいつは?

???

改めて「無我の世界」へおかえり。
少しは頭回せるか?

冬馬

・・・・・・そういえばこのところ、焦りが先走っているかもしれない。わからないことが多いなら、1つ1つ確認しよう。

冬馬

無我の世界って、何だ?

???

「我を無くした夢の中」

冬馬

・・・・・・「無我夢中」?

???

正解。ここは、オマエの心や誰かの心、すべての人間の無意識と繫がる意識―夢―の世界だ。

???

オマエみたいに何かに囚われ思考が過ぎると、無意識がここへ逃げ込む。ここは、何も無いからな、考え放題・・・・・・に見せかけて囚われまくりというわけだ。心当たりあるだろう?

その問いかけに静かに頷く。
心当たり、なんて小さいものじゃない。

考え事をしていたときの奇妙な違和感に的確な言葉が与えられ、思考は少し落ち着きを取り戻す。

落ち着いたと同時に、聞き流していた言葉が頭を過ぎった。恐ろしい言葉のはずだが、実感が無いのか、あるいは頭のどこかが悟ったのか、冷静に聞けた。

冬馬

「俺が死ぬ」って言ったな?
考えすぎてそうなるって
どういうことだ?

???

現実で死ぬわけじゃない。心が、オマエという「自我」が死ぬという話だ。

そいつの話に、俺は静かに耳を傾けた。

???

人は、繰り返す生き物だ。衝動的に見えてその実、衝動の起こる条件すらもがロジックで構成されている。それに反して、多くの人間は衝動と感情をこそ尊び生きる。

???

故に、自分の行動すべてに一定のロジックがあることなど気付かぬまま繰り返されて、日々は送られる。

???

けど、オマエは気付いてしまったな?

???

そして恐れている。人が持つロジックを。その変え難さ、行き止まりの右往左往を。正直、人と話すことさえ億劫になってきているんじゃないか?

まさにそのとおりだ。
実を言えば、もう人と話すだけで疲れる。
返答のオウム返しのようなものが、とにかく嫌だった。

――そうだ、ここで落ち着いていられる理由は、こいつが人じゃないから、なのか?

???

今のオマエは過ちに嵌り、思考に嵌り、オマエを構成する「自我」そのものが人の輪から外れかけている。思考を繰る繰るしていくうちに、自我がこの「無我の世界」から出ることをやめれば・・・・・・

???

現実のお前の「自我」は、現実で生きることを止め、傍から見ればそれこそ、オマエが恐れるような繰り返しをオマエ自身がし続けるわけだ。

???

・・・・・・正直な話、この世界で無我になれば、人と関わる苦しみ、繰り返しの苦しみからとは無縁になる。好きにすればいい。

冬馬

・・・・・・好きにすればいいと言われても、何をどうしたらいいんだ?

???

・・・・・・この世界に引っ込むとか、現実で全部忘れて考えないようにするとか、そういうのじゃないか?

ここにずっと居るのは嫌だと思った。
自分を全部捨てるようで。

全部忘れて考えないのも、無理だろう。
やらないのではなく、できない。
できたらこうなってない。

???

察しが良いな。
ここに来て「考えない」ができた人間は1人もいない。ここに来るやつには既にそのロジックがあるからな。

冬馬

・・・・・・そういえば、俺以外にも?

???

そうだ。嫌になるよ、人間ってのに。繰り返しに気付いても結局繰り返すことしかできない。1人の話じゃない。人間全体の話だ。
・・・オマエが何人目かとかは知らない。
もう数え切れない。

冬馬

そんなにか・・・!

???

やっぱり皆、最後には無我になってる。
オレが言ってもこうだ。
・・・言っても無駄だと思うか?

???

・・・・・・オレもそう思うんだけどな、見かけると忠告せずにはいられないんだ。最期を知ってるから。

???

あーあ、つくづく嫌になる。

悪態を吐くそいつは、妙に泣きそうな顔をしていた。

――こいつも、繰り返しているんだろうか。
「人間じゃない」って言ってた。
もしかしたら、俺が想像できないくらいの長い時間、こんなところでずっと・・・・・・?

冬馬

・・・・・・そうだ、繰り返しが嫌だ。
だからこんなところまで来た。

今この時間・この空間が現実かどうかなんて、もうどうでもよかった。俺の原点、俺の悩み。これが解決しないからこうして立ち止まっているんだ。

だから。

冬馬

なあ、手伝ってくれないか?
この繰り返しを終わらせたい。
俺1人じゃ無理だ。

???

・・・・・・!

#3:くるくる~繰る繰る~

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