お食事をしてください
お食事をしてください
降ろせよ!
肩にかつがれたまま、リビングまで来てしまった。
お食事をしていただけるのなら、降ろしますが……。
するよ、
すればいいんだろ?
お腹空いてたから、別にいいんだけど……。
はい
カナンはボクを降ろした。
柳之助さま
お待ちしておりました。
ボクがテーブルに座ると、背後からマギーの声がした。
びっくりした……。
いないと思ってたのに……。
なんでこいつがここにいる。
マギーには言わずにカナンに言った。
坊ちゃんを運ぶのが大変で、
通信できなかったんですよ。
カナンとマギーは、無線で通信ができる。
わざとだろ。
ボクを運びながらマギーを追い出すことなんて、カナンには簡単なことだ。
坊ちゃんが言ったんですよ。
通信で会話するなって。
仲間外れにされるのが
嫌だからって。
そんなこと言ってない!
そうでしたっけ?
ボクが言ったのは
「通信で会話をするな」だけだ。
データを確認すれば、
わかるだろ。
…………。
カナンは見たもの聞いたことをすべてデータベースに記録できる。
カナンがデータを確認している間、待った。
「仲間はずれ」を言っていたのは
マギーでした。
ああ?!
ボクはそれを知らなかった。
いまからちょうど
3か月前の記録です。
カナンは近くにあったディスプレイにその時の映像を出した。
通信で会話をするな。
ボクが研究室にいる時の映像だ。
どうしてですか?
どうしてもだ。
カナン。
柳之助さまは、寂しいのですよ。
私とあなたが自分に隠れて会話しているのが。
隠れて会話しているわけじゃないよ。そういう機能が付いているだけなのに。
仲間はずれにされるのが
嫌なんでしょうね。
坊ちゃんを仲間はずれに
なんてしないのに。
もちろん、私たちに
そんな気持ちはありません。
柳之助さまは人間なのです。
私たちにはわからない感情を持っているのですよ。
できるだけ柳之助さまのお気持ちを優先してさしあげましょう。
映像が終わった……。
というデータを見つけました。
私の記憶違いでした。
すみません。
謝るのはそこじゃない。
え?
お前ら、陰でこそこそ
ボクの悪口を言いやがって。
だから通信で会話するな
って言ったんだよ。
そうでしたか。
すみません……。
じゃあ、「どこかへ行け」と伝えられなかったことはいいってことですね。
それもお前がなんとかしろ。
はぁ……。
返事だかため息だかわからないものをついて、カナンがボクの背後にいるマギーの方を向く。
マギーがいると、食欲がなくなるって坊ちゃんが言うんだ。坊ちゃんの食欲のために、坊ちゃんの目の届かないところに行ってくれないか?
…………。
それはできません。
そう言うと思ったよ。
カナンはボクの方を向いた。
できないそうです。
ボクにも聞こえた。
この距離で、聞こえてないって思う方が変だろ?
そこをなんとか説得して、あいつをボクの目の届かないところに行かせろって言ってるんだよ。
そんなこと言ってないじゃないですか。
言ってなくてもボクの気持ちはそうなんだ!
はぁ……。
カナンはノロノロとマギーの方を向く。
と、坊ちゃんは
言ってるんだけど。
あなたは食事の用意をしなさい。
柳之助さまがお腹を空かせています。
うん……。
カナンはほっとしたようにキッチンに向かった。
後ろにマギーがいるのはわかっていたけど、ボクは振り向かなかった。
柳之助さま
よろしいですか?
よろしくない。
ボクがそう言ったからなのか、マギーは後ろにいたままだった。
でも、マギーがお説教をはじめる……。