【15】第4の試練:酒樽の謎
歩いていく間、俺たちは無言だった。
ろうそくがついているってことは
酸素があるんだなー、なんて
「呼吸してるくせにそれはないだろ」って
自分で自分に
ツッコミを入れたくなるようなことを
考えたり、
「地下に行くのも螺旋階段なのかよ
上に行くのとつながってたら
便利なのにな」なんて
思ったり、
そうこうしているうちに
俺たちは地下倉庫のような場所に
突き当たった。
ここで行き止まり、か?
でもキリオはいなかったっすよ?
ってことは、この先にまた隠し通路か何かがあるってことかな?
積んであるのは酒樽だろうか。
ワインと木と
酸味とかび臭さが混じったような
独特の匂いがする。
この樽の中に隠れてるとかってないよな
殺されて詰められてる、ならあるかもしれねぇけどな
オッサンは物騒なことを言いながら、
ああ、っと火はやめとくか
1度点けたタバコをもみ消した。
でもこっからどうしよう
目の前には酒樽が
積まれたり転がされたりと
好き勝手に置かれている。
広いからいいだろうけれど、
整頓すればもっと
空間が有効活用できるんじゃないか
と思ってしまうような
雑然さだ。
そうだなぁ
オッサンはぐるりと部屋を見回し
一際高く積まれた樽を見上げると
その一番上を指さした。
ちょっとあそこまで上ってみな、少年
はあ!?
樽を5つ積み上げたそれは
見上げると首が痛くなるくらいには高い。
それも言葉通りの樽状
――つまり円柱みたいな、
ちょっとしたはずみで転がって行く
危うい均衡の上に成り立っている。
そこに上れって……
お前さん、運動会のピラミッドじゃ1番上担当だったろ?
なぜそれをー!!
確かに俺は体育祭の目玉
(と先生たちは思っている)
ピラミッドという組体操の型では
1番上になることが多い。
要するに
平均より小さい、軽い、と言うことだ。
「土台になるよりずっといい」と
悪友には言われるけれど
結構(特に心が)
傷つくのも確かなことで
特技は最大限生かせよ
そんな特技はいらねぇ
このために連れて来たんじゃないかと
邪推させるほど爽やかな笑顔で
オッサンは上を指さす。
……
さあ
……
どう足掻いても無駄なようだ。
俺は樽のひとつに足をかけると
慎重によじ登った。
おーい、なんか見えるかー?
やっとも思いでよじ登ったところに
オッサンの気の抜けた声が飛んでくる。
聞くだけで全身の力が抜けるような
緊迫感のない声だ。
他人任せにしているからに
違いない。
……やめてくれよ。
こちとら、
こっから落ちたらシャレになんねぇ。
呑気だな、ちょっと待てって……
俺は、体勢を安定させようと
一番上の樽に馬乗りにまたがって――
!?
目を疑った。
下から見る分にはわからなかったが
この樽は適当に置かれているんじゃない。
これは……
迷路……!?
下からでは樽に隠れてわからなかったが
見える範囲で扉が4つある。
あれのどれかを
キリオが通って行ったのだろうか。
迷路ぉ?
随分楽しそうなのが来たじゃねぇの
いや。
ただの迷路じゃあなさそうっすよ?
尊敬は時には枷となり
愛は奇跡に成り得ず
ただねたむ心だけが
我が求めに応じる
樽に殴り書きされている文字に
目を落とし
俺は溜息をついた。
似たようなのならこっちにも書いてあるぜ
奴さんはよっぽど姫が好きなんだねぇ
少女趣味なんかな?
■試練4
迷路を通り抜けて下さい。
(※樽と樽、樽と壁の間に細い隙間がある場合がありますが、そこは通り抜けられません)
A:Aの出口
B:Bの出口
C:Cの出口
D:Dの出口