ドアを開けると、カランコロンと、今日もいい鈴の音がお店の中に響いた。冷たい空気がぶわっと流れ込んでくる。外は、とても暑い。
ドアを開けると、カランコロンと、今日もいい鈴の音がお店の中に響いた。冷たい空気がぶわっと流れ込んでくる。外は、とても暑い。
いらっしゃいミユちゃん
こんにちは、おじさん!
カウンターにいるマミのおじさんに挨拶をすると、おじさんはいつものように優しく微笑んだ。
ミーユ!
タツキ!
窓際の陽がたっぷりと差し込む席に座りながら、タツキは私に手を振っていた。
約束の時間である午後3時10分前。いつも早めに着こうと思って来るのに、いつもタツキは私より先に来て、読書を窓際の指定席で本を読んでいる。
今日は何読んでるの?
北野先生の新作ミステリー。もうちょっとでキリがいいとこまでいくから、ちょっと待っててくれる?
わかった。すいませーん!
タツキは読書が好きで、一度読みだしたら止まらないタイプだった。そんな読書をしているタツキの顔をこっそり盗み見るのが私の習慣だった。
あ!ミユじゃん!来てたんだ!
マミ!今日もお手伝い?
私たちは高校一年生のころ同じクラスになり、仲良くなった。なんでも話せる友達だ。
パティシエを目指しているマミは、修行をしつつ、このお店の手伝いもたまにしている。
うん。あ、今日ミユの好きなショートケーキあるよ!
ホント?じゃあアイスティーと一緒にもらえる?
はいよー!
マミはそう言うと、厨房の方へと戻って行った。
海に向けてダイエットする!って宣言してたの誰だっけ?
い、いいの!マミのケーキは特別だもん!
タツキが本から目を離して、ふふっと笑った。
どうぞ
お盆にケーキとアイスティーを乗せて戻ってきたマミが、机に慎重にそれらを置いた。
真っ白なクリームに、ちょこんと乗る真っ赤な苺。相変わらず、とってもおいしそうだ。
うわ~!ありがと、マミ!
ごゆっくり
まず、ケーキのてっぺんに乗っている苺を指で取って口へ入れる。ケーキの苺は先に食べる派だった。前に、タツキに残しておいたら食べられてしまったことがあったから。
そしてひとかけらフォークで切り取ってそれを食べると、甘さ控えめのクリームとスポンジの絶妙なバランスの取れたおいしさが口の中に広がる。
ん~!おいしい!
やっぱり、マミのケーキはおいしい。お世辞でもなんでもなく、私が今まで食べてきた中で一番だ。
おいしそうに食べるよね
だって本当においしいんだもん!
食べてるときの幸せそうなミユの顔、好き
な、なに!いきなり!
赤くなってる
私は照れをごまかすようにもうひとかけらケーキを口に入れた。
俺にも一口頂戴
はい
フォークを差し出しても、受け取ってくれない。
本、持ってるから手は使えません
なっ……!
こういうたまに仕掛けてくるいたずらが、私の心を今もドキドキさせていることを、タツキは分かってやっているのだろうか。
あーん
口を開けて待っているタツキに、ちょっと周囲を気にしながら私は大きなかけらをすくって口に押し込んだ。
あーうまっ!
私のちょっとした反抗はタツキの大きな口にはなんの効果もなかったらしく、満足そうに微笑んでいる。
そんなふうにしていたら、そばにあった柱時計が三時を告げる音を奏で始めた――。