その目は静かに、俺の世界だから、と言っているようでーー俺は吹き出してしまう。

な、んだよ!

いえいえ、そんなことしませんよ。
大丈夫です、冗談冗談

 俺は、ふっと、今までの旅を思い出した。

セイさんのしたことは、正しかったんですよ

何、急に気持ち悪い

本当のことです。

……俺は、いろいろな世界を見て、いろいろな人と接して……短い時間でしたけど、それでもみんな、大切な友人なんです。その人たちと魂が一緒の人たちがいる、この世界を、俺は簡単に壊せませんよ

ははあ、なるほど。

僕が物語をつくった上での最大のミスは、君にとっての大切な人が一人だけだったってところだったのね

そういうことになりますね

 そこでふと、考える。

……セイさん、俺が旅した世界は、消えちゃうんですか? 

俺が旅した世界の魂がこっちの世界に来てるってことは……えっと、今、俺が旅した世界は、無いのかなって

あー、それねー、考えてたんだけど

 セイさんが微笑む。

君の長い旅の記録を物語として書けば、いいんじゃないかなって思ってね。

今まで旅した世界は、おとぎ話が壊れた世界で、魂の保存庫ってだけだったけど、もったいないよねーそれぞれ多様な世界観だし。

ま、おとぎ話のオマージュなんて、よくある話だからさ

……どういう意味です?

君の今までの物語を紡いで、物語として成立させちゃえば、その世界は生まれる。

魂は一緒だけれど、世界は違うから、なんていうの、君が旅した世界は……生まれ変わり! 

そう、この世界の魂たちの、生まれ変わりの世界に昇華させることができる。

うん、やっぱり良い案だ、そうしようそうしよう。

世界の管理は僕ができるけど、時間や世界線で融通きかせてもらわないといけないし、魂の行き先を操作してもらわないといけないから、まずはエンに連絡しないとね

……難しいんですが

えー? だからつまり、君の旅物語の記録を作っちゃえば、新しい世界ができるから、魂と時間の神様に手伝ってもらえば大丈夫だよってことだよ

……そう、なんですね

そうそう。君の旅物語の記録さ、なんてタイトルにする?

えー? セイさんが考えてくださいよ

いいのー? じゃあ、筋道通りになってこその物語、にしよう

嫌味ですね、俺への、当てつけ!

 もちろん、とセイさんは腹を抱えて笑う。

 俺も笑いながら、今まで旅した世界が消えてしまわないと聞いて、安心する。


 みんな、幸せになりますように。
 俺は祈るような気持ちで、静かに目を閉じる。

祈ってるね

……水をささないでください

祈るときって、君、何に願う?

神様に願ったことはありますね

僕?

……まあ

星に願ったりもしない?

ああ、流れ星とかです?

そうそう。僕の名前

 セイさんはにこりと微笑む。

9 記憶があるまま 君との再会(5)

facebook twitter
pagetop