友達と大教室で授業を受けていたら、近くで別の男友達と講義を受けていたタツキが私の元にやってきた。
ミーユ。部室いこ!
友達と大教室で授業を受けていたら、近くで別の男友達と講義を受けていたタツキが私の元にやってきた。
うん!
同じ大学に運よく進学できた私とタツキは、高校の時と変わらず、仲良くいい関係で付き合っている。学部も同じ、教育学部。
私たちの夢は偶然にも、先生だった。
もっと詳しく言うと、私の夢は小学校の先生になることで、タツキの夢は高校の国語の先生になることだった。
学科は違うけれど、教育基礎など学部で共通の授業があり、いくつか同じ授業があって、たまに一緒に講義を受けたりもしている。
友だちには、仲良しカップルと呼ばれていた。
二人で部室に行ってみると、珍しく誰もいなかった。
貸切だ!珍しい
タツキはそう言うと、ソファーに座って伸びをする。
ミユ、おいで
そして、私に微笑んで手を差し出した。
ん
私は、ソファーに座るタツキの元へ抱きつくようにダイブした。
タツキの香りが、ふわっと鼻先に香る。この香りを嗅ぐと、いつも胸にきゅっとここちよい痛みがはしるのだ。
ミユの歌……聞かせてよ
私は、サークルではピアノを習っていたので、主にキーボードを担当していたけれど、たまに、ごくたまにヴォーカルをすることもあった。
タツキはギター。高校生の時からコツコツ練習していたらしく、私はよくわからないけれど、タツキは相当うまいらしい。
置いてあったアコースティックギターをケースから取り出して、タツキは音を奏で始める。それは私がよく鼻歌で歌っている曲だった。
えっ、タツキこれ弾けるの!?
ミユがよく歌ってるから……練習してみた
そう言ってはにかむタツキを見て、やっぱり好きだなあと思う私は重症だろうか。
タツキが笑うたびに、いつも私の胸はきゅっと締め付けられる。
ほら、歌って!
タツキの柔らかなギターの音色に合わせて私は歌った。
音は空気に溶けて、窓からすっと出て行った。
私たちは何度もこの部室で歌った。観客がいるときも多々あって少し恥ずかしかったけれど、ステージをこなすうちに人に聞いてもらうことも徐々に慣れてきた。
俺さ、今度この歌やりたい。ほら、最近流行ってる
あ、その歌私も好き
タツキの言った歌は、最近人気上昇中の女性シンガーソングライターで、力強くも優しい声音を持つ歌手が歌う、ラブソングだった。
街中でもよくこの曲が掛かっている。
ミユが歌うんだよ?
え?私が?
だって俺、ミユの歌声好きなんだもん。なんか、優しくて
……ありがと
私はいつも、タツキのために歌っているんだよ、と言おうと思ったけれど、ちょっと照れくさくて言うのをやめた。