【14】真実の扉





























来栖 康青

ああ、そうか。
「レールの上」に「ルールは無」いんだ

剣持 朱梨

は?



オッサンは暗号を指さした。

来栖 康青

だからさ、この横線のせいで横に読んじまうけど、本当は横に読んじゃ駄目なんだ

来栖 康青

縦に読めばいいんだよ

剣持 朱梨

はいいいい!?

来栖 康青

で、縦に読んだ時に意味のある文字列はこのふたつ。
残りはダミーだな

剣持 朱梨

手を取った時
道は開かれる……?

剣持 朱梨

なんの手? あの像の手を握れって?



やっぱり「オッサンと肩車」からは
逃れられないのだろうか。





そんな俺の頭の中を
覗き見たわけではないだろうに
オッサンは
引きつり笑いを浮かべる。

来栖 康青

あのなぁ、同じことをキリオがやったんだぞ?
ホールのど真ん中でシャンデリアによじ登ったりしてたら、誰にも見られないはずないだろうが

じゃあオッサンと手を取り合って……

来栖 康青

なんだ? 
俺と手ぇつなぎたいならそう言えよ

いえ全然


俺だって男だ。
つなぐなら女の子がいい。
次にお姉様、幼女、おばさま、おばあさま。

男の娘と美少年はまだ許せるが
オッサンは全力で拒否したい。

来栖 康青

ってこと言ってる場合じゃなくって。
この我々ってのはなんだと思う?

ダミーじゃねぇの?

来栖 康青

アホぅ、少しは考えろ。

オッサンの口の悪さが
時間と共に倍増していく気がする。



女性陣の前じゃネコ被ってたのか?

嫁の来てがねぇみたいなこと
言ってたな、そう言えば。







……って
そんなことはどうでもいい。




んー……手を取りあっちゃうって言えばやっぱ精霊の姫と主人公?

来栖 康青

姫の手は取れねぇっつってんだろ


出来の悪い生徒にうんざりした
数学教師みたいな顔で
オッサンは
頭をわしゃわしゃと掻いた。







掻いて、
2枚の金属板の下のやつを
トントン、と弾いてみせる。

来栖 康青

ちったあ考えろ。
下の忠告を見ると、ご丁寧に精霊の時計が道を戻すと書いてある。
ってことは、この「道を開く」のも時計なわけだ

来栖 康青

つまりこれは「精霊の時計が手を取った時」。
手を取るというのは手と手を合わせることだな。
時計で「手と手を合わせる」を表しそうなことと言えば……

剣持 朱梨

長針と短針が重なった時……?



















思い出した。

俺が剥製の謎について
得意げに杏子に語っていた時、

時計の鐘が鳴った……っけ。



来栖 康青

ヤベェ! 時間がない!!


オッサンは
ステンドグラスに貼りつくと

ガタガタとゆすり始めた。





剣持 朱梨

なにしてんの? オッサン



ついさっき俺に
力任せとかなんとか言ったくせに。







そう思って見ていると
オッサンは焦ったように怒鳴った。

来栖 康青

今時計が鳴っただろ!?

来栖 康青

ここが開くのは「時計が手を取り合っている時」。
針が重なるのは1時間の中で1分間だけだ

来栖 康青

そして今、俺のオメガ様が1時だって仰ってる



時計の針が重なるのは
1時間に1度。

上にある時計は推測するに
デジタルなんかじゃなく、
長針がガチャッ、ガチャッ、と
1分ずつ進む
古いタイプだろう。




キリオが通っていった時の時間は
鐘のとおりの12時00分。



そして、今は1時。

針が重なるのは1時1分を
さしている間の

1分間。





剣持 朱梨

うわわわわ!
それを早く言ってよ~~

窓枠だのガラス面だのを
あちこち叩いたりゆすったりしていると


ふいに
ステンドグラスの内側の絵が
ぽっかりと外れた。





































その向こうに廊下が見える。




点々とついた灯りが
つい今しがたまで
ここに誰かの手が加わっていたことを
物語っている。

来栖 康青

……間に合ったみたいだな

剣持 朱梨

ここをキリオは通っていったのか?

来栖 康青

それはまだわかんねぇけどな










オッサンは開いた隙間から
用心ぶかく中を覗き込み、

来栖 康青

うん。
なんも細工はされてねぇみたいだ

と呟いた。







剣持 朱梨

細工?

来栖 康青

ついうっかり首突っ込んだら上からギロチンの刃が降ってきた、とか

剣持 朱梨

うわぁお



それは勘弁してほしい。







が、これを作った奴が
もっと悪意のある奴だったら
それくらいやりかねない。


暗号を解いた、って
喜び勇んで突っ込む単純な奴なら
簡単にひっかかる。





俺みたいに。


























来栖 康青

じゃ、

剣持 朱梨

杏子たちに知らせねぇのか?


そのまま進みそうなオッサンを
呼び止めると、


オッサンは窓枠に片足をかけたまま
肩越しに俺を見た。

来栖 康青

知らせに行っている間に閉められちまうかもしれねぇぞ?

来栖 康青

現に今の今までここは閉まっていた。
いくらキリオでも外して通ってまた戻すなんてことを1分じゃできねぇだろ?
誰かが閉じたってことだ

だけどよ、



2人だから大丈夫、なんて言いきれない。





オッサンは頭はキレそうだけど
腕力はなさそうだし


黙って進んで、もしなにかあったら
杏子たちはずっとそれを
知らないでいるわけで、




だったら
一緒に行こうとまでは言わないけど
せめて何処へ行くかくらい
伝えておいたほうが

救出部隊でも来て
杏子たちが助かった、なんてことが
万が一にもあった時に

俺らを見つけてくれる率も
上がるってもんで……














来栖 康青

なにより、うさぎちゃんが出てくるとうるさい

剣持 朱梨

同意!







こうして俺たちは
新たな廊下に足を踏み出した。








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