星を、セイ、と読むこともできる。

僕は、祈られる存在だから、セイ。

そう言ったら、サンザシちゃんは嫌そうな顔をしていたよ。彼女、本当に僕のこと嫌いだったよねー

 急にサンザシの話になるとは思っていなかったから、予想外で、少したじろいでしまう。

それでさ、君が目覚める前に、そのセオリーなら、魔王様はタカシ様なんです! って叫んで、もう、本当に笑えるよね。

直前まで見てたドラマに出てた登場人物の名前だったんだけどさ

……魔王様なら、タカシ?

漢字だと、崇拝の崇で、タカシだとも言っていたでしょ。

あの漢字、位が高いって意味もあるけれど、きっと彼女はその意味だけじゃなく

 流し目で、セイさんは微笑する。

気高い、っていう尊敬の意味をこめたんだろうね

……そう、だったんですか



 何度も考えた。



 彼女は、記憶のない俺と、どんな気持ちで旅をしていたのだろう。

 俺の名前を考えてくれた彼女の、その行動から感じられる愛に、思わず目頭があつくなってしまう。

セイさんが、つけたんですか?

 泣いては困ると、俺は話をそらした。

ん?

名前ですよ、サンザシもコリウスも、セイさんがつけたんですか?

うん、そうだよ

 に、とセイさんは口の端をつりあげる。

僕は、親指姫の物語のときに、一度君にヒントをあげようとした。知ってた?

ヒント?

サンザシが倒れちゃってさ、そのときに。暇潰しに本でも読んでなよって言ったんだ。

その直前に調べてたの、なんだったか覚えてる?

……忘れませんよ。ルキが、必ず調べてって言ったんです。花言葉辞典でしたよね

 そう、とセイさんは、なぜだかとても優しい表情を浮かべる。

僕は、そのあと君に読書をすすめたんだ。もう、忘れちゃったかな

どこからともなく、本を出して、俺に差し出す。

サンザシとコリウスの花言葉を調べてみるといいよ。君のは少し暗いけど、でもあってるなってやつもある。

それが、僕が最後に君に伝えたかったこと

 そうして、目を細めて、またね、と言って、静かに消えた。

……いやいやいや、なんでそんなに悲しい感じで消えていくんですか! 一緒にいてくださいって頼んだじゃないですか!

なんだ! ごまかせたと思ったのに

 声だけが聞こえる。くそー全体的に遊ばれている気がする。いや、遊ばれているのか。

一緒に! いてくださいよ!

サンザシちゃんが悲しむぞ、そんな台詞を僕にたいして言うなんて

サンザシと確実にハッピーエンドになるためにあなたを利用したいからいてください

やだやだ! そんなのやだ! 
僕は高みの見物をするって決めたんだ!

不安でしょうが!

反れそうになったら修正するから! 
君は君の進むべきみちを進めばいい! 大丈夫

 セイさんの声しか聞こえなかったけれど、きっと彼は、優しく微笑んだと思う。

ミドリが言ってた。

タカシ君なら必ずこうするはずだって物語を書いたって。

やっぱり、ミドリを君の過去に同行させてよかったよねー、君の過去も今の君の性格もわかって、一石二鳥のツアーだったってことだ

ミドリが、そんなことを……

うん。だから、君を信じて、君らしく

運命を、選びとるんだよ

またね

 そうして、セイさんはどこかに消えてしまった。


 俺がその後何度呼び掛けても、彼はとうとう出てこなかった。

9 記憶があるまま 君との再会(6)

facebook twitter
pagetop