落合 美琴

お母さん、おはよう。

お母さん

おはよう、美琴。
朝ご飯とお弁当、できてるわよ。

落合 美琴

うん、いつもありがとね。

 
 
私は笑顔を無理矢理に作って、
感謝の気持ちを伝えた。

もちろん、その気持ちには嘘偽りがない。
いつも私のことを気遣ってくれていて、
すごく嬉しい。



でもその優しさが……私を苦しくさせる。



こんな優しいお母さんに
心配をかけるわけにはいかないもん……。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

落合 美琴

あれ? 誰か来たみたい。

 
 
その時、不意にインターホンの呼び鈴が
ダイニングに鳴り響いた。


――こんな朝早くに誰だろう?

近所で何かあったのかな?
お母さんも想像がつかないからなのか、
訝しげな顔をしている。
 
 

お母さん

はーい。

 
 
お母さんはダイニングを出ると、
玄関へ向かって真っ直ぐな廊下を
歩いていった。

私はダイニングのドアの影に隠れながら、
ちょっとだけ顔を出して様子をうかがう。


 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
玄関に着いたお母さんは、
まずドアに付いた覗き窓から外を確認。

その直後、すぐにドアチェーンを外して
ドアを開ける。
 
 

 
 
 
 

お母さん

おはよう、翔くん!
今朝はどうしたの~っ?

間部 翔

おはようございます。
ご無沙汰してます、おばさん。

落合 美琴

っ!? 翔くん?

 
 
ドアの向こう側にチラリと見えたのは、
間部翔くんの姿だった。


彼は私の幼馴染で、今はクラスも同じ。
小学校に入る前からの付き合いだ。

でも中学に入ってからは、
一度もうちに来たことがなかったと思う。
どうしたんだろう?


しかも学校とか外で会った時とかは
軽く話をするけど、
それ以外の交流はなかったのに。

メールやSNSでのやり取りだって
滅多にしないし……。
 
 

間部 翔

おはよう、ミコ。

落合 美琴

っ!

 
 
翔くんは隠れていた私を見つけ、
目が合った瞬間に笑顔で挨拶をしてきた。



――なんだろう、いつもと印象が違う。


目つきも雰囲気も笑顔も、すごく優しい。
ただ、少しだけホッとしているような
そんな空気もあるかも……。

いつもはもう少しガサツっぽいところが
あるんだけど、
そういうのが全く感じられない。
 
 

お母さん

美琴、挨拶を返しなさい。
翔くんに失礼でしょ?

落合 美琴

あ……。
お、おはよっ、翔くん!

間部 翔

ミコ、
今日は一緒に学校へ行こうぜ。

落合 美琴

え……?

 
 
私はドキッとした。

だって一緒に学校へ行くってことは、
ずっと隣に翔くんがいるわけで……。



今日――5月9日は私の誕生日。

いつも変わらない日常だからこそ、
決心をするにはいいきっかけだと思って
ある程度の覚悟を決めていたのに。




でも翔くんがいたら行動に移せないよ……。




本当は断りたい。
でもその理由が思いつかない。
無下に断ったら不審に思われるし……。

どうしよう……。
 
 

間部 翔

ダメなのか?

落合 美琴

そ、そんなことないよっ!
うん、でも朝食これからだから
少し待っててもらってもいい?

間部 翔

あぁ、もちろん!

お母さん

だったら、翔くん。
上がって待ってたら?
お茶くらいは出すわよ?

間部 翔

いえ、お構いなく。

 
 
結局、私は断り切れず、
翔くんと一緒に中学校へ行くことにした。


それにしても、今日に限ってなんなの?
翔くん、一緒に学校へ行こうって
わざわざ家にまで来て誘ってくるなんて。



その気持ちはもちろん嬉しい。
でも今の私にとっては、
タイミングが悪すぎるよ……。
 
 

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
……本当に私はツイてない。
 
 
それとも神様たちは、
私の決意を
認めてくれないってことなの?
 
 
 
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

3回目(1) 神様たちの妨害?

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