窓ガラスに映されたのは、幼稚園の頃の私の記憶。

両親は共働きで、小さい私を家に置いていけないのは分かってたはずなのに、私はグズッてなかなか幼稚園に行こうとしなかった。


その度にお母さんに怒られてたっけ。

そして、その度に私はわんわん泣いてたんだ……

もしかして、これ……

私の記憶なのかな……

頭の中を探ってみても、真っ白で何も分からなかった。

まるで、この部屋のように。



そして、私の記憶を抜き出して映写しているかのような、窓ガラスのスクリーン。

じゃあ何故、私は自分の記憶を見させられてるんだろう?

ようちえん……いきたくないよぉ

わがまま言わないの!お母さんもお父さんも必死にお仕事してるんだから!!

ぐすっ……

あの時の私は、とにかく構ってほしかったんだよね……

お母さんたちが大変なの、分かってたのに……

スクリーンは更に上映を続ける。

時間は進み、私が小学校に入った後の記憶になった。

お前さ、ちっとも喋らないじゃん。遊んでてつまんないんだよ!

そんな……私は………っ

人と話すのが苦手で、ついつい言葉が詰まってしまう私を見て、周りの子たちは笑った。

陰口を言われたり、消しカスを投げられたり……
いわゆる「いじめ」というものだ。


怖くて、苦しくて、トイレや誰もいない家で静かに泣いてた。
学校の先生に話そうとも思ったが、それを通じて親にまで知られるのが怖かった。

この頃、嫌だったな……

誰かに助けてって言えなくて、一人で泣いてて……

苦しかったな………っ

どうしてだろう

いつからだろう


私の瞳からは、透明な雫が流れていた。


けれど、私はそれを拭おうとしなかった。

どうしても、スクリーンから目を逸らせなくて
手を動かすことさえ、億劫だった。

うるんでぼやけた視界の中で、砂時計の砂が不規則にこぼれるのを見た気がした。

pagetop