あなたは必要な人です

マギー

柳之助さま、
最近の研究の進み具合はどうですか?

柳之助

なんでそれを
お前に言うんだ?

マギー

あまり進んでいないのでは
ありませんか?

柳之助

…………。

だから会いたくなかったんだ。

柳之助

今までどうにもできなかったものが、たかだか8年生きてるだけのボクに、なんとかできるって思う方がおかしいんじゃないか?

マギー

そんなことはございません。
柳之助さまは、我らアンドロイドが誠心誠意を込めて作り上げた最高の頭脳をお持ちでいられます。

柳之助

そこは作り上げたじゃなくて
教育しただろ。

マギー

申し訳ありません。

柳之助

ボクはお前らに
作られたわけじゃない。

カナンが食事を持ってきた。

柳之助

ハンバーグだ。

地味に嬉しい。

カナン

坊ちゃんをお作りになったのは
旦那様と奥様です。

柳之助

…………。

柳之助

お前、もうちょっと
言い方ってものがあるだろう?

カナン

いけませんか?

柳之助

それだとボクが工作で
作られたみたいじゃないか。

カナン

違いますよ。
坊ちゃんはちゃんと旦那さまと奥様が……

柳之助

言わなくていい。

カナン


そうですか。

柳之助

まったく、8歳のガキに
何を言おうとしているんだ……。

ボクはハンバーグを食べた。

柳之助

うまいっ

柳之助

魚や野菜と違って、
ハンバーグはいい。

カナン

お野菜も
食べてください。

サラダが出てきた。

柳之助

…………。

そっと遠ざけた。

カナン

坊ちゃん、好き嫌いは
ダメですよ

柳之助

後で食べる。

カナン

お腹がいっぱいになったから
いらないとか言うつもりですか?

柳之助

…………。

そのつもりだった。

柳之助

カナンは学習能力が高い。

ボクが言ったことを覚えていて、そこからボクの行動を割り出す。

データが多くなりすぎていて、ちょっとゆっくりなのが難点と言えば難点だ。

柳之助

それに比べて……

マギー

柳之助さま、
環境問題を解決してください。

マギーは旧式のアンドロイドだ。
外見は昔の人間が好きそうな女性型で、出来てから四百年は経っている。

ちなみにカナンはボクの父親の父親、つまり祖父が若いころに作ったらしく、出来て百年。

カナンから話は聞くが、父も祖父も会ったことはない。

柳之助

食事の時くらい
その話はするな

マギーは同じことを毎日のように言う。
ボクもほぼ毎日同じことを言っているのに、マギーはそれを変えることはしない。

柳之助

せっかく大好きな
ハンバーグなのに

マギー

ですが柳之助さま。早くなんとかしないと、人類は滅んでしまいます。

柳之助

ボクの配偶者も見つからないかもしれないのに、いまさら環境を整えてもしかたがないだろう?

マギー

もし、見つかった時に、今のままならきっと後悔なさいます。

柳之助

しないと思うよ……。

だってもう、
人間が見つからないんだから……。

柳之助

…………。

ハンバーグを口に放り込み、席を立つ。

柳之助

ごちそうさま。

カナン

坊ちゃん
サラダは……

柳之助

いらない。
健康に気を付けても、
しょうがないよ。

カナン

坊ちゃん!

マギー

あなたは
私たちにとっても
最後の希望なのですよ……。

柳之助

勝手に言ってろ。
ボクがそうしてくれと頼んだわけじゃない。

ボクは二人を置いて、リビングを出た。

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