2816年

ボクは青空を

見たことがなかった

自然は破壊され

空は灰色の汚染物質で

閉じられ

地上から緑が失われて

時が経った

人々は地下に

シェルターを作ったが

ほとんどの人は入れず

地上で過ごしても

長く生きることが

できなかった

シェルター内では

それまでの環境を維持していたが

そこでも人は

思っていたよりも

長く生きられなった

他のシェルターとの

連絡は取れなくなり

ボクはボクの世話をしてくれる

アンドロイドたちと暮らしていた

柳之助

ネットにも人がいる
気配がない。

インターネットで、人間の気配を探ること。
それがボクの日課になっていた。

柳之助

今日もAIによる更新だけだな……。

人間がやったと思われるイレギュラーな更新はない。

柳之助

人間かもって思ってコンタクトを取ったら、人にきわめて近いアンドロイドだったし……。

もう、この世界に
人間はいないのかもしれない。

カナン

柳之助(りゅうのすけ)坊ちゃん。
そろそろ晩御飯の時間ですよ。

カナンに言われて顔を上げる。

柳之助

もう
そんな時間か?

カナンはボクの世話をしてくれるアンドロイドで、ボクが生まれた時からボクの傍らにいた。

肩に乗っているクロはボクが作ったネコ型ロボット。
カナンにプレゼントしたら、片時も離さないようになった。

カナン

はい。
夕方の6時です。

シェルター内では朝も昼もないが、時間は古くから使われていたものが使用されている。

人間が地上に住んでいたころの生活に合わせて、ボクの生活も決まっていた。

それが人間の体調を管理するのに適しているらしい。
カナンはボクの健康を第一に考えて行動している。

柳之助

わかった。
行く。

ほとんどのことをアンドロイドがしてくれるから、人間がいなくても困らない。

ボクは人間に会った記憶がない。

だから、同じ種族というものに会ったら、どういう気持ちになるのか、知りたいだけかもしれない。

カナン

マギーも待ってますよ。

椅子から降りようとしていたが止まった。

柳之助

なんで?

カナン

なんでと言われましても……。

柳之助

食事、
いらない。

ボクは椅子に座りなおして、パソコン画面を見た。
あいつにゴチャゴチャ言われるの、嫌だ。

キーボードを使って、中断していた研究をはじめた。

カナン

ダメですよ。
ごはんはちゃんと食べないと。

柳之助

食事時にあいつの顔を見ると、食欲がなくなる。

カナン

たしかに、ちょっと口やかましいかもしれませんが……。

柳之助

ちょっと?
すんごくだ。

カナン

マギーは坊ちゃんとお話がしたいだけなんです。

柳之助

ボクは話したくない。

カナン

マギーにそのことを伝えて、どこかに行かせますから、食事をとってもらえませんか?

柳之助

いらない。
お腹空いてない。

柳之助

しまった……

腹の虫は止められない……。

カナン

空いているようですね。
ごはんを食べに行きましょう。

そう言って、カナンはボクを持ち上げた。

柳之助

こら!
離せ!

カナン

柳之助坊ちゃんの
空腹の方が一大事です。

そう言ってカナンはボクを肩に担ぐと、リビングに運んだ。

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