第五駅 遅い開催宣言
































列車は唸りを上げ


スピードを増していく。









ビル群、


操車場、


プラットフォーム。











車窓を流れ行く景色は



まるで走馬灯だ。






大毅

チッ……
どうなってやがんだ!?









次第に伝播していく乗客の不安。






ねー、ママー。
僕達どこで降りるの?










ユウジ

クックックッ。

ユウジ

こんな速度で脱線でもしたら
まず全員死亡だな。











若い男のひとことにより



乗客の恐怖心が煽られる。











ところどころで



声にならない悲鳴や



すすり泣きが聞こえ始めた。




大毅

おい!

ユウジ

あん?

大毅

テメェ……。
何考えてやがる?

ユウジ

何も。

大毅

みんなを不安に
させてんじゃねぇよ!

ユウジ

なんだ?
安心したいのか、お前は。

ユウジ

こんな状況でよ!

大毅

なんだと?

やめなさいよ、あなた達!

ユウジ

状況の把握もできねぇアマちゃんは
危機感も持たずに野垂れ死んでろ。

大毅

無駄に恐怖を煽るんじゃねぇ!

柚葉

やめて、大毅!
言い争いしても何も解決しないわ。

大毅



ヒートアップした俺は


柚葉の言葉で落ちつく。


大毅

……悪ィ、柚葉……。



大毅

チラッ

ユウジ

……。





大毅

俺はテメェに何があっても
知らねぇからな!

ユウジ

勝手にしろ。
お前と行動を共にする方が
不安になる。

大毅

チッ!













柚葉

大毅……。
この電車……、
どうなっちゃうの?

大毅

わからない……。

大毅

ともかく、なんとか脱出する方法を考えよう。

そうね……。

大毅

そう言えば、アンタの名前を聞いてなかったな……。

大毅

俺は大毅だ。
佐山 大毅。
で、こっちがゼミ仲間の
片倉 柚葉。

柚葉

ぺこり

美香

私は美香よ。
新田 美香。
ヨロシクね。

大毅

あぁ。

美香

……で、妹の香織よ。

香織

先程はありがとうございました。

大毅

……いや、まだだ。

香織

え?

大毅

礼はこの電車を無事降りてからにしてくれ。

香織
香織

………はい。

柚葉

ムスッ。

大毅

どうした、柚葉。
ほっぺた痛いのか?

柚葉

なんでもない!

柚葉

もー!
ガソリン切れで、
止まってくれないかしらね!

大毅

柚葉、電車の動力は
ガソリンじゃないぞ?

柚葉

わかってるわよ!

美香

じー……。

美香

仲がいいのね、お二人さん。

大毅

腐れ縁ですよ。

柚葉

そーそー。
腐れ縁ですよ!

香織

ふふ……。





他愛もないやり取りに



その場にいた者の緊張が緩んだが、



けたたましい車内アナウンスは



それを許さなかった。





レディース
アーンド
ジェントルメーン!

大毅

!!

柚葉

!!

香織

美香

ユウジ

……。





本日は
山脚線を
ご利用いただき
誠にありがとう
ございます。





素っ頓狂な調子のアナウンスがされると同時に



人々は目眩のような感覚に襲われた。





































大毅

うわ、なんだこれ。

柚葉

やだ、くらくらする。












大毅

広告の文字が……
動いていく……。






デジタルサイネージは砂嵐を映し、






広告は生き物のように動きはじめる。










そして、次第にまとまりゆくそれは







一つの言葉を写しだした。













邪魔悪死線ゲーム







柚葉

邪魔悪死線ゲーム?

大毅

趣味の悪そうな
タイトルだな……。








砂嵐状態の車両用デジタルサイネージが



平穏を取り戻す。








そこに映しだされたのは



まるでハロウィンのコスプレをした子供の姿。



パッ!

私、本車両の運転士兼
車掌を勤めます、
『ウコバク』でございます。

どんな速度でも
脱線しないよう
安全運転に努めます。

うこばっくん

みんな、
『うこばっくん』
って呼んでね!

