第三駅 喉黒駅
《のどぐろ》
!!!
え?なに!?
後ろの方だ。
行ってみよう。
悲鳴を聞きつけ
俺達は連結部の方へ向かった。
おい、どうした?
な、ナンデモねぇよ!
でも今、大きな悲鳴が……。
ナンデモねぇっつってんだろ!
わかったらあっちいけ!
……ん?
俺はリーダー格の
恰幅の良い男の姿が見えない事に
ふと気づいた。
おい、あのトサカはどこ行った?
チッ!
いい加減、首突っ込むなって言ってんだ。
痛い目見ねぇとわかんねぇのか!?
あん?
もう、いいよ。
行こうよ大毅。
首突っ込まれたくないなら
でかい声出すんじゃねぇよ。
……悪かったな。
行こう。
……ユウジ……オマエも見たよな?
……何がだ?
とぼけんなよ。
ここの座席にあった
『左手』だ。
……。
ロレックスとオメガ。
両方を巻いてた。
あれは間違いなくタケちゃんの……
スグル!!
ビクッ!
どこにそんなものがある?
いや、気がついたら
いつの間にか
無くなっちまってたけどさ……
けど、確かにそこあった。
座席の上に。
俺は見てない。
そんなものはなかった。
嘘つくなよ!
オマエも一緒に驚いてたじゃないか!
『左手』があったら
どうだって言うんだ?
え?
タケちゃんがどこに行ったか
分かるっていうのか?
……いや、何かの手がかりになるだろ?
『左手』だけがここにあって
タケちゃんがまともな状態だと
思うのか?
うっ……
実際、その『左手』も無いんだ。
最初から無かったと思ったほうがいい。
きっと幻覚か何かだ。
〜〜〜っ。
ともかく、次の喉黒で降りるって言ってたんだ。別の車両から降りるつもりで他の車両に移ったかもしれない。
まぁ……。
確かにタケちゃん
そういう所あるもんな……。
フラっとどっかに行っちまってよ。
それでいて、1人でどっかのチームを
のして来ちまってよ。
ああ、そうだ。
あの不死身のタケちゃんだ。
ただどこかをうろついているだけさ。
はぁ……。
なんか変な雰囲気になっちゃったね。
せっかく柚葉が
面白いフィールドワークを
考えてくれたのにな……。
オシマイに……しよっか……?
そうだなぁ……。
アタシの勝ちで。
ちょ、まて、こら!
だって、大毅はまだ探し中でしょ?
あ、いや、確かにそう言ったけどさ……。
……あ!
『大黒駅に気をつけろ。』
『最初の犠牲者は先頭車両だ。』
その時、俺は
俺の心を強烈に惹きつけた
見出し広告を思い出した。
クックックッ……。
……な、何よ?
思い出したのさ。
俺がとんでもなく
週刊誌を買いたくなった見出しを!
柚葉、お前はその広告を見た時
『アタシの負け』と言う。
なにを―!
じゃあ見せてよー!
えっと……
俺はさっきの中吊り広告の場所を探す。
アソコだ!
アソコの裏だ!
こら!
走るなって言ってるでしょ!
俺は目的の中吊り広告の
下まで行って振り返る。
\くるっ/
へへへっ
『大黒駅オススメフーゾク店!』
『同伴出勤の決め手は先頭車両!』
あ……あれ?
場所を再確認するため、
隣の中吊り広告も見る。
『惨劇!金のトサカを持つ男!』
『山脚線ラーメンデータベース!』
『二枚舌!柔和な仮面の下に隠された素顔!』
ここ……、だよなぁ……。
どれどれ。
ダァー!
待て!ダメダメ!
いや、あの、……これは…その。
えー……。
ち、違うんだ、待ってくれ!
こんなんで週刊誌を
買いたくなるなんて
大毅、めっちゃチョロいわー。
あ…
ああ……
ああああ……
俺の失意の中、
列車は喉黒駅のホームへ入っていった。
喉黒〜喉黒〜。
お、今度はちゃんとあいたな。
連結部付近以外のドアから
乗車客がガヤガヤと乗ってくる。
……まったくもう、なんで私が……。
ナツキ……ナツキ……。
ほら、足元気をつけてね。
うん。
ほぁ〜。涼しいね。
喉黒〜喉黒〜。
おし、俺がタケちゃんが
降りてくるか見てくる。
頼むぜ、スグル。
俺は他の車両から移ってこないか見てる。
タケちゃん見つけたら合図出すから
ユウジもすぐ降りろよ。
あぁ。
タケちゃーん!
そう言いながら、浅黒い肌の少年は
列車のドアを飛び出した。
チラッ
『喉黒駅は羊の入れ替え。』
『乗るは新たな生け贄候補。』
『降りるは用済みの生け贄。』
タケちゃん、タケちゃん、と……。
降りねぇな……。
……てか、誰一人として
降りないな……。
どうなってんだ?
おい、ユウ……。
列車の方を振り返ると
そこには『ドア状の何か』が
列車の入口を塞いでいた。
ヒィッ!
た、助け……
助けを求めて仲間の姿を探す
浅黒い肌の少年。
しかし、そこで目にしたものは……
ニヤニヤ
な……なんで
笑ってんだよ……。
あばよ、スグル。
うわぁぁ!!
ドアが閉まると
車内の賑やかさを増した列車は
喉黒駅を出発した。
これまでと変わらず
車体を揺らして。
降車拒否
つづく