体育館に戻ると、次の対戦相手がまだ決まっておらず、審判の瑞希も居なかった。

並木 桃香

 あ、希さんが来た!

 キャー、希さーん。

 声のする方を見ると、さっきのサイン会に来ていた人たちが、集団で固まっていた。

霧裂 静香

 人気者ですね。

  不意に後ろから声をかけられ、振り向くと、そこには、さっき、一人の女子生徒が立っていた。

神裂 希

 あはは、そうですね……。

 私は苦笑いをする。

霧裂 静香

 申し遅れました。私は霧咲 静香と言います。

 彼女の名前は静香と言うらしい。

 さっき、瑞希や信也君と一緒に居たので、この人もSクラスなんだろう。

 ということは、次の対戦相手はこの人かな?

霧裂 静香

 そして、次の対戦相手です。

神裂 希

 あ、そうなんだ。私は希。よろしくね。

 私は握手を求める。

 しかし、静香は握手に応じなかった。

霧裂 静香

 次の試合、必ずあなたを倒します。

 静香はそれだけ言って体育館の中央に歩いて行った。

神裂 希

 私、霧咲さんに何かしたかな?

  私は霧咲さんに、身に覚えの無い怒りをぶつけられた気がした。

 希と静香はそれぞれスタートポジションに着き、試合開始の合図を待っている。

神宮寺 瑞希

 それでは、これから第三試合をはじめます。

  瑞希の元気な声が体育館内に響き渡る。

神宮寺 瑞希

 さあ、ここまで手の内を見せていない神裂 希。

 この試合で瞬間練成を見せてくれるのかー?

 大げさに場を盛り上げる瑞希。

 体育館が歓声で包まれる。

風宮 梓

 希さん。この勝負に勝つことができれば、あなたのSクラスへの編入は確定よ。

  風宮が、二階の特別席の位置から、希と静香を見て言った。 

 「BATTLE START!」

 機械音が試合開始の合図を告げる。体育館はのどかな田舎の風景へと姿を変えていく。

  試合の開始と同時に動いたのは霧咲 静香だった。開始と同時に一気に間合いを詰め、希に跳び蹴りを一発入れてた。

神裂 希

 痛ったー。

 希は不意の攻撃に対処しきれず、その攻撃をまともに受けた。

霧裂 静香

 あなたの能力は把握しています。

 もちろん、瞬間練成の仕組みもです。

 そう言うと、静香は攻撃の手を緩めず、蹲っている希に次の攻撃を与え続ける。

神裂 希

 くっ! 

 希が一方的に殴られているその光景は、今までの勝負とは比べ物にならないくらいに希に不利な展開の試合になっている。

風宮 梓

 気づいていたんでしょう? 神裂 優斗。

 二階の特別席の窓から試合を見ながら、風宮会長が俺に聞いてきた。

神裂 優斗

 あ、バレてました?

 俺は、透明化の魔法を解いて、会長に言った。

風宮 梓

 ええ、その雑な尾行も、希を庇って弱点を言わなかったこともね。

  どうやら、会長には何もかもお見通しのようだ。

神裂 優斗

 風宮会長がこんなに早く、希の弱点に気づくとは思っていませんでしたよ。

 俺は、会長に言った。

風宮 梓

 私は生徒会長よ。

 生徒の弱点ぐらい、一度の手合わせで分かるわ。

  会長は試合を見たまま言う。

神裂 優斗

 で、どうするんですか?

 このまま希が負けたら。

 俺は、会長の答えを知っていながらも会長に聞いた。

風宮 梓

 そうね。生徒会に入って貰おうかしら。Sクラスには入れなくても他のクラスでもやっていけそうだしね。

神裂 優斗

 でしょうね。どこにも所属していない上に、Sクラスのメンバーを二人も倒す奴なんて、滅多にいませんし。

 そして、俺は続けて言った。

神裂 優斗

 で? 仕事のメンバーにも入れようか検討中ってことですか?

  すると、会長がため息を一つして言った。

風宮 梓

 この試合に希が勝てば、そのことも視野に入れているわ。

 会長が答えた。

神裂 優斗

 そうですか。

 まあ、希は強いからこの試合には勝てると思いますよ。

 俺は、続けて会長に言った。

神裂 優斗

 でも、会長の目的のために、勝手に他人を巻き込むのは良くないと思いますよ。

 すると、会長はフフッと笑って俺に言ってきた。

風宮 梓

 私は、強制はしないわ。

 会長は試合を見たまま言う。

神裂 優斗

 だと良いんですけど。

  俺は、そう言って特別席を後にした。

 第三十二話:《歓迎試合~二色の魔銃1~》

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