私たちは信号を渡り、
道路の向こう側へ辿り着いた。

ここから先は中学校まで長い坂道が続き、
そこをひたすら登っていく。


この辺りまで来ると、
同じ中学に通う生徒の姿も
多く見られるようになる。
 
 

間部 翔

…………。

落合 美琴

翔くん、
やけに周囲を気にしてる。
どうしたのかな?

おはよう、間部くんっ♪
……それと落合さん。

 
 
後ろから誰かに声をかけられた。
私たちは立ち止まって振り向いてみる。


するとそこには同じクラスの
女子3人がいて、
ニコニコしながらこちらへ歩み寄ってきた。

どうやら挨拶をしてきたのは上野さんみたい。
 
 

上野 里多

…………。

的場 麗奈

おっは~!

狭山 あゆ

ふたりとも、おはよっ!

間部 翔

……おはよう。

落合 美琴

お、おはよう……。

 
 
上野里多(りた)、
的場麗奈(まとば れな)、狭山あゆ――


この3人組はいつも連んでいて、
私に対して酷い仕打ちをする
主要メンバーと言っていい。

彼女たちは周りにバレにくい
陰湿な嫌がらせをやってくる狡猾さもある。



でもたまに表立って
私に何かをしてくることがあっても、
クラスの男子のほとんどは見て見ぬ振り。

ほかの女子は自分がターゲットになるのが
怖いからなのか、
見て見ぬ振りをしたり
たまに一緒になって色々としたりする。



翔くんみたいに間に入ってくれる
クラスメイトはほかにいないし、
いつも翔くんがそばにいるわけでもない。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
だから私は……
我慢するしかなかったんだ。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
私は何も悪いことしてないのに……
なんでこんな目に遭わないといけないの?

教えてよ、神様……。
 
 

上野 里多

2人で登校なんて珍しいね。

間部 翔

家が近所だし、幼馴染なんだ。
そういうことがあっても
おかしくないだろっ!

 
 
翔くんは強い口調で叫びながら、
私を庇うような位置へ
さりげなく体を動かした。

だから3人の姿は、
半分ほど翔くんの体で隠れて見えなくなる。



視線を翔くんに向けてみると、
彼の瞳は大きく見開かれ、
奥歯をギリギリと強く噛みしめていた。

まるで殺気でも放っているみたい……。
 
 

上野 里多

お、おかしくはないよ……。

的場 麗奈

間部くん、機嫌悪い?

間部 翔

……そんなことねーよ。

狭山 あゆ

私たちがお邪魔なのよ。

上野 里多

へぇ~、なるほどぉ。
そういうことかぁ……。

 
 
上野さんの目つきが一瞬だけ鋭くなり、
敵意を含んだ瞳で私を睨んでいた。

でもすぐににこやかな表情に戻って
的場さんや狭山さんと顔を見合わせる。



――その態度がすごくひっかかる。



だって今までにも何度も似たような
シチュエーションに遭遇してきているから。


その経験上、
あれは良からぬことを企んでいるに違いない。

自然と足が震えてくる……。
 
 

落合 美琴

あ、あのっ、誤解しないで。
私たちは
そんなんじゃなくて……。

上野 里多

じゃ、お邪魔な私たちは
退散するとしますか。
2人とも、教室でねっ♪

的場 麗奈

またあとで。

狭山 あゆ

じゃーねー。

 
 
3人は私たちを置いて先に行ってしまった。

何もされなくて、正直ホッとした。
私の取り越し苦労だったのかな?



そんな彼女たちの背中が遠く離れたころ、
翔くんは苦虫を噛み潰したような顔をして
小さく舌打ちをした。
 
 

間部 翔

アイツら……。
見ていて腹が立つっての!

落合 美琴

ど、どうしたの?
何か嫌なことでもされた?

間部 翔

今は何もされてねーよ。

落合 美琴

だったらダメだよ。
そんな言い方したら、
上野さんたちに悪いよ?

間部 翔

ミコ、お前は今まで
アイツらに――いや、
なんでもない……。

 
 
翔くんは何かを言いかけたところで
口を噤んでしまった。

直後、表情を緩めて私の頭を撫でてくる。
 
 
 

 
 

落合 美琴

翔くんっ!?

間部 翔

俺はミコの味方だ。
もう二度と
あんな悲しい想いは――

落合 美琴

っ?

 
 
そこまで言って翔くんは
明後日の方向を向いてしまった。


そして少しの間が空いてから
私の方へ振り返り、
温かな視線と笑顔を向けてくる。
 
 

間部 翔

さっ、学校へ行こう。

落合 美琴

う……うん……。

 
 
気のせいかも知れないけど、
翔くんは明後日の方向を向く直前、
涙を浮かべていたような……。


でもそんなこと、聞けないしなぁ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
私たちは中学校へ到着した。

校門の前には風紀委員の人や
生活指導の先生が立っていて、
登校する生徒たちに挨拶をしている。


そこを抜けて昇降口へ移動すると、
翔くんとは一度別れて
自分の下駄箱のところへひとりで向かう。
 
 

落合 美琴

っ!?

 
 
自分の上靴の入っている場所を見た瞬間、
様子のおかしさに気付いた。

なぜならそこから水が滴り落ちていたから。


私は恐る恐るそのドアを開けてみる。
 
 

落合 美琴

う……。

 
 
私の上靴はなぜかびしょ濡れになっていた。

しかも中を見てみると、
そこには溢れんばかりの画鋲が
山のように詰められている。


靴底にはご丁寧にもびっしりと画鋲が
刺してあって……。
 
 

落合 美琴

あ……ぅ……。

 
 
目の前が真っ暗になった。

全身から力が抜け、勝手に涙が溢れてくる。
胸が激しく締め付けられて、息苦しい。


もう堪えきれない……。
 
 

落合 美琴

……っ!

 
 
私はその場から外へ向かって駆け出した。


向かった先は校舎の裏手にある非常階段。
普段は立ち入り禁止になっているけど、
そんなのもうどうでもいい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
私は夢中でその最上部――
校舎の4階部分まで駆け上がった。
 

中学校は小高い場所に建っているから、
遠くまできれいな景色が見える。
吹き上がってくる風も心地いい。
 
 

 
 

落合 美琴

さよなら……。

 
 
私は手すりに手をかけ、そこを乗り越えた。


そしてそのまま空中へ向かって
倒れ込むように身を預けて――
 
 

 
 
 
次回へ続く……。
 

3回目(4) 繰り返す悲劇

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