うこばっくーん!




あっけにとられる乗客を尻目に



ウコバクを名乗る少年は



説明を続ける。


うこばっくん

さて、渋山駅から開始した
邪魔悪死線ゲームですが……

うこばっくん

これまで順調に生け贄を捧げていただいております。

うこばっくん

ひとえに、皆様のご尽力による賜物です。

柚葉

……生け贄って何よ……。

美香

……バカげてる……。








うこばっくん

ここで、邪魔悪死線ゲームのおさらいをしましょう!

[基本的な流れ]
* 次の駅に到着するまでに生け贄の魂を1、要求されます。

* 駅到着までに魂が捧げられた場合は、その駅には停車いたしません。

* 駅に到着しても魂が捧げられない場合は、魂が捧げられるまで停車し続けます。

* ゲーム中、自ら車外に出ると、自動的に生け贄となります。

* 駅到着までに2以上の魂が捧げられた場合、余剰の魂はその先の『いずれかの駅』の魂として捧げられます。『いずれかの駅』は無作為に選ばれます。

[ゲーム終了条件]
1. 規定量の生け贄の魂を捧げた時。
1-1. 必要な生け贄の魂は29
1-2. 生け贄は全て人間

2. 1.を満たす前にヌエ42が満腹になった時。

3. 業務命令でイベントが終了した時。

※不正を見つけた場合は
 厳重に処罰

[勝利条件]
1. ゲーム終了時に邪魔悪死線車両に生き残っている事。

※ 人数は問わない。

うこばっくん

ちなみに、今までに捧げられた
生け贄の魂の数は6です。

大毅

何がおさらいだ!
全く何も聞いてないぞ!

美香

そうよ!
変なことに巻き込まないでよ!

うこばっくん

あれぇ?
おかしいなぁ?

うこばっくん

全てのドアの外側に
邪魔悪死線ゲーム参加の
契約書を書いたんだけどなぁ?

大毅

ドアの外だと……?

大毅

停車中にドアが開くと
見えなくなるとこじゃねぇか!

うこばっくん

ケケケッ!
よく見とけよ!





うこばっくん

では、ここで本車両から
ご挨拶です。

うこばっくん

改めてご紹介いたします。
今みなさまがご乗車されている
邪魔悪死線の車両……
ヌエ42君です。

ヌエ42









デジタルサイネージが切り替わり



ウコバクの代わりに映し出される



おぞましい車両の姿。









ヌエ42

 ……ヨロシク 






地の底から響き渡るような



低い音で語りかける何か。










映像が切り替わり



ウコバクが映しだされる。



うこばっくん

間もなく太崎《ふとさき》駅も
通過します。
邪魔悪死線ゲームを
続けましょう!

うこばっくん

生き残るためのヒントは
すでに出てるから
みんなには簡単だよねー!

うこばっくん

最後まで生き残った人には
豪華な商品があるから
頑張ってねー。



デジタルサイネージは


再び砂嵐を映し出す。


大毅

……。

香織

……。

柚葉

29の生け贄を捧げないと
ゲームは終わらない……。

美香

ゲームを終わらせずに外にでると
生け贄になる……。

大毅

……どうすれば
いいんだ……。





………。





奇妙な出で立ちの若者が



乗客の集まりから一歩引き



1人運転席の方へ向かった。


こんなふざけたゲームに
付き合ってられっかよ!

チラリ

緊急停止ボタン

うえへへへ……。
緊急停止ボタン、
一度押してみたかったんだよなぁ……。

緊急停止ボタンと
ドアコックのコンボで
ヨユーの脱出だぜ!













ヒッ……




先程まで緊急停止ボタンだったものは



触れようとしたその時



巨大な目玉へと変わった。






そして……



 フセイ ハッケン 

あわわわ……




































現在の生け贄の魂 7


















降車拒否








つづく

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