それから程なくして、
私たちは神社の前を通りかかる。
ここが翔くんの自宅だ。

彼はこの神社の宮司さんの長男だから、
そのうち継ぐんだろうな。
もしかして神通力とか持ってたりするのかな?



そこを越えた先が都心部へと繋がる幹線道路。

この道は片側三車線で交通量も多く、
昼夜を問わず車やバイクが走っている。
だからここを横断するのは不可能だ。

でも学校へ行くには
ここを越えなければならない。


かといって近くには信号がないので、
私はここに架かる歩道橋を使って
いつも向こう側へ渡っている。


上り下りは大変だけど、
信号まで往復5分かけて遠回りするよりはマシ。

――と、思っていたんだけど、
今日はなんだか様子がいつもと違う。
 
 

落合 美琴

あれ? 歩道橋の階段の前、
ロープが張られてる。

間部 翔

そ、そうみたいだな!
何か工事でもしてるのかもなっ!
歩道橋が通れないなら、
今日は信号を使うしかないな!

落合 美琴

あ……うん……。
でも大丈夫そうだよ?
誰かの悪戯じゃない?

 
 
確かにロープは階段の出入口付近の
手すりと手すりの間に結ばれている。


でも『工事中』とか『使用禁止』とか
そういった案内の札みたいなものは
何も掲げられていない。

しかも作業員さんらしき人の姿もないし、
ちょっと不自然。


悪戯だって考えた方が自然だよ……。
 
 
 
 
 
 
 
 

間部 翔

と・に・か・く!
この歩道橋はダメだ!
特にミコは絶対に近付くな!

 
 
 
 
 

落合 美琴

そ、そうなの?

 
 
翔くんは階段の前に立ち塞がって、
すごく必死に叫んでいた。



そこまでして歩道橋を通りたくないのは
どうしてなんだろう?
彼は高所恐怖症――って記憶はないし。



嫌な予感でもするのかな?
渡っている最中に突然、崩落するとか?

私にとってはその方が好都合だけど、
それだと翔くんまで
巻き込むことになっちゃうか……。



――やるならひとりで勝手にやらないと。



いずれにしても、
これで歩道橋から飛び降りるって選択肢は
もう不可能かなぁ……。

そもそも翔くんが一緒だと
気が退けるっていうのもあるし。
 
 

落合 美琴

じゃ、信号へ行こっか。

ほっ……

間部 翔

良かった……。

落合 美琴

なんでこんなに安心してるの?

間部 翔

道路側は俺が歩くからな。
もし嫌だって言うんなら
手を繋ぐぞ?

落合 美琴

えぇっ!?

 
 
急に何を言い出すのっ!?

て、手を繋ぐってそんなっ!
付き合ってるワケでもないし、
通学中だし!



そりゃ、子ども時は何も考えずに
翔くんと手を繋いでいたけどさ。


今はそれなりに……意識しちゃうよ……。
 
 

落合 美琴

そ、それはさすがに
恥ずかしいよ……。

間部 翔

だったら道路側は俺が歩く。
歩道橋は使わない。
オーケー?

落合 美琴

う、うん……。

 
 
よく分からないけど、
迫力に圧倒されて私は同意するしかなかった。



翔くん、どうしたんだろ?
この道路に着いた途端、
すごく緊張してるみたいなんだけど?




なんか今日の翔くん、
少し――ううん、かなり変だ……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

3回目(3) 歩道橋を前にして

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