第三駅 喉黒駅
《のどぐろ》














































大毅

!!!

柚葉

え?なに!?

大毅

後ろの方だ。
行ってみよう。





悲鳴を聞きつけ



俺達は連結部の方へ向かった。



大毅

おい、どうした?

スグル

な、ナンデモねぇよ!

柚葉

でも今、大きな悲鳴が……。

スグル

ナンデモねぇっつってんだろ!

ユウジ

わかったらあっちいけ!

大毅

……ん?



俺はリーダー格の


恰幅の良い男の姿が見えない事に


ふと気づいた。


大毅

おい、あのトサカはどこ行った?

スグル

チッ!

ユウジ

いい加減、首突っ込むなって言ってんだ。

ユウジ

痛い目見ねぇとわかんねぇのか!?

大毅

あん?

柚葉

もう、いいよ。
行こうよ大毅。

大毅

首突っ込まれたくないなら
でかい声出すんじゃねぇよ。

ユウジ

……悪かったな。

大毅

行こう。

柚葉


















スグル

……ユウジ……オマエも見たよな?

ユウジ

……何がだ?

スグル

とぼけんなよ。
ここの座席にあった
『左手』だ。

ユウジ

……。

スグル

ロレックスとオメガ。
両方を巻いてた。

スグル

あれは間違いなくタケちゃんの……

ユウジ

スグル!!

スグル

ビクッ!

ユウジ

どこにそんなものがある?

スグル

いや、気がついたら
いつの間にか
無くなっちまってたけどさ……

スグル

けど、確かにそこあった。
座席の上に。

ユウジ

俺は見てない。
そんなものはなかった。

スグル

嘘つくなよ!
オマエも一緒に驚いてたじゃないか!



ユウジ



ユウジ

『左手』があったら
どうだって言うんだ?

スグル

え?

ユウジ

タケちゃんがどこに行ったか
分かるっていうのか?

スグル

……いや、何かの手がかりになるだろ?

ユウジ

『左手』だけがここにあって
タケちゃんがまともな状態だと
思うのか?

スグル

うっ……

ユウジ

実際、その『左手』も無いんだ。
最初から無かったと思ったほうがいい。
きっと幻覚か何かだ。

スグル

〜〜〜っ。

ユウジ

ともかく、次の喉黒で降りるって言ってたんだ。別の車両から降りるつもりで他の車両に移ったかもしれない。

スグル

まぁ……。
確かにタケちゃん
そういう所あるもんな……。

スグル

フラっとどっかに行っちまってよ。
それでいて、1人でどっかのチームを
のして来ちまってよ。

ユウジ

ああ、そうだ。
あの不死身のタケちゃんだ。
ただどこかをうろついているだけさ。
















柚葉

はぁ……。
なんか変な雰囲気になっちゃったね。

大毅

せっかく柚葉が
面白いフィールドワークを
考えてくれたのにな……。

柚葉

オシマイに……しよっか……?

大毅

そうだなぁ……。

柚葉

アタシの勝ちで。

大毅
大毅

ちょ、まて、こら!

柚葉

だって、大毅はまだ探し中でしょ?

大毅

あ、いや、確かにそう言ったけどさ……。

大毅

……あ!

















『大黒駅に気をつけろ。』
『最初の犠牲者は先頭車両だ。』

























その時、俺は


俺の心を強烈に惹きつけた


見出し広告を思い出した。







大毅

クックックッ……。

柚葉

……な、何よ?

大毅

思い出したのさ。
俺がとんでもなく
週刊誌を買いたくなった見出しを!

大毅

柚葉、お前はその広告を見た時
『アタシの負け』と言う。

柚葉

なにを―!
じゃあ見せてよー!

大毅

えっと……



俺はさっきの中吊り広告の場所を探す。

大毅

アソコだ!
アソコの裏だ!

柚葉

こら!
走るなって言ってるでしょ!





俺は目的の中吊り広告の


下まで行って振り返る。





\くるっ/

大毅

へへへっ

『大黒駅オススメフーゾク店!』
『同伴出勤の決め手は先頭車両!』

大毅

あ……あれ?


場所を再確認するため、


隣の中吊り広告も見る。

『惨劇!金のトサカを持つ男!』
『山脚線ラーメンデータベース!』
『二枚舌!柔和な仮面の下に隠された素顔!』

大毅

ここ……、だよなぁ……。

柚葉

どれどれ。

大毅

ダァー!
待て!ダメダメ!




柚葉



柚葉





大毅

いや、あの、……これは…その。

柚葉

えー……。

大毅

ち、違うんだ、待ってくれ!

柚葉

こんなんで週刊誌を
買いたくなるなんて
大毅、めっちゃチョロいわー。

大毅

あ…
ああ……
ああああ……






俺の失意の中、



列車は喉黒駅のホームへ入っていった。






喉黒〜喉黒〜。

大毅

お、今度はちゃんとあいたな。





連結部付近以外のドアから


乗車客がガヤガヤと乗ってくる。



……まったくもう、なんで私が……。




ナツキ……ナツキ……。




ほら、足元気をつけてね。

うん。




ほぁ〜。涼しいね。



























喉黒〜喉黒〜。

スグル

おし、俺がタケちゃんが
降りてくるか見てくる。

ユウジ

頼むぜ、スグル。
俺は他の車両から移ってこないか見てる。

スグル

タケちゃん見つけたら合図出すから
ユウジもすぐ降りろよ。

ユウジ

あぁ。

スグル

タケちゃーん!





そう言いながら、浅黒い肌の少年は



列車のドアを飛び出した。






ユウジ

チラッ



















『喉黒駅は羊の入れ替え。』
『乗るは新たな生け贄候補。』
『降りるは用済みの生け贄。』



























スグル

タケちゃん、タケちゃん、と……。





スグル

降りねぇな……。











スグル

……てか、誰一人として
降りないな……。
どうなってんだ?











スグル

おい、ユウ……。











スグル



列車の方を振り返ると


そこには『ドア状の何か』が


列車の入口を塞いでいた。


スグル

ヒィッ!




スグル

た、助け……




助けを求めて仲間の姿を探す



浅黒い肌の少年。











しかし、そこで目にしたものは……




ユウジ

ニヤニヤ

スグル

な……なんで
笑ってんだよ……。

ユウジ

あばよ、スグル。

スグル

うわぁぁ!!








































ドアが閉まると





車内の賑やかさを増した列車は





喉黒駅を出発した。













これまでと変わらず



車体を揺らして。

























降車拒否







つづく

第三駅 喉黒駅《のどぐろ》

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