お食事をしてください

柳之助

降ろせよ!

肩にかつがれたまま、リビングまで来てしまった。

カナン

お食事をしていただけるのなら、降ろしますが……。

柳之助

するよ、
すればいいんだろ?

お腹空いてたから、別にいいんだけど……。

カナン

はい

カナンはボクを降ろした。

マギー

柳之助さま
お待ちしておりました。

ボクがテーブルに座ると、背後からマギーの声がした。

柳之助

びっくりした……。

いないと思ってたのに……。

柳之助

なんでこいつがここにいる。

マギーには言わずにカナンに言った。

カナン

坊ちゃんを運ぶのが大変で、
通信できなかったんですよ。

カナンとマギーは、無線で通信ができる。

柳之助

わざとだろ。

ボクを運びながらマギーを追い出すことなんて、カナンには簡単なことだ。

カナン

坊ちゃんが言ったんですよ。
通信で会話するなって。

カナン

仲間外れにされるのが
嫌だからって。

柳之助

そんなこと言ってない!

カナン

そうでしたっけ?

柳之助

ボクが言ったのは
「通信で会話をするな」だけだ。

柳之助

データを確認すれば、
わかるだろ。

カナン

…………。

カナンは見たもの聞いたことをすべてデータベースに記録できる。

カナンがデータを確認している間、待った。

カナン

「仲間はずれ」を言っていたのは
マギーでした。

柳之助

ああ?!

ボクはそれを知らなかった。

カナン

いまからちょうど
3か月前の記録です。

カナンは近くにあったディスプレイにその時の映像を出した。

柳之助

通信で会話をするな。

ボクが研究室にいる時の映像だ。

カナン

どうしてですか?

柳之助

どうしてもだ。

マギー

カナン。
柳之助さまは、寂しいのですよ。
私とあなたが自分に隠れて会話しているのが。

カナン

隠れて会話しているわけじゃないよ。そういう機能が付いているだけなのに。

マギー

仲間はずれにされるのが
嫌なんでしょうね。

カナン

坊ちゃんを仲間はずれに
なんてしないのに。

マギー

もちろん、私たちに
そんな気持ちはありません。

マギー

柳之助さまは人間なのです。
私たちにはわからない感情を持っているのですよ。

マギー

できるだけ柳之助さまのお気持ちを優先してさしあげましょう。

映像が終わった……。

カナン

というデータを見つけました。

カナン

私の記憶違いでした。
すみません。

柳之助

謝るのはそこじゃない。

カナン

え?

柳之助

お前ら、陰でこそこそ
ボクの悪口を言いやがって。

柳之助

だから通信で会話するな
って言ったんだよ。

カナン

そうでしたか。
すみません……。

カナン

じゃあ、「どこかへ行け」と伝えられなかったことはいいってことですね。

柳之助

それもお前がなんとかしろ。

カナン

はぁ……。

返事だかため息だかわからないものをついて、カナンがボクの背後にいるマギーの方を向く。

カナン

マギーがいると、食欲がなくなるって坊ちゃんが言うんだ。坊ちゃんの食欲のために、坊ちゃんの目の届かないところに行ってくれないか?

マギー

…………。

マギー

それはできません。

カナン

そう言うと思ったよ。

カナンはボクの方を向いた。

カナン

できないそうです。

柳之助

ボクにも聞こえた。

この距離で、聞こえてないって思う方が変だろ?

柳之助

そこをなんとか説得して、あいつをボクの目の届かないところに行かせろって言ってるんだよ。

カナン

そんなこと言ってないじゃないですか。

柳之助

言ってなくてもボクの気持ちはそうなんだ!

カナン

はぁ……。

カナンはノロノロとマギーの方を向く。

カナン

と、坊ちゃんは
言ってるんだけど。

マギー

あなたは食事の用意をしなさい。
柳之助さまがお腹を空かせています。

カナン

うん……。

カナンはほっとしたようにキッチンに向かった。
後ろにマギーがいるのはわかっていたけど、ボクは振り向かなかった。

マギー

柳之助さま
よろしいですか?

柳之助

よろしくない。

ボクがそう言ったからなのか、マギーは後ろにいたままだった。

でも、マギーがお説教をはじめる……。

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