第四駅 九反田駅
《くたんだ》
おかーさん、
見て見て。
電車走ってるよー!
良かったねぇ、タッくん。
ムスッ
靴も脱がずに大声で……。
公共の交通機関での振る舞いを
躾けてないのかしら?
チラッ
人が増えてきたから、アタシの勝ちでいいよね?
こらまて、柚葉の選んだヤツ見てないぞ!
だって、大毅、棄権でしょ?
いやいや、棄権してねぇぞ!
さっきので行く!
俺がチョロいとか思われてもいいから!
もう、仕方ないなぁ……。
柚葉はずっと前の方で
見てたもんな。
あそこだろ。
そーだよー。
俺達は運転席付近の中吊りの元へと向かう。
はい、アレが私が選んだ
お気に入りの広告です!
柚葉は自信満々に
中吊り広告を指差す。
どれどれ?
∇∂∃∧⊥♀仝жЙ
ЦЮ∇仝∂Й∧∧
はっ?
どう?すごいでしょ〜!
え?ああ……。
いや、たしかにインパクトあるけどさ。
読めないじゃん?
え?
…え?
その時。
!!
!
車両後方から
女性の悲鳴が聞こえてきた。
だ、誰か、助けて……!
どうしたんだ?
後ろの車両に変な人が!
変な人?
痴漢かしら……。
イヤねぇ……。
妹を置いて来ちゃったの……。
お願い、助けて……。
隣の車両か?
ううん、その隣。3号車よ。
柚葉、ちょっと行ってくる。
ここで待ってろ。
大毅、痴漢相手でも
喧嘩しないでよ!
あぁ、わかったわかった。
そう言って俺は先頭車両を後にした。
チラッ
そう言えば、このあたりの広告は
見てなかったわね。
問1) 以下の△△と□□と○○に入る言葉を答えなさい。
この説明は△△の法則です。
奇数□□は
○◯残る
偶数□□は
○◯残らない
進学塾の広告は難しいわね……。
△△は『割り算』かしら?
あら?でも……。
チラッ
すー…すー…
女の悲鳴がしたってのに、
呑気なもんだな。
ガタガタガタ……
3号車へ着くと
1人の女性が震えながら
床にへたり込んでいた。
大丈夫か?
と俺が問いかけると、女は
コクコクコク……
と何度もうなずいた。
昼間から酔っぱらいでもでたか?
ち、違うの……。
向こうの車両に……。
俺は女の指先の向こうにある
4号車への扉を見た。
そこにはドアの窓越しに
血を流しながら
損壊した体で徘徊する
女子高生の姿。
変……ってどころじゃねぇ……。
バケモンじゃねぇか。
ここにいては危ない。
俺の直感がそう告げた。
おい、アンタ、逃げるぞ。
こ、腰が抜けて
立てないの……
俺の方に掴まれ!
俺は女性に肩を貸し、
急ぎ足で3号車を離れた。
すー……すー……。
あのオッサンもアブねぇ。
放ってはおけないと思った俺は
熟睡する男に声をかけた。
おい、起きろ!
アンタも逃げるぞ!
パチッ
しかし、俺は声をかけたことを後悔した。
ずるり
男の皮膚は
急激に腐食し剥がれ落ち
バケモノと化した。
うおぉぉ!マジか!?
やべぇ!
ァ゛……
ァ゛ァ゛……
い、急げ!
ヒィィィ!!
はぁはぁ……。
はぁはぁはぁ
香織!
大毅!
どうしたの?そんなに息を切らして。
大の大人が
車内を駆けずり回るなんて
一体どんなしつけを受けたのかしら。
に……2号車を覗いてみろ。
え?
な……何アレ……
徘徊する頭皮の禿げ上がったバケモノ。
ただならぬ様子に
車両後方に乗客の視線が集まる。
そして、
その異変に気づきだした。
ひっ……
お母さん、あれなに?
あ……あれ、本物か?
わからん……。
ともかくバケモノだとしか言えない。
ど、どうしよう、大毅……
このドアを塞ごう!
座席を取り外して立てかけるんだ!
やかましいな……。
お前も手伝え!
男手が必要だ!
なんでだよ。
ドアを塞がないと、向こうから……
来ねぇよ。
あん?
バケモノが出たんだろ?
わかってんなら手伝えよ!
殺されるかも知れないんだぞ!
クックックッ……。
何がおかしい!
ん?
死にたくないなら、
あの広告に答えが書いてあるぜ。
なんだと?
問1) 以下の△△と□□と○○に入る言葉を答えなさい。
この説明は△△の法則です。
奇数□□は
○◯残る
偶数□□は
○◯残らない
※掲載期間 5分
答)
△△=生き残り
□□=車両
○○=生き
なんだ?これ?
もう少し用心深く行動した方がいいぜ。
にわかに信じられない俺は
用心深く2号車のバケモノを観察する。
確かに2号車内を徘徊するものの、
こちらの車両を気にする気配はない。
4号車にいたバケモノも
3号車には入って来てはいなかった。
一体、この広告はなんなんだ?
いや、この電車はなんなんだ?
ともかく、このままでは危ない。
次の九反田でみんな降りよう。
……そうね。
それは間もなく九反田駅に
なろうと言う時だった。
おもむろに上がる列車のスピード。
キャッ!
うわっ!
急激な速度変化に
乗客がよろめく。
え〜、
九反田を
通過します。
は!?
各駅停車の山脚線は
九反田のホームを通過していった。
降りようとする俺達をあざ笑うかのように。
降車拒否
つづく