こいつの体験談という説が濃厚になった。
繰り返しを終わらせる。
それ自体は良いけど・・・・・・
・・・・・・どうやって?
やっぱりすぐには閃かないよな。そりゃそうだ。簡単に終わらせられるんだったらお互い苦労しないからな。
たとえばだ。
目の前で困っている子供が居たとする。
助けようと思って声をかけるといつも不審者とか邪魔者だとかの扱いをされるとして・・・・・・それでまた困っている子供を見たとき、結局は助けるわけだ。
助けないときよりも、助けて痛い目見た方がまだいい。そういう価値観もある、というよりは、そういう選択肢から生まれた感情を尊ぶのが人間だ。
・・・・・・こうして聞くと、本当に難しいな。無限ループという言葉に重みを感じる。
それだけオレたちがロジックで生きているということだ。
・・・・・・そういえば、今の例えは誰かの体験なのか?見てきたような説得力があった。
・・・・・・放っとけ。
こいつの体験談という説が濃厚になった。
そういえば、俺のようなのを見たら声をかけずにはいられないとか言ってたな。すごく、いいやつだ。
おい、オマエ。
なんだそのぬるい目は。
やめろ、そういうのやめろ。
良いやつだと思っただけだ。尊敬すらしている。だってお前は徒労に終わると思っていても手を差し伸べるんだろう?
そう、こいつは「助けなかった誰かが困る」ことより「助けた自分が困る」ことの方がマシだと言ったんだ。だからこそ、ここでの対話も苦にならないのかもしれない。
・・・・・・それでも、そういうロジックを繰る繰るしていることに変わりない。善悪抜いてもきっと違う選択ができないんだ。
今思ったんだけどさ、ロジックってやつ、そう悪いことばかりじゃないかもしれない。
何言ってるんだ?オマエはそれが嫌でここまで来ちまったんだろ。
それでも今、お前のロジックの優しさに、心を救われてるからさ。
・・・・・・!?
お前が声をかけてくれなかったら、お前が言ってたとおり俺は無我の世界に逃げ込んでおしまいだったと思う。ありがとう。
――ふん、礼には気が早すぎる。
そういうのはこのループを断ち切ってからしてもらいたい。オマエが断ち切れればオレのも断ち切れるんだからな。
あー・・・とっとと帰れ。
で、寝て、起きて、ゆっくりメシでも食って考えろ。現実の時間はまだあまり経ってないはずだ。とりあえず休んで力を蓄えろ。
ああ、またな。
そうだ。繰り返さないためには、力が要る。
己のロジックに負けない力だ。
焦らず、力を蓄えて、考えろ。
いつもの自分と違う、道を開くロジックを。
・・・・・・よし
繰り返しは億劫で、ロジックに縛られる相手も、自分自身も嫌だった。けど、あいつに言ったように、悪いことばかりではないと思えた。
そう思えば、心は少し軽くなる。
「ロジックを変えなければ」という強迫観念ではなく、「ロジックを変えたい」という願望で、俺は動ける。
冬馬、最近疲れてるでしょ。
携帯電話も修理しに行かないし、
よほどなんでしょ?ねえ?
またこれか。
そんな感想を抱く他無かった。
そして、他の感想が出てこない俺自身の繰り返しにまた嫌気がさしてきた。やばい。
――でも、気持ちはきっと変わらない。
これは俺がそうやって誰かと関わる「生き方」で「性格」だ。いきなり別人にはなれない。だから。
俺は、俺のまま。
この繰り返しを断ち切る。
やっぱり疲れてるでしょ。
正直に言って。ごまかさないで。
こののれん押し問答への苛立ちは変わらない。やめてしまいたいという気持ちも変わらない。
でも、いつもの返しをする前に一旦止まろう。
ぐっとこらえろ、俺。耐えろ耐えろ。
「ごまかすな」と言われた。そんなつもりはない。でも、そう見えなければそう言われないはずだ。
すぐ返してすぐ終わらせようと思っていたが、案外、急がば回れは真実なのかもな。反省だ。
今、大丈夫じゃないように見えてる?
それは、最近思いつめていたし・・・・・・
今、そう見える?
・・・・・・大丈夫なような、そうでもないような?
どっちだよ。まあ疲れもあるにはある。けど、休むからもう心配要らない。
あら、冬馬の笑ったところ久しぶりだわ。これなら心配要らなそうね。
!
俺は、そんなに笑ってなかったか?
・・・・・・笑ってなかったかもしれない。
とにかくロジックに苛立っていた。
なぜ繰り返してばかりなのかと憤慨していた。
これが、俺が繰り返してたロジックか。
・・・・・・タネは思っていたよりささやかだったな。まあ、「大丈夫」と言いながら浮かない顔してたらそりゃ心配するか。
冬馬、待って待って!
手伝いはもういいから!
そうですよ、もうお断りしたでしょう?
なんで断るのかまだ聞いてない。
だから、二度手間になるから!
またこれか。本当に学習しない奴だ。
断るなら断るできちんと断れ。
正直倫理的に許されるならこぶしの1発でも入れたい。
――堪えろ俺。ものすごくイラつくが抑えろ。
まだ聞けていないことがあっただろう。
手伝いたくないと思っているなら素直にそう言えばいい。そういうやつなら交渉なんてしない。結局、手伝いたいのかそうじゃないのか、どっちなんだ?
っ
・・・・・・いじわる。手伝えるなら手伝いたいに決まってるでしょう。
・・・・・・じゃ、じゃあ
・・・・・・手伝えることがあったらなんでも言って。ほかにも手伝いたいって子はいたから。でも、手伝ったからややこしくなったとか、そういうのはやめてよね。
うん!
やるじゃん冬馬!
急にどうしたの?
理由にばかりこだわって、そういえば意思は聞いていないことに気がついた。その反省だ。
すごいね、偉いや!
こんな感じで、俺の嫌った繰り返しは俺から少し縁遠いものになった。繰り返しているのは誰も彼もだが、俺なりに「繰り返しばかりにならないこと」を繰り返そう。
最初苛立っても、上手く行けば、胸がスっとする。
それはただの達成感とか社交性とかそんなものよりも、俺は何かを変えれたのかなとか。
あいつの繰り返しも少しは報われたのかなとか。
そうだったらいいなと、嬉しくなるんだ。
・・・・・・で、なんでまたここに来てるんだ?いや、なぜ来れる?オマエなりにはもう解決したんだろ?
要領を覚えた
嘘・・・だろ・・・?
そんなあっさり使いこなして・・・
もともとが疑り深い上に苛立ちやすく視野が狭まりやすい性格だからな。そんな難しいことじゃない。
お、おう・・・そこまで俯瞰しているオマエにも驚きだ・・・そんな落ち着いてるくせに。
俺自身のロジックはそう変わらないさ。ただ、ロジックの次・・・・・・「結果」は変えれる。――お前がいてくれたからだ。
・・・・・・何故?
言っただろう。「お前が声をかけてくれなかったら、お前が言ってたとおり俺は無我の世界に逃げ込んでおしまいだった」って。抜け出せたきっかけは、お前がいてくれたからだ。
1人じゃ繰り返すだけだった。
俺以外の誰かの助けが、必要だった。
だから――ありがとう。
今なら、礼のタイミングは十分だろ?
・・・・・・! まったく、どうしてこんなループに嵌ってたか今納得した。オマエ、律儀が過ぎるんだよ。
――いいじゃねえの。こっちこそ、礼を言わせてくれ。オレのロジック、断ち切ってくれてありがとな。